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240 屋台周辺

「これも、リエスさんの案ですか?制服を着て街に立つとどうしても威圧感があり祭の楽しい雰囲気を損なうことがある。かと言って、祭の治安維持に兵士は必要ですから」

 そんな話はカーベルさんに聞いてないけどなぁ。

 もしかして、その兵士ってチョビンが言っていたキュベリア王の婚約者探し隊のメンバーかな?庶民に紛れてても、ウルさんみたいな人間からすれば、立ち振る舞いですぐに分かるんだ。姿勢とか?歩き方とか?

 ああそういえば、日本舞踊してる人はすぐ分かったわ。浴衣を着てお祭に行くときに「着物に着られていない、着物を着ている」感が半端なかった。姿勢が違うし、足運びも違うんだよ。なんていうか”浴衣が似合う!”って本気で思った。

 その子を見てから、テレビでドラマで着物姿で動いてるの見ると、ああ動きが駄目だなぁ着物の演技できてないと思うようになってしまった。

 ウルさんから見ればそんな感じなのかな?兵士が庶民のふりしてるけど、庶民の演技ができていないと……。

 ウルさんの擬態は完璧だもんなぁ。さすが、私がニンニンと認めただけのことはある!

 ………。ニンニン……。

 でも、チョビンのことは言わない方がいいよね?キュベリアの内政に関わることだろうし……。

 って、もし必要だと判断すればオーシェ君がウルさんに言っているだろうし。っていうか、オーシェ君は言ってないんだ?

「えーっと、その辺は私もノータッチなので、、カーベルさんたちのやり方じゃないですか?」

「ああ、そうですね。数年前まで祭を滞りなく開催していた元宰相のカーベル殿が取り仕切っているのでしたね」

 吾妻さんも認める名相が居たことを思い出し、ウルさんはめずらしく少し照れたような顔をした。

 カーベルさんのことを忘れて、何もかも私の考えだと思ったことを恥じたのかな?

 

 ファンファーレのような金管楽器の音が祭の始まりを告げた。

 それを合図に、貴族出店のB1グランプリ屋台が無料配布を開始する。

 使い捨ての食器類は無いので、食器代わりになるのは葉っぱや植物の皮だ。日本でも朴葉や笹の葉やたけのこの皮なんか使われるよね。

 割り箸もないので、串が付く。手づかみで食べられるポテトチップスにも串は付く。串の一部にはあらかじめ印が付けてあり、どの店舗の串か分かるようになっている。

 その串を、美味しかったか美味しくなかったかの判定ボックスに入れて順位を競う仕組みだ。

 単純に、美味しかったボックスに入っている串の数で判定する。実はこれ、全然公平じゃない。

 だって、100人が食べて半分の人がまずいと言っても50本。50人の人が食べて全員がおいしいといっても50本なのだから。

 つまり、たくさん食べてもらった方が有利な判定方法だ。もっと、公平な判定方法もあるけど、今回は順位付けなんておまけだもん。

 多くの人に無料で食べ物を手にしてもらうってのが目的だから、あえて、たくさん配った方が有利な採点方式にした。

 思惑通り、ギレン出店のポテチ屋台は次々と配っている。表側ではスピード勝負とばかりに、普段は屋敷の料理人と思われる人たちが必死にじゃがいもを揚げ続けている。裏側では、並ばなくてもいい優待貴族や商人たちに、ポテトチップを作るためのスライサーの売り込みをしながら手渡している。

 で、ポテトチップを食べた人たちの反応は……。

 庶民、一口食べて、もう一度列に並ぶ!何度もらったってOKだから当然!という人多数。

 貴族や豪商、スライサー欲しいと話しに食いつく!

 うはははっ!ポテトチップスの破壊力はすさまじいだろう!

 と、ドヤ顔全開の私の目に、ポテチ列を乱すやからの姿が目に入った。

 くっ。あの美しい列を乱して、屋台のすぐ前に横入りするなんて……よそ者だな!王都の民じゃないな!

