53 旅一座たちの協力
一拍置いて、サマルーから返答がある。
「あの方たちの役目は終りました。後はキュベリアへ帰るだけですから、構いませんよ」
サマルーの目の端には、何かの思惑を浮かべるような光が宿っている。
「リエスさん、何かお祝いを思いつたいのですか?」
シャルトの言葉に首を横に振る。
「いえ、相談して考えます」
成功するかどうかわからない話をして期待させる気はない。それに、やっぱり隠し玉は隠してこそだ。
「そうですか……リエスさんならきっとすばらしいアイデアが浮かびます!」
期待しないで~。
うん、でもとにかく許可は得た。
何度も言うようだが、3日しかない!
「では、早速相談してきます!」
食事を一足先に終えると、部屋を後にする。
かなり行儀が悪い行為だけれど、キュベリア使節団もゆっくり食事をしている暇はないことは承知の上だ。サマルーたちも、必死でチュリ様の快気祝いについて頭をひねっている。
別室で食事を取っていた旅芸人さんたちは、突然部屋に現れた私に注目している。
「3日後にチュリ様の快気祝いが行われることになりました。そこで、皆さんにお願いがあります」
旅芸人さんたちは、食事の手を止めて私の言葉に耳を傾けてくれた。
縄跳びやその他の道中の交流あってのことだろう、私のような小娘の言葉に、きちんと聞く耳を持ってくれるのは。
「旅慣れた皆さんだから、お願いしたいことです」
大まかな説明をして、頭を下げた。
私の話の途中、みんな一言も発さずに聞いてくれる。
「華のリンドウ一座は協力するよ!な、皆!」
「もちろんだとも、平和あってこその旅一座だ!」
縄跳びで曲芸を披露した旅芸人さんたちが協力を申し出てくれた。
それが引き金となったのか、次々と声が上がる。
「ガンダ座も一枚かむぜ!」
「我々も、こんなにワクワクする話に参加しない手はないぜ!」
「まったくそうだ!歴史を動かすってことだろう!この紅サラマンが請け負うぜ!」
これで、キュベリア使節団に同行していた5つの旅芸人一座すべてが協力してくれることになった。
「ありがとうございます。では、明日には出発できるように、準備を」
再び頭を下げる。
「出立の準備は5分もあればできるさ!いろいろ準備がいるんだろう?手伝うよ!なんでも言ってくれ!」
顔を上げ、そして再び頭を下げる。
「ありがとう……」
うわーん、涙で目がにじむよぅ。
「お礼言うのはこっちだよ!平和な世界目指してがんばろうぜ!」
旅芸人さんたちにも、キュベリアとグランラの同盟が、西の大国アウナルスとの戦争回避に大切だという考えが浸透している。
自分達の芸で、ガンツ王に同盟を考えさせると息巻いて今回参加しているのだ。
「では、街に出ます!」
私は、みなの前でウィッグを脱ぎ捨てた。
「10分後に門で落ち合いましょう」
自室に戻ると、化粧を落とし、街へのお出かけ用の定番となりつつあるメイド風の服に着替える。髪をなんちゃってお団子にして準備完了。
いや、違う。必要なもの、必要なことを整理するために、メモを用意する。あっというまに集合の時間。
迎賓館に残って出立の準備をするものもいたので、各団体から3~5名、総勢20名ほどの人間が集まった。
街へは徒歩で移動することになった。移動しながら、色々と説明し、指示を出す。
「大きな鍋と、煮炊き用の薪だね、ガンダ座が請け負った!」
「米というのかい?この生産農家に、米の干し草、藁っていうんだね?それがないか確かめればいいんだね?よし来た、まかせな!」
「木枠を作ればいいんだな?それに糸を巻きつけるのか。芸の小道具作りで慣れってからよ!」
「しかし、話を聞くとグランラの王都の人間はすごいな。光の街を作り出すなんてよ!俺らは、その主催した人間を探し出せばいいんだな!」
「たけひごか、それに似たものを用意するのは私達の仕事ですね」
それぞれが、手際よく仕事を分担してくれる。本当に、ありがたい。
「商業地区と住居地区の境目に噴水広場があります。そこを中心に動こうと思います」
「了解!」
商業地区が見えてくると、足早に解散してそれぞれが目的を果たすために動く。
私は、まずは街の様子をチェックしつつ、光の街の首謀者探しに参加する。
火はすっかり沈み、夕飯後の時間ということもあり、街には人の姿はまばらだ。明かりが外に漏れている建物に近づけば、人の声が聞こえる。飲み屋のようだ。
ひょっこりと顔を出すと、店の女将さんが「いらっしゃいっ」と元気に声をかけてくれた。ああ、この感じ。懐かしい。マーサさんたち元気かなぁ。
「ごめんなさい、客じゃないんです。あの、人探しをしていて……」
「おや、あんたみたいな若い娘が、飲み屋で人探しとは、飲んだくれ親父でも探してるのかい?大変だねぇ」
いやいや、アラフォーですから、若くないですよと、心の中でつぶやく。
「いえ、あの、ガンツ様とチュリ様のお子様がお生まれになったときに、街を上げて光のお祝いをしたとうかがいまして」
と、女将さんに言うと、四方から声がかかる。
「なんだ、嬢ちゃんはよそ者かい?あれを知らないのかー」
「すごいんだぞ、おらっちも一家総出でお祝いに参加したけどよー」
「大興奮だよなぁ!下手な祭よりも盛り上がるぞ」
酒を飲んで陽気な人たちがひときわ明るい声を出す。
ああ、本当に街を上げて盛り上がってるんだね。
「それで、今度のお祝いの計画を相談できる人を探しています。まとめ役のような人をご存知ありませんか?」
「何だ、何だ、嬢ちゃんも参加したいって話かい?なら大歓迎だよ」
「今度のお祝いって、5人目懐妊の話はまだ聞かないがなぁ」
どうしようか、この話は街に広めてもいいんだろうか?
ちょっと考える。チュリ様の様子を思い出す。きっと、国民に顔を見せるということが覆ることはないだろう。
私の言葉に、飲み屋は騒然となった。