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258 秘密の作業

 一端ウルさんと二人で部屋に戻る。

「ボスに投石器の件も伝え、アウナルスも、トルニープとの国境近くから投石器の制作支援が行えるように手配しようかと思います」

 それはありがたい。

 実際の投石器の台数に加え、アウナルスからも投石器が運び込まれるとなれば、ウォルフも数が読めずに行動を躊躇せざるを得ないんじゃないだろうか。

 ……。

 でも、まだ足りないだろうな。

 やっぱり、効果があるかどうかわからないけれど、アレを作ろう。

 ……だけど、1つだけではウォルフへの脅しとしては……どうしたらいいんだろう。

 張りぼてか……。張りぼて……。

 私の体の中が、ぼわんと熱を帯びた。

 興奮の熱だ。

 そうだ、あれが使えるかも!

 しかし、その熱は一瞬にして引いていく。

 ウォルフの密偵がいる。張りぼては裏側を見られてしまえば意味がない。

 投石器の設置場所は、密偵に情報を流すことを前提に制作が進められることになった。だから、特に隠す必要はないんだけど……。

「ウルさん、秘密裏に事を進めるにはどうすればいいと思いますか?」

「秘密裏?それは内容にも寄りますが……。例えば、今、私とリエスさんの話も秘密裏に進めていると言えばそうなりますけれど」

 ああそうか。そうだ。

「人の手も借りたいし、場所もある程度の広さが必要になります。屋内で籠って行うには少し無理が……あるものを作ってもらいたいのです」

 私の問いに、ウルさんはふっと笑った。

「簡単ですよ。リエスさん、秘密裏に動ける人も場所も、すでにリエスさんは持っているのですから」

 ウルさんの言葉を聞いて、胸の中が再び熱くなるのを感じる。

 ああ、そうだった。

 そうだ。彼らに助けてもらおう……。

 そうと決まれば、出かけるとトゥロンには伝えてもらって、馬屋亭への隠し通路を通ってカーベル邸から出る。

 ラ・ホテル系のそういう宿を使いそうな男女にウルさんと変装して馬屋亭を出る。

 ウルさんには、材料の手配をお願いする。

 その間に、白山亭で着替えて、ユータさんに連絡を取る。

 ……こちらの世界でも、用意しようと思えば用意できるもの。だけれど、それには時間が足りないもの。

 それを、日本で買ってきてもらうためだ。

 大丈夫。こちらの世界でも作れるんだから、オーパーツじゃない。……でも、心の奥ではギシギシとどす黒い感情が揺れる。

 そんなの、自分勝手な言い訳だ。

 どこで線引きするかなんて、自分の心一つじゃないか。

 技術があるかないかで言えば、火薬だって、こちらの世界で作ろうと思えば作れる。

 そうだ。

 自分の考え方ひとつでどうとでもなる……。

 怖い。

 今は、ダメなことはユータさんがきっとダメだと言ってくれるだろう。だけど、ユータさんがいなくなったら?

 私、この世界に持ち込んではだめな物を持ち込んでしまうかもしれない……。

 やっぱり、どうしても、帰らなくちゃ。

 ウォルフとの戦争の件が終わったら、日本への帰り道を探して……帰らなくちゃ。それができないなら、鞄を……手放さないと……。

 

「リエスさん、出立の準備ができました」

 ノックとウルさんの声に、現実に引き戻される。

 後で考えよう。そう、後のことは後で。

 今は、もう4日後に迫った戦争開始のことを考えないと。

 ウルさんと港町とも王都ともさほど離れていない場所に向かう。

 決して秘密がバレないように、人の出入りを著しく制限してあるものを作ってもらうためだ。

 戦争の噂は、すでに耳にしているようで、不安な顔をした人たちも多い。

「新しい王、トゥロン陛下は国民のために懸命に働いています。何年か前を思い出してください。カーベル公爵が再び宰相に返り咲きましたし……」

「若い男たちは連れていかれた……」

 そういえば、目の前にいる人たちは女性と子供、そして年老いた男性ばかりだ。

「投石器を作るために駆り出されたのでしょう。最前線に送り込むための徴兵ではないと思いますよ」

 ウルさんの言葉に、少しだけ人々の目に元気が戻った。

 そうか。連れていかれた家族を心配するのは当たり前だ。戦争が起きるからと連れていかれれば、そりゃ徴兵がまず思い浮かぶよね。

「そうです。最新の投石器を設置しようと動いています。沿岸沿いの広範囲に渡り設置することが目的です。そのための人手が必要ですから。陛下は、ウォルフの兵を上陸させないように、被害を最小限にするために尽力しています」

 私は、言葉をいったん切り、小さくつばを飲み込むと、人々の顔を見渡した。

「被害を最小限にするために、皆さんにしていただきたいことがあります」

「私たちに?男手がなくてもできることかい?」

「ええ。一番大切なことは、秘密を守ること。ウォルフの密偵がすでに大勢トルニープにはいます。その密偵に、今から頼むことは絶対にバレるわけにはいかないのです」

 私の言葉にごくんと、村人たちはつばを飲み込んだ。

 今いるのは、村長の家だ。

「ですから、モヅ村の皆さんに……サツマイモの秘密を、紙づくりの秘密を守り通してくれた皆さんにお願いしたいのです」

 そう。

 秘密を守るための何重もの方法をすでに実行している人たち。

 村長の家の隅には、作られた紙が積みあがっている。

 サツマイモの栽培方法を秘密にしながら、紙もコツコツと作ってきたようだ。

 秘密を守れる人たちと、必要な物の半分はここにある。

 残りの必要な物の一部は、ウルさんがすでに用意してくれた。あとは、明日にでも用意できるとのことだ。

 いったい、どれくらいの数が用意できるのか分からないけれど……。

 できるだけのことをやるしかない。

 男手がなく、人数が思っていたよりも少ないけれど……。

「旦那も陛下も頑張ってくれてんだ、私たちだって寝る間も惜しんで頑張るさね」

「早速やりましょう!」

 作り方を教え、すぐに覚えた何人かが他の人に教えながら作り始めた。

 うん、大丈夫。あとは、タイミングを打ち合わせて……。

「では、お願いします」

 大丈夫そうなので、すべてお任せして村を後にする。


 次は、王都での作業だ。

 こちらはウォルフの密偵に見てもらわないといけない。

 王都の広場で大々的に作業するつもりだ。

 おっと、その前に……。

「ウルさん、次は港町へ行ってください」

「港街ですか?」

 時間がないので、ウルさんと馬に乗って移動。


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