265 同盟へ
早速布を手配して、広場で和紙と同じように大きくつないでもらった。
布なので縫ってつなぐんだけど、街の人たちの手の速いこと!丁寧さはいらないので、縫い目は荒くてもいいとお願いしたんだけど……。ミシン並とまでは言わないけど、ミシンの半分はスピードがある。
そして、あっという間に大きな袋が一つできた。
それを港町に運んで、投石器にかぶせてもらった。
敵のスパイが上手く騙されてくれるといい。
今作っているものは、投石器を隠すための覆いだと。
敵が、いくら隠したところですでに投石器の情報をつかんでいるのに、バカな奴らだと笑ってくれるといい。
油断してもらえれば最高だ。
和紙が足りない間に、布の作業をしてもらう。目くらましになってくれればいい。
ウルさんの姿を見つけ、弓の相談をする。
「ああ、失礼いたしました。普段我々が使っている弓は、確かに女性が使うには硬すぎますね……。柔らかい弓を用意しましょう」
ほっ。
よかった。柔らかい弓もあるんだ。
っていうか、弓の強さは弦の張り方じゃなくて、弓本体のしなりで変わるんだね。
「ありがとう、お願いします」
「飛距離は短くなりますが、大丈夫ですか?もし、飛距離が必要なのであれば……やはり、私が弓を引きましょう」
ウルさんが、気を使ってくれる。
飛距離は、そこまでなくても大丈夫なはずだ。
ぶすりとささる殺傷能力は必要ない。届きさえすればいい。
ウルさんの手伝いを首を横に振って断る。
オーパーツを使う限りは、もし手伝いを頼めたとしても吾妻さんだけだ。
その吾妻さんは、アウナルスにいる。読んでもウォルフ襲撃までには間に合わないだろう。
和紙で大きな袋状の物が完成する。
本当は、事前に実験をしたいが……。スパイに見つかるわけにはいかない。本番一発勝負になる。
だが、元々私が勝手に始めたことだ。成功しようと失敗しようと、トルニープの作戦には影響はないはずだ。
投網で船の進行を邪魔しようという案は正式に採用され、小舟を使って運び何カ所かに設置されたそうだ。とはいえ、碇を下した小舟で海に張っただけだ。効果があればラッキー程度。投石器同様、ウォルフの船の進む方向を操作できれば御の字。
「連絡がありました!」
夕食時が、情報のすり合わせの時間になっている。忙しいからと食事をおろそかにしないための措置でもある。
お城の食堂に、トゥロンや将軍など10名ほどが席を同じくして食事を取る。私とカーベルさんも一緒だ。アウナルスの王代理という役割があるウルさんが主要メンバーだというのは分かるけれど、私も?とは思うけれどなんか、もういいや。恐れ多いとかもう深く考えるのはやめました。
あれ?今日はカーベルさんの姿がないな?と思ったら、ドアが乱暴に開けられ、息を切らしたカーベルさんが飛び込んできた。
何?
カーベルさんらしくない慌てよう……。
「今、連絡がありました!同盟が、同盟が成立しました」
同盟が成立?
カーベルさんの言葉に、トゥロンが立ち上がる。
早い!
あれからまだ3日だ。使者がたどり着いてもいないはずだ。
「アウナルスの……感謝いたします」
カーベルさんがウルさんに頭をさげた。
「連絡網が役に立ってよかったです」
「しかし、アウナルスの連絡手段……アウナルスが強いはずだ。各国にあれほどの人員を派遣されていては……」
ああそうね。アウナルスの間諜たちってすごいよね。ウルさんも馬をはじめ必要な物すぐに調達しちゃうし。よっぽど優秀な人材が何人もいるってことだよね?
それに、狼煙とか遠方への連絡手段もアウナルスは発達してる。
きっと、電話に慣れ切った吾妻さんが、遠方と連絡を取る手段を整備しようと考えたからなんだとは思う。
モールス信号とかいろいろ組み合わせて工夫して作り上げたようだ。
「正式な調印は使者が到着次第となりますが、キュベリア、アウナルスをはじめ、グランラとピッチェも同盟に加わってくれるようです!」
「表向き、名ばかりの同盟?」
だったら、予定通り。
「いいえ……。どんな魔法か……正式な同盟を……」
本当に?
「魔法じゃないわ!シャルトやサマルーたちが、ずっと交渉を続けて同盟の下準備をしてくれてたおかげよ!」
同盟への動きを凍結していたあいだも、影で動いていたらしい。
ああ、それが、身を結んだんだ……。
「ピッチェは油を。グランラは麦とイモをすでにトルニープに向けて送ってくれるそうです」
おお、食糧援助。戦争に置いて食料はとても重要だ。
油があれば、戦略の幅も広がるだろう。煮えたぎらした油を撒くとか……想像すると胃の奥が気持ち悪いけれど……。
そうだ!
「火船……」
確か、テレビで昔見た気がする。大きな船に、火をつけた小舟をぶつけるという戦略が……。船が一番怖いのは火だ。
船が燃えてしまえば、乗員は海に投げ出されおぼれ死ぬ。いや、おぼれなくとも戦うことはできない。
「ちょっと待ってください」
食堂を出て空き部屋を一つ借りる。人目を避けて、鞄に頭を突っ込む。
「あ、佐藤さん」
驚いた顔のユータさん。
「ご、ごめんなさい、突然現れて」
そうだ、まだユータさんがいたんだ。和紙がそろってからも、次々に届けられる荷物の受け取りや必要な物の買い出しと色々と協力してくれている。
「どうしたの?」
「ユータさん、火船って知ってます?それが使えないかと思って」
私の言葉に、ユータさんが小さく頷いた。
「ああ、なるほど、火船……よく佐藤さんは知ってましたね。そうか、火船か。僕のいたころは戦争と言えば陸上で起こる物だったから考えもしなかった。使えると思うよ。必要な物は、船。船は小舟でも構わない。それから、燃えやすいもの。藁などと油があれば」
やっぱり。油が使えるんだ。
「情報を集めておくよ。パソコンは使っていい?」
「ええ、もちろんです。お願いします!」
ピッチェから油が届くのにはまだ日にちがかかるだろう。それまでは、日本から油を持ち込むしかないかな。
オリーブオイル……じゃなくて、安い油でもいいか。業務用の油の購入をユータさんにお願いする。
そして、こちらの世界でも油を集めないと。




