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221 I AM NOT SUPAI

 今回の祭りの件も、今からトゥロンに伝えることも、両方ともルイス経由なんだけどさ。詳細説明メンドクサイというか、ルイスとの関係がどこからか露見してトゥロンや私に得になることなんて何もない。ギレンにもし、ルイスとカーベルさんが少しでも関係があると伝わりでもしたらやっかいだ。

「情報源を問うなと……。分かりました女神。決して尋ねたりいたしません」

 トゥロン言葉に、頷き、ゆっくりと口を開いた。

「ギレンは、増税で得た金をウォルフに流しているそうです」

 トゥロンが、明らかに驚いた表情を見せた。

 何故、女神がギレンの金の流れを知っているのか。

 革命を祭りの後にしてくれと約束させたのは、今の真実が革命の引き金になると分かっていたからなのか。

 そんなことを思ったのかもしれない。

「ウォルフ……」

 ランちゃんは、ウォルフのことを何処まで知っているのか表情はさほど変化は無かった。一方、トゥロンは驚いた顔をしたのは一瞬で、すぐに色々と考え込むような顔になった。

「船……。ギレン……いや、陛下は西のアウナルスに、陸ではなく海から攻め入るつもりか……」

 やはり、ウルさんと同じようにウォルフと聞いてトゥロンもすぐに船を思い浮かべたらしい。

「それならば、西の大国相手とはいえ、一矢報いることはできるだろう。兄は、本気で戦争を……」

 「本気で戦争を」……か。トゥロンもやっぱり、陛下が戦争をしない可能性を少しは期待していたんだ。

「王都近くの港町で、船着場の工事をしています。まだ、完成していないようです」

「リーさんすごい。そこまでもう調べてあるんだ。聖女の情報網ってすごいね」

 深刻な話で重くなりがちな場を、ランちゃんが明るい声で空気を軽くしてくれる。ありがたい。

「炊き出しを手伝ってくれる人が教えてくれたのよ。港町で仕事が見つかって何人か働きに出たとか、色々とね。今はその港町から炊き出しようの魚を仕入れたりもしているから、工事の状況などの情報も毎日伝わってくるよ」

 教えてくれたというか、聞き出している面もあるんだけど。それは内緒。

「へー、そうなんだ。あ、もしかして聖女の影武者をするってことは、そういう情報を聞き漏らさないようにしなくちゃいけないってことだよね?うわー。私にできるかな……」

「大丈夫だよ。手伝ってくれる人が優秀だから。えーっと、優秀と言えば……」

 あまり、私のことを過信されないように。それから、色々突っ込んで聞かれると困るっていうことで。

 うやむや作戦開始。

「本当かどうか分からないんですけど、情報収集能力に長けた人が言うには、ウォルフにお金が流れていることは、アウナルスにも伝わっているとかいないとか……」

 下手に確信めいて言ったり、私が知ったことにしちゃうと、スパイとかいらぬ疑いをかけられても困る。なので、何処の誰が言ったことなのか、本当か嘘なのかただの噂なのか、曖昧に言っておく。

 事実は、私がアウナルスに伝えました。ごめんなさい。スパイする気は無かったんです。吾妻さんにはめられてうっかりメールで口を割りました。本当のスパイはウルさんです。

 ああ、いや、待て。もしウルさんがスパイだと認めてしまえば、私はスパイをかくまっているということで同罪じゃないの?

 違う。違う。ウルさんの直属の上司は今は私。ウルさんは派遣社員として私の元で働いてくれている。スパイをさせてはいない。

 うわ。でも……、なんだかややこしいぞ。

「そうですか。その可能性もあるでしょうね……。もし、アウナルスがすでに海戦への備えを整えているのだとしたら、トルニープは一矢報いることもできないでしょう。……。なんとしても戦争を止めないと……」

 トゥロンの呟き。

「情報をありがとうございます、女神。ギレンが考えを変えて祭りを催すとすれば、ウォルフから船が届くのも近いのかもしれませんね。祭で国民を高揚させ、そのまま戦争へと駆り立てようということなのかもしれません」

 祭りは私のわがままで無理やり開催させちゃうだけなんだけど。でも、ギレンは「国が混乱する前に早々に祭りの準備を」と言っていた。

 だから、理由は違えど、トゥロンが言うようにウォルフから船が届いて戦争の準備が整うのは近いだろう。

「逆に言えば、祭りが終わるまでは戦争を始めないということですね……」

 顎に手を当てて、視線が空を鋭く捉える。トゥロン……。祭りが終わったその時を、革命を起こす時だと、あなたの目が言っている気がする。

 覚悟を決めた上でも、やっぱり心は揺らぐこともあって、兄である陛下を討たない未来を期待したりもしたんだろう。

 ……。

 何年前だったかな。すごく好きで好きで、でも振られちゃって。

 もしかしたら、別れの言葉は嘘だったのかもしれない。もう一度やり直せるかもしれない。

 彼を忘れなくちゃいけないんだって、彼を忘れる覚悟をしても、でも、心が揺らいだ。電話が鳴れば彼からかもしれないって期待して。

 全然違うかもしれないけど、だけど……。その「もしかしたら彼はまた私を見てくれるかもしれない」って淡い期待は、彼が新しい彼女と幸せそうに並んで歩いているのを見るまで続いた。

 祭りが終わったら、革命を実行する。そうして決行日程を決めることが、トゥロンの最後の覚悟の瞬間なのかもしれない。

 だけどね。

 私は、せっかくのトゥロンの覚悟を打ち破りたいんだ。

 戦争も止めたいけど、トゥロンが兄弟で対峙するのも止めたい。

 だから……。

 だから、祭りで奇跡を見せるよ。

 必ず……。成功させる。させてみせる。

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