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9、残念な美形がやってきた

おかしい、こんなキャラになる予定はなかった。

 そーっと、音を立てないように馬小屋から離れる。

 二歩目で、後ろから腕をつかまれた。

 しまったぁーっ!

 思い切り音を立ててドアを閉めたたんだった。あの音じゃ、起きるよね!

「探したぞ、命の恩人の少年よ!」

 青年は感極まったのか、ハグしてきた。

「ぎゃーっ!」

 思わず悲鳴を上げる。

「おお、すまない、驚かせたようだ。お礼をしにに来たぞ、命の恩人よ!」

 青年は、端正な顔にさわやかな笑みを浮かべて両手を広げた。

 まるで映画俳優並みの顔とスタイルの青年だが、頭に干草がついているのを見つけ、毒気を抜かれた。

 年齢は、30歳になるかならないかに見える。ということは、実は20代前半だろうか?20代の男が頭に干草。

「ぷっ。くすくす」

「少年、笑うくらい嬉しいか?」

 違うし。

「あたま、ついてる、くさ」

「え?頭はちゃんと胴体についてるぞ?臭いか?」

 ぶっ。

「ちがう」

 手を伸ばして、頭についてた干草を取って見せる。

「ああ、草が、頭に付いてると言いたかったんだな?少年の言い方は分かりづらい」

「ことば まだ へた。れんしゅうしてる」

「そうか、そういえば、初めて会ったときは会話できなかったな。言葉が分からなかったのか!それは、すまない。しょうねん、わたし、いうこと、つたわるか?おれい きた、」

 わ、笑わせないでー!何、何この人ー!!面白すぎる。

「きく、だいじょうぶ。あなた、ふつうにしゃべる」

「お、おお、そうか。普通にしゃべってもいいのだな。少年よ、名をなんと申す?」

「リエス」

「そうか、私は、ラトと呼んでくれ。特別だぞ。ラトと呼ばせるのは」

 特別、遠慮したい。というか、何故特別?

「リエス、早速だが、命を助けてくれたお礼に欲しいものはないか?」

「いらない」

「ん?いらないとはどんな品だ?食べ物か?いらない、いらない、聞いたことないな。」

 大変残念な美形って、いるんですね。

「まさか!いらないというのは、欲しくないということか?」

 ラトは「がーん」という効果音が聞こえそうな顔をした。。

「まるで、ユータのようなことを言う、リエスはユータとどういう関係だ?」

「ユータ、しらない?だれ?」

 そういえば、怪我をした時に何度か口にしていた名前だ。

 ラトは山小屋に視線を移す。

「小屋の管理をまかせていた者だ。私の兄のような存在だった。」

 管理を任せていた人?この言い方だと、この小屋の持ち主はラトってこと?

「ユータ、どうした?」

「5年ほど前、突然姿を消してしまった。ユータはふらふらと1人で出かけることがよくあったが、3ヶ月もすれば戻ってきていたのに。5年も戻ってこないということは、たぶん帰ったんだと思う」

「かえった?」

「ああ。ユータは別の国から来たのだ。自分の国に帰ったんだと思う。」

「じゃぁ、いま、こや かんりするひと いない?」

「そうだ」

「わたしに、かんりさせて、おれい、それがいい」

「お礼に、この小屋の管理人になりたいというのか?それは構わない。が、そんな程度じゃ少しも私の命を救った代価に足りぬ。分かった。お礼の品はゆっくり考えてくれ。じゃぁ、わたしは時間なので帰る。小屋は好きに使ってくれ」

 ラトが口笛をピィーーッと鳴らすと、馬が駆けてきた。

「じゃあ、また来る」

 来なくてもいいですよ。と心の中で返事をする。

 ラトは馬に乗り、馬の腹を蹴った。

「そうだ、小屋は好きに使ってもいいが、ユータが怒るから靴は*******」

 走り去りながら言われても、何言ってるのか最後の方が聞こえません。ユータが怒るから靴は???

 いちいち、何かが抜け落ちた男だな。

 でも、ラトには感謝しなくちゃ。これで、正式に小屋に住む権利を得ました。馬小屋間借り生活ともお別れです。

 いや、お別れは、明日にしよう。今日は、もう疲れた。5年も放置された小屋の掃除とか考えただけでも気がめいる。

 簡易シャワールームでシャワーを浴びながら、小屋に風呂を作ろうと思った。酒樽、あれ、風呂桶代わりになるよね。

 日課となった、メールチェックを済ませると、ハイジのベッドに横になる。いつもと違う匂いがする。ああ、さっきラトが寝ていたからか。男の人の匂いだ。酒樽、どうやって運ぼう。山道を通ればだいじょうぶかな?山道、どこへ続いているんだろう。ラトはどこから来てるんだろう。

 色々と考えているうちに、寝てしまった。


 翌日、私は反省した。

 ラト様、もう来なくていいなんて思ってごめんなさい。早く、来てください。

 色々ききたいことが山ほどあります。


 山小屋の扉を開けると、長年締め切っていたため、もわっとしたかび臭さが鼻をついた。

 まず、窓を開けて空気を通さないとなぁ。

 目が慣れて、入り口から差し込む光で、中の様子がうかがえるようになると、足の力が抜けた。

 暫く、座り込んだまま動けなかった。

 土間があって、上がり框があって、板間がある。中央には、囲炉裏が。そして、窓には内障子がついていた。

 ラトが最後に言っていた言葉「ユータが怒るから靴は脱いで上がるように」に違いない。

 ユータは、雄太ですか?悠太ですか?

 

 明らかに、小屋の内部は日本っぽかった。

 5年前に姿を消したというユータ。国に、日本に帰れたのだろうか。

 

 ラトに尋ねたい。ユータは、私のように髪が黒かった?瞳も黒かった?

 それから……

 ラトには今度いつ会えるだろう?


 衝撃から立ち直ると、早速掃除を開始した。

 窓を開け、空気を入れ替える。障子に見えたものは、和紙ではなく布が貼ってあった。

そういえば、この世界に来てから紙を見たことがない。甘味料のように貴重品なんだろうか?それとも、単に識字率が低いので必要性がないのだろうか?

 囲炉裏の、鍋をかける金具には、わざわざ木彫りの魚がつけてある。ユータさんは、随分凝り性だったんだろうか?1人異世界で、日本への郷愁がそうさせたのだろうか?何の草を使ったのかは分からないが、ゴザまで作ってあった。

 そういった小屋の中の品々を見ていると、ユータという人物についてますます興味が湧いてくる。

 どれくらいの歳で、どれくらいこの世界にいたんだろう?どうやって、帰る方法を見つけたんだろう?


 半分くらい掃除が終わったところで、マーサさんの店に行く時間になった。

 カバンの中から、バルサンを取り出す。独り暮らし女子の、突然のGブリ来襲への備えその3です。その1、その2もあります。

 バルサンを焚いて、小屋を後にした。


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