257 模型完成
案山子の兵を使うとか、旗と土煙で大軍に見せかけるとか、そういう話がどこかにあった。一夜にして城を立てる話もあったよね。
張りぼての船を作る?
……いや、無理だ。
張りぼてでも、海に浮かべるためにはそれなりの物を作る必要があるだろう。
私たちに残された時間は4日。
4日でできるわけがない……。
もし、できるんとしても……圧倒的に手が足りない。材料も足りない。
投石器を作るために、人々は動いている。兵も、王都の皆も……。
何かをするにしても……。
4日でできること。そして、兵や王都の皆の手を借りなくてもできることを考えないといけない。
投石器以外で使えるものはないのか……。
中世の情報の乗っているページをやみくもにリンクをたどりながら見続ける。
ああ、ダメだ。
ダメ!
あっ!
絶望しかけた私の目に、飛び込んできた画像。
「これ、もしかして……」
説明文を読む。
……。
オーパーツを使わなくても……これなら……。
必要な部分をメモする。メモを終えたと同時に、携帯電話が鳴った。ユータさんだ。
「できました。今、部屋の前に居ます。模型を渡すので、部屋で待機してもらえますか?ミュイロンは廊下で待っていてもらうので」
「あ、はい、分かりました」
ユータさんは、鞄の中を通るサイズの投石器の模型を見せてくれた。
「簡単に実験したけれど、ちゃんと飛ばせるし大丈夫だと思う」
受け取って、鞄の中を通して部屋に置く。
そして、手に持っていたもう一つの袋からユータさんは、色々なサイズにカットされた木と紐やねじなどを取り出した。
「組み立て方を見せるよ」
そういって、ユータさんは目の前でもう一つ組み立てて見せてくれた。
「分からなくなったら、電話で聞いて。あと、動画も撮っておくよ。えっと、」
ユータさんは、部屋の中を見回すと、吾妻さんからもらったスマホを手に取った。
「これに、動画撮影して入れても大丈夫?」
「ええ、お願いします」
「あと、向こうで組み立て方を見せてあげて」
もう一つ、模型の材料をユータさんはくれた。なんて、気が利くんだろう。
「ありがとう」
「ううん、これくらいしかできないでごめん」
ユータさんの表情が苦痛に染まる。
ユータさんのいた時代は、まだこちらの世界で戦争があったんだよね?戦争を知っているユータさん。こちらの世界にもきっと親しい人がいたはずだ。
私が、こちらの世界で知り合った人たちが傷ついてほしくないと思うのと同じように、ユータさんも皆の無事を願っているに違いない。
何もできない自分が辛いのだろう。
……。
ユータさんともう少し話がしたいと思ったけれど、今は時間がない。
受け取った投石器の模型と材料を手に、部屋を出る。
「リエスさん」
部屋を出ると、ウルさんと会った。
「それは、もしかして、設計図の?」
ウルさんはすでに投石器が設計図を基に作られ始めてるのを知っていた。
「ええ、模型です。設計図で分かりにくい部分が分かるようにと用意したものです」
「見せていただいても?」
「えっと、これから模型を組み立てて見せますから、ウルさんも来てください」
「いいんですか?」
え?
何が?
ウルさんの言わんとすることが分からなくて首をかしげる。
「私はアウナルスの」
私の手の中にあるもの、そうか。
たかが投石器じゃないかという感覚しかなかった。だけど、こちらの世界では最新兵器だ。
地球で言えば、各弾道ミサイルやステルスとかそういう最新兵器と同じような価値がある。そう考えれば……確かに、おいそれと手の内を見せるようなものではないのだろう。
「アウナルスは味方でしょう?何も問題はないでしょう?」
敵はウォルフだ。
「先ほどまでトゥロン陛下やカーベル宰相とひざを突き合わせて話をしていました」
トゥロン陛下か……。
「アウナルスは、新しいトルニープと同盟を組むでしょう。平和を望む国、国民に向いた政治を行う国と敵対する意味はありませんから……」
おお、そうなんだ!
良かった!
模型を持って、外で投石実験を行った。
「こ、れは……」
1投目。思った以上に石が飛び、石が屋敷の壁を凹ませた。
距離もそうだが威力も申し分ない。
「10分の1のスケールでこれだけの飛距離と威力……」
カーベルさんも、軍の関係者も絶句していた。つばを飲み込む音が聞こえる。
そっか。
大砲やミサイルを知っていると石を飛ばすだけだと思っちゃうけど、本当に驚くような最新兵器なんだね。
「設計図では分かりにくいであろう組み立て方を、模型で説明します。制作責任者を集めてください」
ユータさんに目の前で教えてもらった模型の組み立てを、忘れないうちに責任者に教える。
「ありがとうございます!これで制作がはかどります!」
ビシッと軍属らしくトルニープ式の敬礼をして男が部下を連れて去って行った。
「さぁ、まずは1号機を完成させ、実験だ。どこかで見てるであろギレンのスパイの度肝をぬいてやるんだ!」
後姿を見送りながら、残った人に話をする。
「この形の投石器は、従来の投石器にくらべて、狙いが定めやすいそうです。重りの重さを変えれば、飛ぶ距離の調整も可能なので、1号機ができたら、色々と実験してみるといいかと思います」
「何と、飛距離が出るだけではなく狙いが定めやすいとは……」
また驚かれました。




