第1章 彼女の初日はロッカーで。(前編)
「緊張するよぉ…」
誰もいない教室の中心で愛を…ではなく呟きを漏らす少女――大久保実華――は、忙しなく辺りをキョロキョロと見渡す。その行動は、盗みを働く泥棒のようだ。
しかし、落ち着けと言う方が無理なのかもしれない。なぜなら今日こそが、彼女の高校生活のデビュー戦なのだから。
「ま、まずは笑顔よね。うん、笑顔…」
鏡を取りだし、笑顔の練習を始める。
実華の歪な作り笑顔が映る鏡の片隅に、黒板の日付が見えた。
――四月二十八日(金)
ちなみに、この学校の始業式は四月三日に行われた。
だが、実華が登校するのは今日が初めてである。
日付を見て、実華は重い溜め息を付く。
「何で…私…」
溜め息の次は、乾いた笑い。実は彼女、始業式当日に事故を起こしてしまったのだ。よって、他の人が校長の長い話を聞いている間、実華はベットで寝ていたワケである。「何で事故っちゃうかな…」
ある意味奇跡だよね、とぼやきながら時計を見れば、そろそろ少し早く登校してくる生徒が来る時間になっていた。(実華は緊張しすぎて二時間以上早く来てしまった)
実華の心臓の鼓動がさらに早くなる。それに便乗するかのように、
「何? も、もう来ちゃったの?」
足音が聞こえる。実華のクラスである1ー3は廊下の1番奥にあるため、どんどん近づいてくる足音の主は、クラスメイトの可能性が高い。
「どうしよ…まだ心の準備が…」
実華は動揺し、あたふたと周りを見て――
「か、隠れなきゃ!」
――掃除用具を入れるロッカーに身を隠した。別に隠れる必要などないのだが、それを考える冷静さは今の実華にはない。 実華がロッカーに入ったのと同時、教室のドアが開かれる。
(まだ1時間以上余裕があるのに、こんな早く登校してくるせっかちさんはどんな顔よ)自分のコトを棚にあげ、実華は隙間からクラスメイトの顔を確認し…「おぉ!?」思わず声を出した口を抑える。幸い、クラスメイトは気付かれなかったようだ。実華は、再び隙間から覗いた。(男のコ…だよね?)男子の制服を着ているのだから、確実に男子なのだが…それでも、なかなか確信ができない。なぜなら、少年は美しすぎたのだ。何もかもが。太陽の光を吸い取っているように見える、白い肌。その肌で際立つ艶のある黒髪。マスカラではなく、自然なままのはずのまつ毛は長く、茶色の瞳を大きく見せる。(あれ? どうしたのかな?)