 すぐに兵の一人が飛んできて、並んでいる人ともめる前に男を列から引き離した。

 おお、高校生兵じゃないか!いい仕事するな!と思って見ていたら、何やら男がごねたのか、高校生兵を小突いた。

 兵に逆らうとは、なんつぅ奴だ。高校生兵よ、しょっぴけ、しょっぴけ!と心の中で応援。

 ところがだ、なんと、高校生兵が剣を引き抜く前に男が高校生兵を殴りしりもちをつかせ、あっという間に手を後ろに捻って押さえつけた。

 つ、強い。そ、それとも高校生兵が弱いのか?

 そこに、騒ぎを聞きつけてガイルさんが来た。

 男に何か言っている。そして、あっという間に二人は戦闘体制。

 ゴングの音は聞こえないけれど、二人同時に動いた。

 あっという間に高校生兵をやっつけた男を相手に、ガイルさんは一歩も後を引かない。いや、それどころか優勢だ。

 2分ほどだろうか?ちょいちょいとやられた男に、ガイルさんが「まだやるつもりか?」みたいな顔を見せる。

 男は「くそっ、覚えてろよ!」みたいな捨て台詞を吐いてガイルさんに背を向けて逃げていった。

 声は届かないので、全部想像だけど、きっと遠くはないよねぇ。

 高校生兵は、ガイルさんに頭を下げた。「いや、気にするな。街の治安はまかせてくれ」とでもガイルさんは言っているのだろうか。

 ……。っていうか、高校生兵は、兵なんだから、そこまで弱いわけないよね?

 一般人レベルを大学テニスサークルレベルとしよう。

 高校生兵が、国体出場レベル。

 男が、国体優勝レベル。

 ガイルさんが、プロテニスプレイヤーレベル。

 でもって、それを瞬殺できちゃうウルさんたちは、ウィンブルドン優勝レベルってことだよね?

 うわー、すごいな。

 騒ぎはさほど広がらず、祭の邪魔というほどにはならなくてよかった。

 舞台では、楽隊が音楽を奏でている。聞き入っている人の姿もあるけれど、無料屋台に並ぶのが先だと言わんばかりの人たちも多い。

 まぁ、花より団子って言葉もありますし。致し方ないかな。


 広場のB1グランプリ無料配布屋台と反対側には、有料屋台が並んでいる。そちらの方は、お金に余裕がある人、お酒を求める人などが買い求めている。

 有料屋台は、王都の飲食店が主に出店している。福引券制度に参加している飲食店だ。今回も、屋台でお買い上げいただくと福引券を配るようにしている。

 今日のために特別に作った巨大ながらがら。ハンドルを回して中から珠を出すあれね。

 巨大ながらがらは、日本では珠はボールを使っているけど、ボールなんて無い。布を丸めたものを使っている。だから、ちょっとガラガラが重くなって回転させづらいのだが……。

 なんか、そういうところまで楽しいようで、何人かで力をあわせてぐるんと回す皆は笑顔だ。

 大当たりは、相変わらずメイプルシロップ。布の色で何等と決まっている。

 祭なので大判振る舞いで、甘いお菓子を何種類か用意した。みんなメイプル味だけど。クッキーに、プリンみたいなものに、すはまだんごっぽいもの。甘味が少ないこの世界では、ご馳走だ。

 巨大ガラガラに挑戦したくて、有料屋台で買い食いする貴族の姿もチラホラあった。主に、子供が親に「あれやりたい!」と我が侭を言っているみたいだ。だが、商品のお菓子が食べてみたいという人もいるようだ。

「無料の屋台なんてあったら、誰も客が寄り付かないと心配してたんだよ。聖女様の計らいで、福引券を回してもらえて、ワシ等飲食店は聖女様に足を向けて寝られねぇなぁ」

 というような話が耳に聞こえてきた。

 よかった。有料屋台の人たちも満足してもらえてるようだ。

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