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【書籍化】無職独身アラフォー女子の異世界奮闘記  作者: 杜間とまと


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261 オーパーツ

 すべてをウルさんに話をするわけにはいかなかった。

 話ができれば……最後まで手伝ってもらえるかもしれない。

 だけど、最終的に私は成功率を上げるために、いくつかのオーパーツを使うつもりだ。

 誰にも見られないという条件下は確保できる。だから、オーパーツを持ち込む。もちろん、万が一私の手を離れ、誰かの手にオーパーツが渡ったとしても歴史が変わるような品ではない。

 ただ、素材がナイロンやプラスチックだったり、金属加工が精工だったりと驚かせてしまう品ではある。

 銃や火薬などの類ではないから……。

 それで戦争が止められるなら……と、持ち込む。……。許してほしい。

 誰に許しを請うのか……。

 私が、私自身に許しを請う。オーパーツを持ち込むことへの葛藤。罪悪感。

 ……。

 戦争を止めるためなんだから、いいよね?

 誰にも見られないんだから、いいよね?

 万が一見つかっても危険がない品だし、いいよね?

 って、言い訳して、言い訳して……。

 ふぅ。

 もし、何度も持ち込むことがあれば……そのうち、これくらいいいよね?というハードルがどんどん下がっていくんじゃないかと……。

 最終的に、何かのためという言い訳さえあれば、何でも持ち込んじゃうんじゃないかと……。

 怖い。

 だから、私の今回の判断は……とても危険な行為だって分かってる。

 分かってるけど……。

 今回だけ……。


 ウォルフの奇襲ともいえる今回の戦争。

 この大陸の東の国は、キュベリアを中心に同盟の道を模索していた。

 戦争を回避するために、グランラとピッチェと友好関係を築きかけていた。そして、トルニープの新しい王となったトゥロンもまた、平和へと進むはずだ。

 そして……。

 西の大国アウナルス……アウナルスの王は吾妻さんだった。グアルマキート戦記の久司だった。皆が幸せに暮らせる国にするために腐心している。

 大陸が一つの方向に進もうとしている。

 平和。

 国民が幸せに暮らせる国。

 それを、ウォルフが踏みにじろうとしている。

 ……。

 ……。

 吾妻さん、トゥロン、ラト、ガンツ王、レイナール女帝……。

 これほど、優れた指導者に恵まれる時代はまれじゃないのか。

 そう。今回は特別だ。

 だから……。

 オーパーツを使ってでも、ウォルフに引き返させたい。

 ……できないかもしれない。だけど、やるしかない。

 例え、命が危険にさらされたとしても……。

 もし、うまくいったら……。一度吾妻さんのところへ行こう。そして、日本への帰り道につながる情報を集めてもらって……。旅に出よう。

 一人旅は不安だから、ウルさんたちの誰かに一緒に行ってもらおう。

 日本に帰るんだ。もし、それができないなら……鞄を封印する。


 王都に戻って、白山亭の部屋でユータさんから頼んでいた物を受け取る。

 和紙。

 紙がこちらでも作れるようになったとはいえ、まだ品質は定まらない。材料も作り方も和紙とは比較にならないほど雑な物だ。

 出来上がったものは見た目だけじゃなく、手触りや強度、一度に作れる大きさなど全然違う。

 買ってもらったのは、白ではなく、茶色とベージュが混ざったような色。味として、大きな葉や茎の欠片が散らされているものだ。

 漂白された真っ白な和紙はこの世界では異質すぎる。

 現代技術が組み込まれ、破れにくくて”縫う”こともできる少し特殊な物だ。

「在庫がこれだけしかなかった。他の店舗から取り寄せと、メーカーからも取り寄せてもらっているところだ」

「ありがとう」

 ユータさんにお礼を言い、和紙を鞄から順に取り出す。クルクル丸めてあるので、鞄を余裕で通るのだ。

 ……紙も、量が増えれば重いな……。

 ……ふと、不安がよぎる。

 ユータさんには再びいくつかの品の入手をお願いする。

 ミュイロン君は、インターナショナルスクールみたいなところの一時保育みたいなもの?何かそういうところで見てもらっているそうだ。同じ年頃の子供と接する機会も今までなかったので、丁度いいらしい。

「ウルさん、作業を頼める人を集めて、お願いしたいことが……」

 鞄から取り出して積み上げた和紙を見て、ウルさんは一瞬びっくりした表情を見せた。

 そりゃそうだ。いつの間に部屋に紙を運んだのかと思うよね。でも、ウルさんだっていったいどのような手段で入手したの?っていうこと色々やってるから、私も他に何か手立てがあるんだと思ったみたいで、深くは追及されなくて済んでる。

 ウルさんに、どのような物を作ってほしいのか説明する。

 簡単に、こういうことをしたいという話はしてあったので、そのために必要な物を作ってほしいと頼んだらすぐに分かってくれた。

「設計図というほどではないんですが……」

 紙に手順と形などをメモして渡す。

「まだ、材料がそろっていないので、できるところまでで構わないんです……とにかく、日にちがないので……人手がいると思うんですけど……」

「何とかしましょう」

 ウルさんは、そういって和紙を部屋から運び出した。

 何とかなるかな?

 投石器を作るのに人が駆り出されてるはずだし……。

 ……でも、ウルさんが何とかすると言ったのだ。信じるしかない。

 ウルさんが部屋を出て行ったのを確認して、再び鞄の中に頭を突っ込む。

 もし、竜咆の森の洞窟から……どうしても帰りたくなった時のためにいろいろ注文した品。

 確か、使える物があったはずだ。

 箱を開け、中身を確認する。段ボールは……あとでユータさんに捨てに行ってもらおう。いろいろこき使ってごめんなさい……。

 お礼に何かしたいけれど……。私にいったい何ができるっていうんだろう?

 ……。

 今考えることじゃないよね。この難局を乗り切ってから考えよう。

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