40 旅立ちの準備
魂が抜けたという感じだろうか。
頭も心もからっぽ。
あまりにもあっけなく、帰り道が見つかりそうで。
ホッとした?嬉しい?少し寂しい?感情がぽっかり抜けちゃって、頭も働かなくて。
ただ、体だけが機械のようにうどんを踏んでいた。
うどんの生地が出来上がるころ、少し落ち着いた。
帰れる?本当に?
あまり期待しすぎて浮かれていいの?
ユータさんの押してくれた道がすでにふさがっている可能性だってあるよね?
アラフォーなめんなぁ!
念には念を!将来にそなえて保険選びはちゃんとしなくちゃ!
と言うわけで、今後の方針。ユータさんからの返信を待ちつつ、サパーシュ領への旅支度を整えつつ、他の情報にもアンテナを張る。
もちろん、すぐに帰れないときのために、引き続き生活の基盤を整え、日本円も稼ぐということで。
あと、もう一つ。
帰れたときのために、就職情報をチェックも忘れずにする。
メールチェックをすると、実家の妹からメールが来ていた。「荷物届いたよー」というタイトル「早速パンに塗って食べた!おいしいってみんな大満足!」
相変わらず短いメールだ。メープルシロップを送ったのが届いたらしい。おいしいといってもらえてよかった。もちろん、私が作ったとは内緒。仕事関係でいっぱいもらったからと手紙を添えて送ったのだ。
こうして、荷物を送ったり、メールしたり、電話したりできるんだから、異世界にいるとは思えないね。
会うのは無理だけど、異世界というよりは遠い海外に住んでるみたいだ。
日本に帰れば、私は「もういい歳」で「無職」で「独身」で、貯金だって少ししかないし、容姿だって中の中というか、年々衰えていくわけで。
ココにいれば、私は「まだ若い」し「無職だけど金持ち」だし、王族とかセレブと会ったことあるし、日本のメイク技術のおかげでまずまずの容姿と評価されるし。
もういっそ、海外移住したつもりで、異世界移住しちゃう?
なんて考えちゃうのは、帰れると思えばこその発想だよね。
オークションをチェックすると、銀貨の入札は好調。そして、一つ質問が来ていた。
「本当に、送られてくるんだろうな?どうやって送るつもりだ?」
なんだ、この質問は。
「入金を確認後に、発送させていただきます。郵便かメール便等が不安でしたら、簡易書留等も可能です」
あれ?書留とかって、自宅集配でできたっけ?郵便やメール便などは、小包と一緒なら自宅集荷してくれるらしいけど……まぁいいや。いざとなれば、こちらで送料一部負担して安全な郵送方法調べて提案しよう。
質問に回答すると、しばらくしてその人から入札が入った。
ユータさんへの手紙を書くのには意外と時間がかかってしまった。
考えた末、自分の状況や帰り方を教えて欲しいということのほか、ラトのことも書いた。
実家へ送る荷物の集荷を依頼し、一緒に手紙を持っていってもらう。
早く返事が来ますように。
一人旅のために、まず買ったもの。SPF50以上、PA++++の日焼け止め!あとはまだ考え中。
手紙の返事がいつ来るかわからないけれど、旅への出発は早くても1ヶ月後と決めた。逸る気持ちを抑えて慎重に準備しないと、痛い目にあうかもしれないから。もしかすると、個人で警護の人を雇って、一人旅じゃない形で目的地を目指したほうがいいのかもしれない。そういうことも含めて、情報収集も必要。誰に聞いたらいいのかな?
気が付いたら、旅のしおりを作っていた。持ち物とか、1日に進む距離の予定とか。体力必要だよね。明日から街の皆と一緒に縄跳びしよう。
次の日、マーサさんの店に行くとまたもや木の板を渡された。
正直、またかよと思ったけれど、一度関わってしまった以上仕方がないと諦める。
シャルトからもらった文字の表を見ながら読む。
「要約すると、ピッチェとの関係改善に活躍を見せたので、王様直々にお褒めの言葉がある。グランラへの使節団として参加して欲しい」ということだった。
グランラってどこ?とマーサさんに尋ねたら、ピッチェの西側だと教えてくれた。
北側を上とした地図を書いた場合、大陸の西半分がほぼおアウナルスだ。東は上中下におよそ三等分し、上段の左がグランラ、右がピッチェ。中段がキュベリアで、下段がトルニープということだ。
今、アウナルスに対抗するために、東の諸国が同盟を結ぼうとしている。ピッチェの次はグランラ。うまくいけば、次はトルニープへの使節団にも混ぜてもらえるかもしれない。
トルニープは、サパーシュ領を通過したその先にあるらしい。
少し遠回りになるかもしれないが、一人旅をするよりも、使節団としてサパーシュ領に行けるというのはラッキーなんじゃないだろうか?
使節団の役目を終えた、帰りにサパーシュで別れればいいのだから。
と、脳内計画を立ててみた。実行するためには、まずはグランラの使節団として功績を挙げること。
できるかな?もし、必要とされている役割がメイクであれば、それなりになんとかなるかもしれない。
だめだったら、どうしよう?
きゅっと、不安がこみ上げてくる。
ううん、もし功績を建てられなくて、トルニープ使節団に参加できなくても、もともと一人旅の予定だったんだから何にも問題ないよね?
頑張れ、私!
また、薔薇のリエスとして、ウィッグ+カラコン+フルメイク生活がしばらく続くのかと思うとちょっぴり気がめいるけど仕方がない。
王都への迎えは2日後ということだったので、グランラ使節団として功績を挙げるために、あるものを用意することにした。
山小屋へ帰り、使えそうな雑草を引き抜く。
大鍋に、雑草と囲炉裏の灰を入れてぐつぐつ煮る。
旨くできるかな?数年前にボランティアで参加した体験教室で覚えた方法だけどうまくできるかな?随分煮込まなくちゃいけないので、その間にうどん作り。
煮た雑草を布にくるんで、上に木の棒を何本か渡して、その上に木の板を敷く。そして、板の上で縄跳び開始!ここは、私のオリジナル。本当は、布にくるんだ雑草を叩くんだけど、結構叩かなくちゃいけないので、上で縄跳びしたら体力づくりと一石二鳥にならないかなぁーと。
世の中、うまく行くこともある。へへっ。なんと、成功ですよ!縄跳び作戦!




