232 演目追加提案
「新しい曲を覚えるのにどれくらいかかりますか?」
団員さんたちの顔を見ながら尋ねる。
ドラムロールや他の音楽をこんな感じにと、鼻歌で説明すると、団員さんたちはすぐに楽器で表現してくれるのだ。耳コピ能力半端無い。
「覚えて演奏するだけなら、1日あれば……。ただ、陛下の前に出せるレベルに高めるにはそれなりの日数が……」
「陛下の前でどれだけ間違えても大丈夫ですから、新しい曲を覚えてください」
私の言葉に、楽団員たちは息を飲んだ。
「リーさん、それはあまりにも……」
間違えて陛下の逆鱗に触れれば明るくない未来が待っている。それを想像してか、皆の顔が青くなる。
「いえ、本当に大丈夫ですよ。だって、今まで聴いたことの無い知らない曲が間違っていたって、気がつかないでしょ?」
「そっか!リーさんの国の曲ね!」
ランちゃんが、すぐに察したようで明るい声を出した。
ランちゃんには白薔薇で何曲か日本の歌を教えたことがある。主に合唱できる歌だ。
アラフォーなめんなぁ!
ピアノを習っていた関係で、人数の足りなかった吹奏楽部の応援に何度か借り出されたことがあるんだよ!何度も練習したから、今でもクラシックの何曲かは各パートの旋律もしっかり覚えている。
「皆さん、リーさんの曲を覚えてください。陛下が耳にしたことのない曲ですから、間違えても顔に出さずに演奏を続ければミスなんて思われません。もともとそういう曲なんだと思われるだけですから!」
ランちゃんが私の言いたいことを代弁してくれる。どうしようかと顔を見合わせる団員達に、ランちゃんが押しの一手とばかり言葉を続けた。
「せっかくの祭なんです。祭に来た人を、少しでも楽しませてあげましょう!」
その言葉に、団員達がハッとした表情を見せる。
そして、ハープのような楽器を抱えた団員が、私の顔を見た。
「教えてください。私は演奏します」
ハープはソロでもいけそうだ。他の人がだめでも、曲数を増やせそうだ。と、頭の中で考えをめぐらせる。
「1日1曲とは言いません。あと3曲、祭までに何とかしましょう」
太鼓系の楽器を持った人が団員の顔を見回す。
団員達は皆頷いてみせた。
「あ、ありがとう」
「いいえ、こちらこそ、曲を提供してもらえて感謝いたします」
そして私は、主旋律を鼻歌で何度か歌い、その後パートごとに鼻歌を歌ってベートーヴェとバッハとモーツァルトの曲を一曲ずつ伝えた。
「なんと素晴らしい曲だろう」
私の鼻歌からも、曲の素晴らしさが伝わったようで、目を輝かせて練習を始めた。
各楽器が個々に練習とかじゃなく、すぐに合わせて演奏し始めた。わっ。何度か聞いただけで、すぐに演奏できるとか、すごすぎる。
演奏してみて、それを各自手持ちの板に楽譜を書き起こし、それに修正を加えて音楽を完成させていく。
これで、演奏時間が延びた。しかし、まだ演目が足りないなぁ。
「少し休憩しましょうか」
いつの間にか、テーブルクロス引きに使っていたテーブルにお茶が用意されていた。
幾つかのテーブルに分かれて、楽団とテーブル隊となわとび隊と私とランちゃんが背もたれの無いイスに座る。
訓練場の奥では、30名ほどの兵士が木刀を手に訓練を続けていた。
教官の掛け声に合わせて、剣を高い位置から振り下ろす。良く訓練されているのが、揃った動きから見て取れる。次に、右から横へと払い、下から上へと斜めに振り上げる。
あ、2列目の3番目の人がちょっと遅れた。
「やり直し!」
カツンと、教官が今遅れた人の木刀を、木刀で叩いた。
すると、振り下ろすところから皆で揃って始める。少し遅れただけなのに、厳しいなぁ。連帯責任とか、そりゃ緊張感もって揃えようとするよねぇ。
「人と息を合わせることで、相手の動きを察知するための訓練なんですよ。だから、ぴったりと動きが合うまで繰り返させられます」
じっと訓練を見ていた私に、テーブル隊の兵士が説明してれた。
そういえば、「居合い入門~護身術活用編~」で居合いの先生が言っていた。居合いには「合わせ居合」というのがあって、相手の呼吸と間を合わせることで、自分以外の場の空気を読む力を身につけるらしい。
30人でこれだけ動きをあわせることができれば、ダンスとかしたら壮観だろうなぁ。
「ダンスかぁ……」
今から振り付け覚えてもらうのって、難しいかな……。って、振り付けを誰が考えるんだって?
私には、無理無理!パクればいいか?
ダンスチームの動画を見て覚えて、それを教え……。って、私が覚える時点で無理!体も動かないよ!体を鍛えていないアラフォー、驚くほど体が動かないから!ラジオ体操ですら、時々スピードについていけないから!……凹。
ちぇっ。体を鍛えてる兵士達の動きが揃った切れのあるダンスなんて、最高の演目だと思ったのになぁ。
何とかならないかなぁ。
この動きそのまま演舞とか言うのは?流石に陛下の前で本物の剣は持てないだろうから、この木刀を持って……。
ダンスっぽく音楽をつけたとしても、しょせん素振りは素振り。地味だよなぁ。
衣装を何とかするとか?今から人数分そろえるなんて無理だよなぁ。
はぁー。
溜息をついて視線を落とすと、テーブルクロスが目に入った。
「あ!」
突然大声を上げた私に、ランちゃんをはじめお茶を飲んでいた皆の視線が集まる。
「テーブルクロス引き隊のみなさん、今すぐテーブルクロスを引き抜いてください!」
私の声にただならぬものを感じたのか、お茶の入ったカップやポットの乗ったテーブルクロスを一斉に引き抜いた。
テーブルの数は8つ。すべて成功。
「ください、テーブルクロスを!」
何をしようとしているのか分からない人たちは、ただ唖然と私の動きを見ている。
「ごめんなさい、お騒がせして、皆さんはお茶の続きをごゆっくり」
そういい残して、テーブルクロスを抱えて訓練中の兵士の下へ走る。
教官が、私に気がついて皆の動きを静止させた。
「あの、お願いがあるんですが」
教官にテーブルクロスを差し出しながら説明する。
祭のことは皆気にしているようで、自分達にできることがあるならばと、快く協力してくれた。
テーブルクロスを何人かの兵士に配り、実験開始。
「いける!」
私は確信した。
私の後を追って、いつの間にか隣に並んだランちゃんがあんぐり口を空けて、実験の様子を見る。
「リーさん、これは……」
「祭の演目にどうかな?」




