63 資金提供の結果
結局、私とサマルーが食事を食べ終わるまでシャルトは食堂に来なかった。
「まぁ、商人に捕まっているんでしょうね~」と、サマルーが愉快そうに声を上げた。
いや、商人に捕まるって愉快じゃないよね?
次に、サマルーが街の人たちへ渡す協力金の準備をしてくれた。あらかじめ、金貨では使いにくいだろうから銀貨で用意してもらえるように頼んでおいたか、見てびっくり。
「いくらあるんですか?」
私一人では到底持ちきれない体積があった。もちろん、銀なので重さもすごいだろう。
どうやって運べばいいのかと思ったが、金額が金額なだけに護衛付きで馬車で街まで運んでくれるそうだ。
てなわけで、今日は馬車で街へ送ってもらえることになった。楽チンでいいわ。
と、思ったけれど、護衛の人には薔薇リエスの姿しか知らない。困った。とりあえず、メイク落として、ウィッグアンドベールで行動する。
護衛の人は馬車に残し、女将さんの店に行く。途中ベールとウィッグを取ることも忘れない。しかし、不便だ。
女将さんにキュベリアから資金提供があると伝える。はっきりと金額を聞いていなかったので、銀貨にして、これくらいの量だと、身振りで伝える。
「そんなにかい?ありがたいけれど、正直なところ困っちまうねぇ。分配などで揉めても困るし……」
まぁそうだなぁ。人間、大金を前にすると人が変わっちゃうこともあるしね。
ほら、宝くじの高額当選者って、意外と不幸になるとか言うし……。
吾妻さんからの1000万も、通帳の数字じゃなくって、札束見せられたら私も眼が¥マークになってたかもしれない。
「リエス、時間あるかい?もしお願いできれば、そのお金で近隣の村で買い付けに行って欲しいんだ」
時間かぁ、今は昼を少し過ぎたところ。今日はもう予定はないはず。護衛についてきてくれた人も、時間がかかってもいいから、帰りもリエスを送ってくるようにといわれていたから大丈夫なはずだ。
ただ、また急に状況が変わって探させるのも悪いので、迎賓館には遣いをお願いした。私の帰りが遅くなること、何かあれば女将さんに連絡をしてくれるようにと。
「それで、何を買い付けてくればいいのですか?」
「薪だよ。紙作りで、思いのほか消費しちまっててね。街全体で品薄なんだ。このままじゃ、王都の薪の価格が上昇してしまうほどに。蝋燭は、無くたって使わなければ済むんだけどね。薪は、毎日の生活に欠かせないものだから」
ああ、そうか。そりゃそうだ。
紙を煮込むのに大量の薪を消費する。
王都は緑が多いといっても、山にあるわけじゃない。山に入って薪を拾ってくるわけにもいかない。
日々の生活で、薪は欠かせない。今は寒さをしのぐためには必要ないが、しかし食事を作らないわけにはいかない。
しかも、この世界では一般の人は馬車が使えない。となると、薪を近隣の村から買い付けるにしても、一度に運べる量は少ないし時間もかかる。下手をすれば、数日の間に王都に深刻な薪不足が起こっても仕方がないのだ。不足すれば価格が上がる。価格が上がれば、買えずに飢える人も出てくる。お祝いのために人が苦しむのでは本末転倒としかいいようがない。
「分かりました。買えるだけ買ってきます」
トラブルにならないように、元々王都で薪を扱っている商人に案内を頼み、馬車に乗り込んで出発。
3つの村を回り、それぞれに買い付け、運搬をお願いする。4つ目の村では、馬車に詰め込めるだけ薪を詰め込んで王都へと引き返す。
「明日、王都でチュリ様を祝う祭があります。そのための準備に薪が必要だったので、一時的に需要が高まっただけにすぎません。今後は通常通りになります」
ということを村では念を押しておく。だって、商機だ!と無駄に薪を溜め込む人が出たらかわいそうだもん。
まぁ、今後紙の生産をどうするかっていうところまでは、私の知ったことじゃないからね!
王都まで戻ると、すでに日が落ちていた。薪のことは商人と護衛に任せて、女将さんのお店で軽く夕食を取る。
その後、準備の様子を見ながら、紙は燃えやすいので火事に気をつけることを伝える。
準備は実に順調に進んでいるようだ。紙作りは終り、今は組み立て作業に入っている。
「じゃぁ、明日本番前にはまた来ますね!」
「ああ、本当にありがとうね、リエス」
「いいえ、こちらこそ参加させていただけて本当に助かります。あ、そうだ、明日なんですけど、知り合いの人に荷物を一つ渡して欲しいんです。女将さんのお店まで取りに来てくれることになっているんですけど……誰か、お願いできますか?」
女将さんはもちろんいいともと、うなずいた。酒飲みのために明日も店は開けるらしい。給仕の娘がいるから頼んでおくと言ってくれた。
「ありがとうございます!」
女将さんから、護衛の人たち用の軽食を受け取るり店を後にする。
馬車に戻る時に、ウィッグとベールを着用。ああ、めんどくさい。
明日送ってもらえるなら、トゥロンに頼みたい!
……トゥロンごめん。一瞬でもアッシー的な扱いしちゃって。
迎賓館に戻り、部屋の扉を開けてぎょっとする。
「うわ、何この量……」
私が購入した生地が積み上げられていた。
「こんなに買ったっけ?」
10の店があって、一つの店から1~3。ああ、これくらいにはなるのか。
テーブルの上に、ピラミッド型に詰まれた反物。
マーサさんたちへのお土産というには、流石に多すぎるよねぇ。どうしようかな。
一つを手に取る。ウールっぽい生地で、割とふかふかしてる。
「そうだ!いいこと思いついた!」
ああ、疲れてきたのか、独り言多いな。まぁいい。
カバンの中から、吾妻さんへのお届け物を取り出す。
色々考えたんだー。プチプチ巻いた後どうしようか。木箱に入れるか、酒樽に入れるか。
どうすれば、オーパーツとばれないように、自然に荷物を託すことができるのか。
もちろん、吾妻さんが手配した人が荷物をほどいて中を見るとは思わないけれど、パッと見て不審な状態じゃぁまずいでしょ?
と、いうわけで、反物状にくるくる丸めてある生地を広げて、携帯を芯代わりにもう一度巻きなおす。
もちろん、見えないように両端をきゅっと絞るように。
「いいんじゃない?反物を全部広げて見る人いないだろうし。何と言っても布だからクッション性もあるしね!」
それから、くるくると巻けないタブレットは、折りたたんだ布の中に隠す。
折りたたんだ布の上に携帯入りとスマフォ入りの反物を4つ載せて、紐で3箇所くくる。それを風呂敷程度に切った布に包んで荷物の出来上がり!
いいんじゃない?生地を運んでもらうようにしか見えない。鶴の恩返しで、じっさまが街に反物を売りに行く姿を想像しちゃった。この風呂敷っぽさがそう思わせるのかな?まぁいっか。




