宝条小太郎は犬である。【宝条美咲シリーズ】
吾輩は犬である。
名前は小太郎というでし。
あと、我輩とか調子こいてみたのは単なるノリでし。ボクは純粋でカワユイ、ボクっ子童顔愛玩犬という設定でし。なんかたまーに会う長女の美咲おねいちゃんが、そんなカンジのショーセツとかいうのがあるって言ってたような気がしなくもないでし。
ボクは宝条家に迎え入れられて早六年になるでし。「人間に直したらオッサンだねー」とか、ボクがまだ小さかった頃にしこたまイジメやがった(注:躾です。虐待ではありません)次女の美雪が言うけど、ボクはボクのままなのでし。
ちなみに、この語尾に付いてる「でし」っていうのは、ボクが小さかった頃に、美鶴ママンが書いていた「ペットブログ」とかいうヤツの設定らしいでし。ボクっ子設定もこの頃付けられたでし。
ちなみに、今はそのブログとやらはやってないでし。飽きたらしいでし。美鶴ママンらしいっちゃあ、らしいでしね……。
今は、久しぶりに美咲おねいちゃんがお家にいるので、ボクのキチョーなお昼の睡眠時間がガリッガリ削られてるでし。
何故か、美咲おねいちゃんの中では、ボク=かまってちゃん、という設定が出来上がっているらしいので、お昼はシゴトとかいうボクより大事らしいそれに行っちまう司朗(いちおうシローは美咲と美雪のパパンらしいのだけど、二人いわく「まだお」というヤツらしーので、シローのことはボクもシローでいいと思うでし。実際、シローは「マジでダメなオヤジ」でし)や美鶴ママン、美雪と夜に遊ぶ(正確に言うと、これもボクが「遊んでやっている」だけでし。ボクは愛されるべき愛玩犬なので、ぶっちゃけクッサイ毛布をガジガジする遊びとかウンザリだけど、しかたな~く、付き合ってやってるのでし。ボクって優秀な愛玩犬でし)ための体力が適度に残るように、美咲おねいちゃんのこともかまってやるのでし。
美咲おねいちゃんは、他の三人とは違って、マイルドな遊び方を心得ているので、ボクも楽といえば楽なのでし。……油断すると、「ナデナデおねだり」を忘れそうになるので、美咲おねいちゃんの「まじっく・なでなで・はんど」は油断ならんのでし。
さて、いつもなら、ボクは昼間はヒマなので、オウチの中でぐーすか寝てるところなんでしけど……今日は美咲おねいちゃんがいるので、休憩ナシで「愛玩犬」を演じなければならんのでし。これは困った……というか、最近美咲おねいちゃんずっとウチに居るんでしけど、何企んで……まさか! ボクのお家を乗っ取りにきたでし!?
そうとわかれば、ボクは昼間に与えられた「カンシニンム」を遂行しなければならんでし……。
……美咲おねいちゃんをカンシし始めてからわかったことは……。
美咲おねいちゃんは昼ごろにだらだら一階に下りてきて、ボクをひたすらかまい倒してから、「おてつだい」とやらをしているらしいことでし。
あと、ボクの食生活に厳しいでし。無駄に厳しいでし……。ボクの主食らしい、くっそマズイエサを、無理やり食わせようとしてくるでし。どーぶつぎゃくたいでし!(注:違います)
そんな美咲おねいちゃんでしが、この豚一家の家畜どもとはひとつだけ、違う一面をもっているでし。
それは……。
なんと、ボクを散歩に連れて行ってくれる……違った、ボクの散歩についてきてくれるのでし。ほかの豚どもはボクの水の変えないし(ボクは「ぐるめ」な愛玩犬なので、新鮮な水しか口にしたくないのでし)、散歩とかガキの頃以来だったでし。
しかも、美咲おねいちゃんは、なぜか散歩の心得を熟知しているようで、「かんきょう」に気を配ってボクのオトシモノを拾うし、アブナイどーろを通るときにはきちんとボクに声をかけるのを忘れないのでし。……たまに関係ないことも話しかけてくるけど、それはボクの知ったことではないのでし。
そして、お散歩の後のジャーキーの事を考えると……ゲヘヘ……おっと、よだれが……シローのズボンで拭いとこ……。
そんなわけで、ボクは、美咲おねいちゃんがこの家で過ごすことを黙認することにしたのでし。
吾輩は愛玩犬である。
この、どーしよーもないだらけた一家の、きらきらと輝くアイドルなのでし。
*****
「ねぇ、ママ」
私、宝条 美咲は、司書の仕事を休職することになり、その間に「療養」という名の食費その他の節約のために実家に戻っている。
もちろん、この家では「働かざる者食うべからず」。なので私は、家事の一部と、腐海の森を化している妹・美雪の部屋の掃除兼、手芸用アトリエ改造計画の手伝いをしている。
そんな私は、妹の部屋にあった、とある段ボール箱を整理している途中で、とあるものを見つけてしまった。
……人によってはそれを「黒歴史」と呼び、人によっては「過去のネタやプロットの下書き」と呼ぶであろうノートだ。
更にあろうことか、美雪のソレは、「現在進行中のソレ」のようで……。我が家で飼っているパピヨンの小太郎の目線で、ウチに引き取られてからの事が詳細に綴られているのだ。
……このノートは処分したほうが良いのか判断にあぐねた私は、母である美鶴にそのノートを見せることにした。ちなみにこの母、趣味は娘の学生時代の文集や作文を読むことだというのだから、性質が悪い……。
ノートの内容を、時間をかけて読み終えた(ちなみに私は速読ができるのでこのノートの中身を読むのに数秒もかからなかったけれど、あまり読書の習慣を持たない母には結構な時間が必要な分量だったようだ)母は、目じりをあかぎれでひび割れた指で押さえながらこう言ったのだった。
「元の場所に戻しておきましょ……ぶっくふふふ……うっわ、涙が指にしみる! いったぁぁぁ!」