205 芋虫王子
ウルさんが「あの女」とやらを調べるための話をしていたが、しかし、全く頭に入ってこない。
無駄なのだ。
もう、いくら何を調べようと、ミュイロン王子殺害犯なんて出てこないんだから。いや、そもそも殺害されてもいない。攫われたわけですらない。
異世界をまたいだ、壮大な迷子になっただけなのだから。
夜、部屋に一人になってから急いでユータさんに電話をする。
まずは確かめなければ。
電話のコールが3回、5回、7回……。出ないかな?
万が一、メィロン君とミュイロン王子が別人だという可能性も無いわけではない。
竜咆の森があるのはキュベリアだ。トルニープ国境付近とはいえ、仮にも王族が国境を簡単に越えたりするだろうか?護衛が止めるのではないだろうか?
それに……。
いくつか別人であるという理由を考えて、苦笑する。万が一だ。ほとんど可能性はないだろう。
自分でも苦しい理由を並べているという自覚はある。
10コール目でカチャッと音がする。
「アロ、ボゥリー」
ユータさんが異世界語に対して、日本語でやや早口に言葉を発する。
「ユータさん、メィロンのことで聞きたいことがあります」
「はい、何でしょう?」
「メィロンが見つかったときに、何人か亡くなっていたといいましたね?どのような人たちなんですか?」
「ああそうか、何も言ってなかったね。メィロン以外はすべて成人男性だった。皆同じ服装をし、帯剣していたことから考えるに兵士や騎士なんだと思う。見つかった当時のメィロンの服装は豪奢なものだった。たぶん、金持ちの子息だろう。亡くなった人は護衛だったと考えるのが妥当だと思う」
豪奢な服装、護衛……。
ああ、やっぱりメィロンはミュイロン王子?
「メィロンが、こちらの世界に帰れるとしても、両親を捜すことはできるの?」
「ああ、そうだ。それも頼もうと思っていたんだ。さっきも言ったとおり、メィロンはある程度の家の子供だと思う。だから、3年前に子供が護衛と居なくなった事件を調べればすぐに分かると思うんだ。捜してもらえないか?」
「捜す……」
ぼんやりとして、ユータさんの言葉をおうむ返しにする。
「ああ、ごめん。流石にそれだけの情報で捜してといっても困るよね?」
ううん、困っているのはそんなことじゃないんだ……。
「護衛だったと思われる人の持っていた剣の束に芋虫みたいな模様があったんだ。そちらの世界では、持ち物に紋章や名前を表すマークを記す風習があるだろう?芋虫なんて、かなり特徴があるからすぐに見つかると思うんだ」
「芋虫……」
ユータさんの言葉に、いつかランちゃんとした話が蘇る。
畑仕事をしていたランちゃんが声を上げた。
「あら、国王ジュニアがいるわ」
「え?国王ジュニア?」
ランちゃんが、何かを手に包み楽しそうな顔をして私の元にやってきた。
「ほら、これよ」
ランちゃんが開いた手の中には、もぞもぞと芋虫が動いていた。
「ひっ」
一瞬驚いてひるむ。
声を上げて逃げ出すほど芋虫が苦手というわけではないが、やっぱりあまり気持ちのよい物ではない。
「これが、国王ジュニア?」
私の問いに、ランちゃんが頷いた。
「トルニープの紋章が蝶なのは知ってる?」
「紋章が蝶?知らなかった」
国の紋章のイメージって割と勇猛果敢な生き物ってイメージがある。蝶なんて女性っぽいから不思議な感じがする。
「何でも、初代トルニープ王が好きだったらしいの」
「へぇ~」
ああ、そういえば居たわ。昆虫採集マニア。あれは中学校の時だ。小学校低学年のころ、カブトムシから始まり、中学生のころには色とりどりの蝶に見せられたという男子が。
それに、伊達政宗だって、当時は色とりどりの水玉模様っていう衝撃的な模様を好んでいたらしいし、男だから蝶模様はダメだっていうのも変な話だもんね。
「トルニープの紋章が蝶。つまり、王様が蝶ということで、蝶がとまる花のことを、王妃と呼んだり、芋虫のことを王子と呼んだりするのよ」
王子を芋虫になぞらえるのであれば、王子の護衛の剣に芋虫のマークがあっても不思議は無い。
ユータさんに、小さい声で答える。
「一人、心あたりがあります。後で確認してみます」
王子の護衛の持っていた剣について確認すれば、メィロンがミュィロン王子であるか確証が取れるよね。
「ありがとう。そうそう、メィロンの特徴だが、髪の色も瞳もは薄い茶色だ。右の頬に、3つ黒子が三角になるような形である。あと、左手の甲に、蝶のような形の小さな字がある」
三角の黒子と蝶の字、そんな特徴的なものが体に2つあれば、まず間違いなく同一人物だろう。
誰に尋ねれば分かるだろうか……。やはり、トゥロンだよね。
ミュイロン王子がメィロンだと確証できたら、そのままトゥロンにウォルフのことを伝えよう。
ウォルフから船なのか、船で武器や兵士を運んでくるのかは分からないけれど、まだ港は工事中だ。革命時に、王側に思いも寄らぬ援軍が現れる可能性は低いだろう。
万全の策を練って、なるべく血を流さない革命をと祈るしかない。
次の日、いつものように聖女の行進を行っていると、家の戸口に立って深々と頭を下げる人がいた。
手には杖をもち、ふらつく体を支えている。
ああ、あれはガイルさんが配達をしている家の人なのかもしれない。革命が成功して、トゥロンが治めるようになったら、ああいう人も居るということを伝えよう。
ガイルさんがしていること、炊き出しで働いてくれている多くの人のこと、ちゃんと全部伝えなければ。少しでもよい国を作ってもらえるように。カーベルさんもいろいろと考えてくれるに違いない。
私の役割は、革命が終われば終わるだろう。
……。
どうしようか。日本への帰り道を探す旅に……ウルさんやオーシェちゃんたちを護衛として頼もうか。
帰り道を探しながら、アウナルスに行ってみようか。吾妻さんに会いに……。
すいません、次回更新通常通り0と5の付く日のルール継続です。というわけで、2月は30日がないので、3月5日まで少し間が空きます。




