262 山小屋を想う
足りない物、他に必要な物をメモする。
ユータさんに、引き続き足りない物の調達を頼む。
あ、ついでに「グアルマキート戦記」の続きを買ってきてもらった。吾妻さんに送るためだ。自分の書いた本だというのなら、早く見たいんじゃないかと思って。
……それから、合うまでにこの大陸の歴史というか……吾妻さんがどのようにここで過ごしてきたのか……。もう少し知りたいと思ったのだ。
いくら、地球での知識があるからって、誰もが王になれるとは思わない。ウルさんやオーシェちゃんたちの吾妻さんに対する忠義……。人として魅力がなければ王になど成れるはずがない。
吾妻さんは人を引き付けてやまない魅力がある人なんだろう。
しかし、吾妻さんが誰とも結婚しないって大丈夫なんだろうか?王様って、世継ぎとか必要なんじゃないの?
それとも、血族に後を継がせない選挙制みたいな感じで次の王様決めるつもりなんだろうか?流石に……まだこっちの世界では難しいんじゃないかなぁとか……。
必死に吾妻さんを結婚させたがっているような、オーシェちゃんたちの気持ちも分かる気がするよ。
確かに、吾妻さんの孤独を埋めて欲しいっていう気持ちもあるんだろうけれど……。次に王座に就く人のことも心配なんだろうなぁ。あれだけ慕っている王の次の王がろくでもないやつだったらとか……考えちゃうな。もしろくでもなくても、吾妻さんの息子なら少しは諦めもつきそうだし。
じぃが坊ちゃんをしっかりと教育してみせます!とか、セボンさんが張り切りそうだ。いや、じぃって歳でもないけどさ。
だけど……。
世継ぎのことを考えれば、吾妻さんに必要なのは若い嫁じゃないのかな。
そりゃぁ、アラフォーだって子供は産めるけど、可能性は若い子よりも低くなるし、それに……。この世界での高齢出産はリスクが高い。
出産は、若すぎても年を取りすぎても、危険度が増すんだよね……。
私……。
もし、日本に帰れないなら……。
こちらの世界でどう過ごすんだろうか?
……。日本への帰り道を探して旅をずっと続ける?
結婚……出産……。
諦めないといけないのかな?
ああ、胸の奥がぐっと何かにつかまれたように苦しい。
やだ。
結婚したい。
子供もほしい。
……。
結婚しようって言ってくれたラト……。
私ね、ラトとあの山小屋でうどん作って笑いあいながら過ごすのもいいなって……そう思ったんだよ。
私……。ラトといる時間が好きなんだ。でも、だけど……。
もし、私が異世界人じゃなければ……。
もし、ラトが王様じゃなければ……。
もし、私が、アラフォーじゃなければ……。
……。
異世界人でも、この鞄を捨てることができれば……。
ラトが、王様でもあの山小屋に居るときはただのラトでいてくれるなら……。
……。……。
だけど、私はラトとは結婚できない。
「リエスさん、頼まれていた物、用意ができました」
ノックの音で、現実に返る。
あっは。
戦争が起きるってそのさなかに、結婚できるできないで悩みだす女……。
笑えるわ。とりあえず、生き残ってから悩もう。
ドアの鍵を開けると、頼んでいた物を持ったウルさんがいた。
「何に使うんですか?」
ウルさんが変なことを聞く。
「何のって、そりゃ、戦争がはじまるんだから……」
ウルさんの手から受け取る。
重い……。
思っていたよりも、大きいし重い。
「リエスさんが使うんですか?その手で……」
ウルさんが、私の手を見てつぶやいた。
ああ、なんだか「グアルマキート戦記」で久志がインフィルに言われた台詞みたいだね。
剣を握れるのかと。その手で剣を扱えるのかと……。
「まぁね」
「私が……、私が使いましょう。リエスさんが必要な時に私がリエスさんの手となり代わりに……」
ウルさんの言葉に、首を横に振る。
オーパーツを使うつもりだ。誰かに見られるわけにはいかない。
だから、一人にならないとダメだ。一人で、すべてやらなくては……。
「ありがとう。大丈夫。こう見えても少し経験があるから。ちょっと練習してくるね」
決して嘘ではない。
少し経験……。
観光地で観光客用の簡単な物で体験ができるのを触ったことがあるだけだ。嘘じゃないけど……。ウルさんが持ってきてくれた本物とは全く別物。
お城の裏手の少し開けた人のいない場所へと移動する。
お城へは、顔パスなんだよね。こんな混乱した時期だけど、ちゃんとお城への出入りは兵が見張っている。
その兵が、白薔薇宮の警護に当たっていた人たちが中心なので、顔パスです。
女神様が~とか、聖女様が~とか、時折変な声が聞こえるけど、知らない、知らない。
物騒な物を手にしていても、誰も何も言わないのは……。信用されてるからなのか?
いいのかな?そんなんで?とも思う。
途中、トゥロンが落ちた谷川の橋の横を通る。
そこには新しく橋が渡されていた。森の木を投石器に使うために運ぶため……。橋は、以前よりもしっかりしたものになっている。
たくさんの人が、木を運んだり、枝を伐採したりと働いている。
こうして働いている人たちが、戦争で傷つかないように……。
やるしかない。
ウォルフを追い返せれば……。
もしだめでも、少しは混乱させ、時間を稼ぐことができるのであれば……。
ウルさんが持ってきてくれた弓を、ぎゅっと握りしめた。