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223 解説DVD

 今は、アウナルスの動向まで気を回す余裕はない。だから、吾妻さんの言葉を信じるしかない。

 あとは、トルニープと一緒にことを起こすという噂のキュベリアだ。

 王の婚約者の行方が分かれば戦争なんて話はなくなるんだろうけど……。

 今、キュベリアのことで分かっていることは、同盟を凍結したということだけだ。

 具体的にアウナルスと戦争をするというような話は聞いていない。もし、戦争を考えていたとしても、それはキュベリア単独でという可能性は少ない気がする。元々、戦争を回避するために同盟を組もうとしていた国だ。

 戦争を起こしたいわけではないだろう。相手が勝ち目が薄いアウナルスともなればなお更だ。

 だが……。アウナルスが婚約者を攫ったと信じていれば……。この先、攻め滅ぼされる危険を感じていれば……。先制攻撃に討って出て、少しでも勝機を得ようとしたら?いや、それでも西の大国に挑むのは無謀だということは分かるだろう。

 もし、婚約者を攫われたことでキュベリア王の頭に血が上っていたとしても、王弟や、サマルーたち官吏が戦争を止めるのではないだろうか。

 王弟はとても愚鈍には見えなかった。シャルトの父親セバスール伯爵も王の信任が厚いと言っていなかっただろうか?セバスール伯爵もしっかりした人柄のように見えた。

 だから、もしキュベリアがアウナルスと戦争をと考えるにしても、勝機の少ない無謀な戦いはしないだろう。

 トルニープと手を組むんじゃないだろうか。トルニープがウォルフから船という有益な武器を手に入れたと知れば……。

 キュベリアの平和も、トルニープの戦争を防ぐことにかかっていると、そう考えて間違いがないんじゃないだろうか。

 ゴクンと唾を飲み込んだ。

 トルニープが戦争をしないということが、キュベリアの平和を守ることに繋がるなんて。

 キュベリアだけじゃないよね。きっと、グランラやピッチェもそうじゃない?

 失敗は許されない。

 いや、失敗したとしても、その後に革命が控えてて、革命が起きれば政権がトゥロンに渡るわけだから戦争は起きないんだけど。

 でも、失敗したくない。トゥロンの心を守ってあげたい。兄殺しなんて心の重荷を背負わせたくない。

 ……よし。

 奇跡っぽく見せる演出を考えよう。

 やっぱり手品だ。手品。

 こちらの世界で見たことも無い手品を見せれば、奇跡に見えるだろう。

 聖女手品隊のメンバーは……。

 聖女、オーシェくん、オージェちゃん、エボンさん、ウルさん。いや、エボンさんやウルさんには何かあっては困るから警護や裏方に回ってもらうとして。あとは……。ランちゃんに手伝ってもらおうかな。聖女の影武者として。

 あ、そうだ。こういうのはどうだろう?

 瞬間移動。よくある手品の手法だ。入っていたはずの箱からは姿を消して、別の場所から登場するっていうアレ。

 おっと、手品じゃなくて大型道具を使ったものはイリュージョンって言うんだっけ?

 剣を刺して見せるっていうイリュージョンだけど、流石に陛下の前で剣を抜くとかそういうのは許可されなさそうなのでやめておく。

 鞄に頭を突っ込み種や仕掛けを検索。流石になかなかない。

 道具はオーパーツになるから持ち込めないしなぁ。そもそも大きくて鞄を通らないかな?

「これ、これだ!」

 鏡を使ったトリック。開閉式の箱、これはこちらの世界で作ればいい。鏡だけは、こちらの世界では質の悪いものしかないから鞄から取り出すしかないけど、元々種なんて誰にも見せないわけだし、使い終わったら見つからないうちに回収すればいい。

 もし、万が一見つかったとしても、質が悪いとしても一応この世界にも鏡はあるわけだから、いっちょガツンと割って細かくして質の良さが露見しにくくしちゃうとか、何とかなる。

 ポイントはこれだ。

『誰でも簡単、解説DVD付き』

 よし。早速購入ボタンポチ。商品が届いたら、箱の構造を調べて同じものをこちらの世界で作ってもらわなくちゃ。

 そうだ、前に行ったあの家具屋に頼もう。きっと、金具もいるよね。蝶番みたいなの。こっちの世界であるかな?無いなら鍛冶屋で作ってもらわないと。時間がない。蝶番みたいなものは早速頼みに行かなくちゃ。

 紙に下手くそな絵を描く。伝わるかなぁ……。それから、止め具となるもの。開閉式の箱だから開いたり閉じたりできるように……。


 それから、ユータさんにメール。ユータさんはメールは苦手みたいだから返信は期待しないけど、こちらからの一方的な連絡には使わせてもらう。電話番号だけで送れるショートメールで。

『こちらの時間で早くて5日後に祭りがあり、陛下の前に出ることになりました。遅くとも7日後です』

 祭りが終われば、革命で陛下の命がなくなる可能性がある。

 ミュイロンくんに父親の姿を見せる最後のチャンスになるかもしれない。

 ……。ユータさんの判断は、覆らないのだろうか。

 もし、ミュイロンくんの父である王が居なくなっても、それでもミュイロンくんをこちらの世界へ戻そうと思うのだろうか。

 ……。

 考え込んでも仕方が無い。手を動かそう。

 鞄の中に頭を突っ込んで、部屋に張り巡らせたビニール紐をほどいていく。ビニール紐がなくても、繋がった空間を移動させることは出来るのだから大丈夫だ。ただ、少々時間がかかるだけで。

 玄関のドアに結びつけた紐をほどくついでに、郵便受けをチェックする。

「溜まってるなぁ」

 最近、チェックをサボっていたから郵便受けの中はあふれ出しそうなくらいいっぱいだった。

 ユータさんからの手紙を待っている間は頻繁に除いていたんだけどねぇ。今となってはどうせダイレクトメールや請求書くらいしか来ないからさ。

 電話料金、ダイレクトメール、電気使用料、水道……、次々に玄関先においた箱に仕分けして放り込む。

「次は、」

 少し大きくて厚みのある封筒。差出人の名前を確認すると、山下さんだった。

「何?また吾妻さんへの届け物?」

 封を開けるべきか迷ったが、一応宛名が私になってるし、もし何か届けて欲しいものだったら吾妻さんから連絡があるはずだよね?

 封筒を開けて中身を確認すると、中には『グアルマキート戦記3巻』が入っていた。

 しまったぁ!そういえば、まだ2巻も読んでなかった。読んだら吾妻さんに届ける約束なのに。

 このペースじゃぁ、いつまでたっても続きを吾妻さんに渡せないよなぁ。どうしようか。

 吾妻さんは急いでないみたいだったけど、なんだか申し訳ない。

 あらすじ読んで、挿絵を見て、読んだようなふりして渡しちゃおうか……。そんな悪魔の囁きが頭をよぎる。

 駄目駄目。吾妻さんの厚意を裏切るようなことできないよ。祭りが終わったら、速攻で読んで渡そう。

 ちょっとぐらい夜更かしして肌が荒れたって気にせずに読むよ。

 3巻を何気なくぱらぱらすると、1枚の挿絵に目が留まった。

「似てる」

 挿絵のキャラクターが手に持っているコインが、アレに似てる。えーっと、ほら、名前、何だっけ?呪いのコインのアレ。

 駄目だ。思い出せない。呪いのコインなんて名前じゃなかったんだよね。

 まぁいいや。

 封筒をダイレクトメールを入れた箱に入れて、本はテーブルの上にある2巻の上に重ねて置いた。

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