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4、初めて覚えた異世界語はシチュー

 お腹が、部活終りの中学男子か!って言うくらい鳴った。

 恥ずかしい。アラフォー女子だって、そういう羞恥心はある。


 あははっと、力のない笑いでごまかし、立ち上がってお尻の土を落とす。

「大丈夫です。えーっと、」

 青年の顔を見ると、薄い茶色の髪に、グレーの目。彫りは深くて、やっぱり西洋系。

「good health(無事)I'm all right (大丈夫)」

 西洋系の顔を見たとたんと、片言英語に切り替えた。いや、英語でも通じないんだけどね。

 両腕を振って、ジャンプしてみせる。これで、伝わるだろうか?

「****?*********?」

 25歳くらいだろうか?身長180くらいでがっしり体格の青年は、筋肉脳かと思いきや意外と気が回る人みたいだ。

 すぐに、私が言葉が通じないと気がついたみたいで、口元から手をぱっぱと動かし、困ったという表情とジェスチャーをした。

「言葉、分からないの?」と言っているようだ。

 こくんとうなづく。

 と同時に、再びお腹が鳴った。

 ひえー、勘弁してください。

 お腹を押さえて、笑ってごまかす。あ!海外では日本人の「笑ってごまかす」は、不気味がられると聞いたことがあったんだ!

 私、不審者?お腹鳴らす不審者?

 やばいと思えば思うほど、笑ってしまう。

 だって、日本人だもの。

 青年は、暫く私の顔を観察した後、ニッコリと笑い返してくれた。太陽のような笑顔って、こういう顔をいうんじゃないだろうか?っていうような良い顔で。

 それから、リヤカーを引っ張ってくると、ジェスチャーで「乗れ」と言う。

「え?大丈夫だよ、歩けるよ?」

 と、日本語で言ったが、彼は太陽のような笑顔のまま「乗れ」とうジェスチャーを続けている。

「はぁ、じゃぁ、遠慮なく……」

 言葉が通じないため、このままじゃ埒が明かないので、観念してリヤカーに腰を下ろす。

 彼は、たくましい体で、私を乗せたリヤカーを街へと引っ張り出した。当然、街までは上り坂なんだけれど、私を乗せたリヤカーを引っ張っているとはとても感じさせない足取りだ。

 ぐんぐん進んで、街の中に入った。

 うわーっ、遠くからは眺めていたけれど、町に入ると本当に異国だ。いや、異世界だ。

 ところどころに見える看板の文字はさっぱり読めない。けれど、おいてある品や看板の形等からおおよその見当はついた。

 八百屋、魚屋、肉屋、パン屋、服屋、靴屋、家具屋など生活に必要なものを扱う店と、食堂、カフェ、酒屋などの飲食店がほとんどだ。

 いわゆるゲームや小説のような武器屋とかギルドとか魔法具屋とかは見当たらない。

 良かった。

 魔法の世界といわれても戸惑うし、冒険者がいる世界も物騒だから遠慮したかったんだ。だって、冒険者と魔物ってセットでしょ?

 青年は、街の真ん中ほどまで進むと、一つの店の前で止まった。

 看板から察するに、飲食店。食堂系のお店だ。

 青年は私の手をつかむと、店内へと引っ張る。

「ま、まって、お腹すいてるけれど、食堂に案内してくれるのも嬉しいけれど、お金、お金ないんです!」

 っていう私の言葉なんてさっぱり無視で、強引に店の奥の椅子に座らされた。

 彼はそのままさらに店の奥の厨房へ姿を消す。

「*******、********」

 彼の声と、

「*******?***!*******」

 女性の声が聞こえてきた。

 聞き耳立てても何を言っているのかわかんないから、ぼんやり待つことにした。

 お昼時にはまだ時間があるため、店内にはお客はいない。奥の厨房からは、トントンとかジューとかおいしそうな音と臭いが流れてくる。

「ぐぅーーーっ」

 し、しまった、また鳴った!

