表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
291/303

290 唐突

 おかゆを食べさせながら、トゥロンたちに話をした吾妻さんからの伝言をラトにも話した。

 賠償金の話とかだ。

 私やラトのことを話すと……また泣いてしまいそうだったから。

 ラトも、トルニープのこれから、そして、キュベリアと他の国との関係の話ばかりだった。


 世の中は不思議だ。

 あれほど、帰りたい、帰りたいと思っていた時には思うように帰り道が見つからなかったのに。

 ユータさんがアイデアを出した。

「竜咆の森の洞窟のつながりだけれど……。このサンコーポ201号室にあるつながりみたいに、動くんじゃないかな?だったら、高い位置から海に飛び降りる必要がなくなると思うんだ」

 それがあっさりと実行できてしまった。

 海面から1mくらいの高さにとどまるように重りと浮きをつけたロープをたらしたら、つながりが移動した。

 洞窟に顔を出してのぞいてみれば、手をのばせば届きそうな位置に海面があった。

 そして、もう一つの問題は吾妻さんの言葉で解決してしまった。

「今は便利な世の中だな。遭難信号でモールス信号など送らなくても、GPSを使えば海上でも位置が分かるようになってるんだな」

 どうやら、吾妻さんはタブレットを用いてネットで色々調べてくれたようだ。

 これも、吾妻さんからもらったスマホを紐でつないで洞窟のつながりから出したら、すぐに位置が割り出された。

「船をチャーターして、その位置に向かわせるよ」

 日本では大金持ちの吾妻さんがお金を出して船をチャーターしてくれるという。

 ……申し訳ないのですぐにでは無理だけど、少しずつお金は返すと言えば、餞別代りだと言われた。

「餞別……」

 その言葉に、心臓がチクリと痛む。

 この世界との別れを自覚させられた。


 こうして、あっという間に日本へ帰る準備は整ってしまった。

 日程は、天気予報を見て、チャーターした船が到着するであろう1日前に決まった。

 竜咆の森へは、ラトがついてきた。

 置手紙を置いて部屋を出ようとしたら……見つかった。

「送らせてくれ」

 悲しくなるから、ここで別れたいと思ったけれど……。

「ユータとの別れも突然だった。リエとは……ちゃんと別れたい。見送りたいんだ」

 と、言われてしまえば断ることなどできない。

 洞窟へ続く道の入り口までは、ウルさんたちも一緒だった。

 トゥロンには日程は教えなかった。ただ、そろそろ国に帰るとだけ伝えてある……。

 女神の国へ帰るのですねって……最後までトゥロンは私を女神と呼んだ。

 だけど、一度だけ……。

「リエス……」

 ハグした耳元で名前を呼ばれた。

 ……手紙を、ウルさんに託した。トゥロンへ書いた手紙……。

 何を書いていいのか、何を書けばいいのか……女神としてトルニープに祝福を与えるみたいな内容にすればいいのか、リエスとしてトゥロンと旅した日々を懐かしむ内容にすればいいのか……。

 ただ、別れが寂しくて辛くて悲しいという気持ちを素直に書けばいいのか……。

 気持ちがぐちゃぐちゃで。

 ぐちゃぐちゃな気持ちで書いた手紙を……トゥロンに渡してほしいと頼んだ。

 それから、ウルさんには、両手の平に乗るくらいの箱を渡した。

「アズーマ王に、これを。いざというときの希望が入っています。大切に保管してください」

 なんて言ったけれど。要はカバンを折りたたんで入れてあるだけだ。

 ……。鞄をどうするべきか悩んだ。

 オーパーツを持ち込む危険もある……だけれど、吾妻さんなら大丈夫だろうと。

 ……。そもそも、つながりは私の部屋なのだから、私の部屋から持ち出せるものなどたかが知れていると言えば知れてるし。

 なんて、言い訳。

 言い訳だって分かってる。

 私が、私が……。

 捨てきれないんだ。

 部屋のどこかと、この世界がつながっているっていう……それを私は望んだの。だから、吾妻さんに鞄を持っていて欲しいと思った。

 そんな気持ちを吾妻さんには見透かされてしまうかもしれないけれど、箱には手紙を添えた。

「餞別です。もらってください」

 船のチャーター代金のお礼の形。日本円にして1万円もしない安物のかばんだけどね。付加価値、付加価値……。

 オーシェちゃんの目は真っ赤だ。

 私の目も、きっと真っ赤。

 ウルさんたちと別れて、竜咆の森の洞窟へと向かう。

「私が去ったら、お願いね」

 ラトと洞窟の前で向かい合った。

 別れの言葉を口にするのが辛くて……。散々確認したことをまた口にする。

「分かっている。洞窟の入り口を閉鎖するんだろう」

 こくんと頷く。

 私がちょっと不思議な世界から来ていることをラトは知っている。だから、この洞窟が帰り道なのだというのも、ラトだけには教えた。

「じゃ……じゃぁ、ラト……」

 泣かないって決めてた。

 にっこり笑ってさようならするって。

 目は赤いかもしれないけれど、お別れする瞬間には涙は流さないって……。

 アラフォーなめんなぁ!

 作り笑いなんて、星の数ほどしてきたよっ!

 いやな上司にも、むかつく客にも、わけのわからない新人にも、セクハラ親父にだって……!

 ほら、口角を上げて、「イ」というつもりで。

 ほっぺの筋肉を上に上げて、それから……。

 それから……。


長い間ありがとうございました。

次回で本編終了になるかと思います。(長さや話数に寄らず、最後まで書いてから投稿予定)

本編終了後はリクエストに応じて何話か番外編を書こうかなぁとも思っておりますが未定です。

では、最後までよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