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211 女を見る目、男を見る目

「女神よ、相談というのは?」

 この件に関しては、多分カーベルさんの方が詳しそうだよね?

「カーベルさんが戻ってから」

 というと、トゥロンは頭を下げた。

「お礼が遅くなりました。女神、ランを連れて来てくださって」

「トゥロン、私は偶然会ったランちゃんを秘密の通路まで案内しただけで、特に何もしてないよ?ランちゃんは自分の力で、トルニープの王都まで来たんだから」

 私の言葉に、トゥロンは驚いてランちゃんの顔を見た。

「ラン、どういうことだ?」

 驚くのも無理はないよねぇ。せっかく城から逃げて、陛下の手の届かないであろうキュベリアのセバウマ領まで行ったというのに、わざわざ戻ってくるなんて。

 ランちゃんは、私に話してくれた話を、かいつまんでトゥロンに説明し始めた。

 さっき、私に話して涙を流したからだろうか。今度はあまり感情的にはならず話を進める。

 しかし、途中何故か、トゥロンがむっとした顔を見せた。

「ラン、お前まさか、」

 なんで?むっとするんだろう?トゥロンだって、元歌姫だったメイヤさんのこと大切にしてるし。歌を馬鹿にしたチョビンに腹を立てたように、歌の力を知ってるよね?

 歌いたい、歌で人を救いたいというランちゃんの想いを聞いて、機嫌を悪くする理由が分からない。

「シャルトの坊ちゃんと……」

 トゥロンの言葉に、ランちゃんは、カーッと顔を赤らめ、両手で頬を押さえて頭を横に大きくふった。

「ち、ち、違うわよ、兄さん!何いってんの!」

 こ、この反応、違うっていいつつも、ランちゃん……。

「シャルト様には、想う人がいるんだから、私なんて……」

 ランちゃん、まさか、シャルトのこと……ら、ら、ら、ラブなのぉぉぉぉぉっ!

 お、おねーちゃんに話してごらん!うほっ。

 や、やばい。恋バナに狂喜する先輩OL状態になっちゃった!

 っていうか、トゥロンってば、ランちゃんがシャルトラブなのを見抜いちゃうってすごいなぁ。不機嫌になったのは、ランちゃんが彼氏の話をしたと思ったからなんだ。っていうか、トゥロンはランちゃんのお兄ちゃんっていうよりもすっかりお父さんじゃん。

 何処の馬の骨とも分からない男にランを任せられるか!ってやつだよねぇ。

 まぁ、シャルトのことは、何処の馬の骨かは分かってるわけだけど。

「……シャルト坊ちゃんの想い人か……」

 トゥロンは小さな声で呟き、私の顔を見た。

「し、知らないよ?私もシャルトの好きな人が誰かなんて!っていうか、シャルトに好きな人がいるっていうのも初めて知ったよ!ごめんね、ランちゃん力になりたいけど力になれない……」

 と、全力で申し訳なさをアピールしたんだけど、トゥロンがとっても残念な子を見るような目を私に向けた。

 そりゃぁ、私だってランちゃんの恋の応援したいよ?でもさぁ、本当に知らないんだから仕方ないじゃない。

 そんなに残念そうな目で見なくても……。

「ラン、お前の話を聞く限り、シャルトの坊ちゃんも、随分マシな男になったようだ」

 トゥロンが、ランちゃんの肩に手を置いた。

「奴なら、お前を幸せにしてくれるだろう」

 おや?トゥロンの許可があっさり下りたよ。うん。でも私もシャルトはこれからもどんどんいい男になるだろうから、きっとランちゃんを幸せにしてくれると思うよ。

「兄さん、駄目だよ、シャルト様は一人の女性のことを想っているんだから、私なんて……」

「大丈夫だ」

 トゥロンが力強い言葉で言い切る。

「その女性と坊ちゃんが結ばれることはない」

 何で言い切れるんだろう?ランちゃんを励ますためだけに、いい加減なことを言っているように見えない。

 もしかして、トゥロンはその女性のこと知ってる?ありうるなぁ。キュベリアにいた頃って本当に女性の知り合い多そうだったもんなぁ。

 トゥロンの顔を見ると、トゥロンと目が合った。

「兄さん、分かったわ!私、頑張る。だから、兄さんも頑張って!」

 え?ランちゃん、トゥロンの言葉すっかり信じちゃったよ?

「ああ、すべてが片付いたら、全力を出すよ」

 トゥロンは、ランちゃんの言葉に私の目を見たまま答えた。

 強い、トゥロンの目の力。心の底がざわつく、あの目だ。全力を出して、何をするの?

 トゥロンは目の力を緩め、ふっと優しく口元に笑みを浮かべ、ランちゃんの頭をぽんぽんと軽く叩いた。

「ラン、シャルトは女性を見る目だけは確かだ。しっかりと女を磨けよ」

「もちろん。リーさん、色々教えてね!」

「え?私?私に教えられることあるかな?」

 シャルトは貴族でしょ?貴族のお嫁さんに必要なことって、ダンスとか?食事の作法とか?領主の補佐だって何するのかとか全然わかんないよ?

 私のしっている上流階級の奥様の顔を思い浮かべた。

 ガンツ王の妻であるチュリ様。

 それから、シャルトのお母さんであり、マーサさんのお姉さんであるマーゴさん。

 あと、そうだ……キュベリアの皇太后様にもお会いしたんだっけ。

 3人の共通点。えーっと、共通点といえば……。

「ランちゃん、私でよければ、いつだって化粧の仕方を教えてあげるよ!」

 3人とも、私はメイクしてあげたんだった!そして、3人とも満足してくれたんだ。私に教えられることといえば、社交界でも自慢できるようなメイクの業だよね!

 ランちゃんは、とても残念そうな顔をして、トゥロンの肩に手を置いた。

 え?違った?

「兄さん、男を磨いて頑張って」

 あんまりしみじみとランちゃんが言うものだから、思わずトゥロンの援護に回る。

「ランちゃん、トゥロンは十分いい男だよ?」

「だってよ、兄さん」

 ランちゃんがニヤッと嬉しそうな顔を見せた。

 トゥロンは、しょうがないなぁという表情で、ランちゃんの頭をくしゃっとなでた。

 ああ、兄妹だからなのかなぁ。すごく自然に、頭くしゃっとか、頭ぽんぽんとかするなぁ。

 あれ?なんだろう。私、ちょっとうらやましいとか思っちゃった。

 ……。トゥロンの大きな手で私も頭くしゃってしてもらいたいとか……。

 変なの。

「お待たせいたしました」

 カーベルさんが、ノックと共にお茶と焼き菓子を持ってきた。

 甘味不足の世界だから、焼き菓子といってもクッキーよりは塩煎餅に近いものだけどね。

2巻加筆分(予定)の登場人物→チョビン

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― 新着の感想 ―
[良い点] 楽しく読ませてもらってます。 [気になる点] ちょっと吾妻さんにもトゥロンにもどきどきしすぎです。ラトくんだけに絞ってください。
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