「***、******!」

 クスクスっという笑い声と共に、テーブルにシチューっぽいものの入った皿が置かれた。

「え?あ、あの!」

 50代くらいの女性が、スプーンを手に食べるまねをする。

 食べろと勧めてくれているようだ。

 どうしよう。お金ないんだけど……居心地が悪くて身じろぎをする私に、女性は優しい笑顔で小さくうなづき、スプーンを私の手に持たせた。

「い、いただきます」

 断れない。言葉通じないし、こんな笑顔を向けられたら……

 それに、今にもまたお腹が鳴りそうで。

 スプーンでシチューっぽいものをすくって口に運ぶ。

「おいしい!野菜の甘みたっぷりのクリーミーな味!」

 食べ物を一度口に入れたとたん、どんどん食が進む。

 ほら、ダイエットで食事制限してるときのあれよ。

 一口だけと食べたポテチがやめられないという。

 ああ、やっぱり日本に帰ったらジムに通おう。いや、水泳の方がいいかな?

 おかわり!と思わず言いかけたときに、新しい皿に、薄切りの肉を挟んだパンが差し出される。

 運び主は青年だ。女性とおそろいのエプロンっぽいものを身につけている。

 あれ?良く見ると、ふっくらした女性の目元や髪の色なんか、青年にそっくり。親子?

 ここって、青年の店?

 っていうことは、「お腹空いてるのか?ぶつかったお詫びにご飯食べてくか?」という流れ?

「***、***」

 女性は青年を見ると、店の入り口を指差し何か言っている。

 青年は、あっと額を押さえ、エプロンをはずして慌てて外に出て行った。すぐに、リヤカーが石畳の上を走る音がした。

 どこかへ行く途中だったんだもんね。邪魔しちゃったなぁ……。

 申し訳ない気持ちで少しへこんでいると、女性が「たくさんお食べ」というようなそぶりを見せて厨房に消えた。

 薄切り肉を挟んだパンを半分くらい食べたころ、鐘の音が聞こえてきた。それを合図に次々とお客がやってきた。

「シット!」「***シット、プンッチ」「プンッチ***、****」

 客の言葉には、共通の単語が出てきている。どうやら、注文のようだ。シット=シチュー、プンッチ=肉はさみパン、プン=パン、他に水と酒、果物と、お得なセットメニューがあるようだ。

 店は満席。いつの間にか私の隣にもひげもじゃおじちゃんが座っていた。ひげもじゃは、隣の3割ハゲおじちゃんと談笑している。

「おーい、まだか!」「はいよーっ、」「こっちにも酒くれ!」「おかみー、会計~!」

 多分、そんな言葉達なんだろう。飲食店なんて世界が変わってもそう変わり映えしないよね。

 おかみさんは、注文取りと会計と配膳とドリンク作りでてんてこ舞いだ。奥の厨房から運ばれてくる料理の配膳が追いつかないようで、厨房と客席を仕切るカウンターの上にどんどん料理が乗っていく。

「あ、息子さんがいないから手が回らないとか?」

 いつもなら、リヤカー引いて出かけた息子さんが戻ってきて手伝っている時間なんじゃないかな?

 ああ、煙に続いて、またもや私のせいで迷惑かけちゃってる?

 アラフォーなめんなぁ!

 立ち上がると、カウンターに並ぶ皿を4枚手にした。

 これぞ、結婚式場の短期派遣の仕事の成果!お皿4枚持ちだ!派遣の仕事を転々としたアラフォーの実力みせてあげますわ!ほほほっ!


 あーあー、正社員になりたぁい!


 以下、思い込みの会話。

「シット、シット(シチューをご注文の方~?)」

「******(おー、こっちだ、こっち)****(ありがとよ)」

 カウンターに並べられたお皿を手際よく次々に配膳していく。

 ジョッキを手に持ったおかみさんが、びっくりした顔で私を見た。

 私はニッコリ笑って大きく一度うなづき、配膳を続けた。ランチタイムの嵐のような時間帯が終わるまで。

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― 新着の感想 ―
[一言] チートよこせとまでは言わないが、 言葉通じないのはきつすぎる しかも若返りとかなしで、そのまんまの体かよw 地獄すぎ。こんな目にあいたくねえ 主人公は強いけど、自分には無理だ
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