41 王との謁見
次は、すり鉢でごーりごーり。ミキサー使うと楽なんだけど、オーパーツは封印。
あとは、小麦粉で糊を作ってと。
そこへ、ラトが来た。
「ん?今日の料理は、なんだ?」
ちょっと目を離した隙に、ラトは小麦粉糊に手を伸ばす。
それ、食べ物じゃないから!お前は、舌切り雀のすずめか!
「ちょっと待って、食べる物用意するから」
素直にちょこんと座って待つラト。
出来上がった焼きうどんをパクパク食べるラトを見ながら今後のことを伝える。
「また、近いうちに旅に出るよ」
一瞬ラトの手が止まる。でも、なんでもないことのようにすぐに食べるのを再開する。
私が帰ることを引き止めるようなことはしないって態度の表れに思えた。
「でも、帰るわけじゃないから、1~2ヶ月で帰ってくると思う」
「そうか」
ラトは顔を皿から上げると、ニッコリと笑った。分かりやすいな。帰ってくると聞いてホッとしたでしょ?
「おかわり」
ラトは2回おかわりをして帰っていった。
雑草ジュースと糊を混ぜて、手作りのよしずの小さいのを木枠にはめ込む。作る、はがす、絞る、干す。作る、はがす、絞る、干す。
なんどか繰り返して、小屋の回りにいっぱい干すための板を立てかけた。天日干し。どうなるかなぁー。
さぁ、休むまもなく、寝かせておいたうどんの生地を延ばして切る、干す。延ばして切る、干す。
王様との面会の日が来た。例によって、マーサさんのお店の2階を借りて薔薇のリエスに変身。変身が終わった頃、トゥロンが迎えに来てくれた。
「トゥロン、今日もよろしくお願いします」
「もちろん、我が女神の守護するリエス嬢をお守りできるなど、至極光栄でございます」
まるでマントを翻すかのように腕をばっと振り、胸の前に差し出した。トゥロンは相変わらず面白い。
王都に入ると、そのまま城へは向かわずに、シャルトの誕生日会が行われた屋敷に通された。
「リエスさん……お久しぶりです。会いたかった」
シャルトが出迎えてくれる。
今日は、ピッチェ使節団に対して王様からのお褒めの言葉があるわけだから、使節団のメンバーが一緒に行くそうだ。
久しぶりに会ったアジージョは、私の教えた美容法をいくつか実践しているようで、以前あったときより5歳は若く見える。
「こちらで、お召しかえを」
と、アジージョに言われて一室に通される。
「えーっと、アジージョ、着替えって?」
「シャルト様より、贈り物です」
青い薔薇のドレスが用意されてる!この青は、カラコンの色に似てるみたいだから、瞳の色に合わせてしつらえたのだろう。しかし、これでもかって、大小の薔薇が付いてるのは「薔薇のリエス」推進委員会でもできたのでしょうか?
王様に謁見するのに、失礼があってはいけないので、多少の躊躇はあったけれどありがたくドレスは受け取り身に付ける。
ドレスのデザインに合わせて、多少メイクを手直しする。
屋敷から、城までは馬車で行くことになった。
馬車の中で、ちょっとだけ打ち合わせ。元々城から派遣されていたサマルーたち官吏は、すでに部屋にいるらしい。そこに、シャルトとセバウマ領の文官数名と私が入場する流れということだ。
疑問に思うことがあっても、話しかけられるまで口を開かないようにと念を押される。
城に着き、控えの間でお茶を飲んだ後に、ついに謁見の間に呼ばれた。
大きな扉を、左右に立つ騎士が押し開ける。
50mプールがそのまま入りそうなくらい広い部屋の、一番奥に王様が座っているようだ。
左右の壁には、ずらりと人が並んでいる。警護のもの、騎士、官吏、侍女。
あまりキョロキョロしないように、真っ直ぐ前だけ見て歩いていく。
が、何か違和感を感じる。
人の視線が、浮ついている?とても王の前に立ち並ぶ人たちの視線には思えない。ふわふわとしている感じがするのだ。
正面に座る王の顔を見る。
たしか皇太后様が、30をいくつか超えたと言っていたが、見た目もそのままそんな感じの年齢に見える。
薄い茶色の髪に、口ひげを生やしている。年よりも上に見られたい人間が無理をしてはやしているようなひげだ。
不意に、強い視線を感じて、思わずちらりと見てしまった。
あっ。やばっ!
見なければよかった。
見つけてしまった。
そこには、ラトがいた。騎士の服装に身を包んだラトの姿が。
ラトはなんともいえない間抜け面をして、薔薇のリエスを見てる。
「やはり、また会えた!運命だ!」とか思ってないでしょうね?
視線をはずすも、あまりに強い視線が気になって仕方がない。今にも「会いたかった~」とか駆け寄ってきたらどうしよう?陛下の前でそんなことしたら、ラトはどうなっちゃうの?
頼むぜ、ラト、血迷うなよ!という気合を込めて、ラトに視線を送る。
王の前まで来ると、深く頭を垂れた。
「今回の件、ご苦労であった。話は聞いておる。」
頭を垂れながらも、気になるのはラトの方で、ちっとも王様の声が耳に入らない。
それに、やっぱり何か変だ。王様の言葉には力がない。教科書を読んでいるみたいで、誰かに言わされてる?そんな気がして余計に耳に入らない。心に響かないのだ。
集中できないから、斜め後ろに見えるラトの姿を確認してしまう。
こっち、見すぎだろ!ラト、仕事仕事!
って、私もラトを気にしすぎだよね!
「もう、よかろう?」
すると、突然教科書を読むような口調が一遍。感情の篭った声で、王様が周囲の人間に声をかけた。
「その者は、先ほどから私のことよりも別の方を気にしておる。誰の目にも明らかであろう?」
冷や汗が背中を伝う。
その者って、私のこと?
「リエス、面を上げよ」
うっわー。やっぱり、私だよ!
ラトの心配してる場合じゃなかった!私の方がよっぽど王様に対して失礼なことしてたじゃん。
引きつった表情で顔を上げる。




