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202 吾妻、たばかりおったな!

 私はどうなんだろう。

 日本に帰れないとしたら?

 ……。私、日本に帰れないこと前提で考えたことあったかな?

 このまま日本語を忘れちゃったら?日本のことを忘れていくとしたら?

 帰りたいと思い続けて、こちらの生活にあるかもしれない幸せな未来を棒に振ってしまうとしたら?

 ユータさんは、あと、1、2年が限界かもと言っていた。

 私は……ずっと、ずっと、日本への帰り道を探して生涯を終えるの?

 それでいいの?

 そんな一生でいいの?

 ユータさんとの電話を切って、身震いがした。

 私も、期限を設ける必要があるかもしれない。あと、どれくらい日本への帰り道を探して見つからなかったら諦めると……。

 日本に帰るのを諦めて、誰かと恋をして結婚して子供を生んで、泣いたり笑ったりして、幸せだったと思える一生を送る。

 あと、何年?

 ……。

 ……。

 だめだ、今はまだ、決められない。

 いいや、決めたくない。

 硬く目を閉じる。

 竜咆の森の洞窟……。あれがある限り、諦めるのは難しいよ。だって、命の危険はあるけれど、無事に日本に帰れる可能性もあるんだもん。

 そろえよう。

 救命ボートに、救命胴衣、パラシュートに、非常食。水に、それから……。

 何かに、取り付かれたように、パソコンに向かう。頭を鞄の中に突っ込み、検索。

 膨張型救命いかた。あらかじめ色々な物が収納できるんだ。なるほど。元々十人のりとか大きさもあるから、結構物が載せられるんだ。

 何日分の食料が載せられるだろう?

 不安を忘れようとするように、夢中でパソコンに向き合っていた。ドアがノックされるまで。

 オーシェちゃんたちが戻り、気もそぞろに反省会。

 だめだなぁ、もう少し集中しなくちゃ。まだ、革命前だし、戦争の危機も完全に去ったわけではないんだから……。

 と、一人心の中で自己反省。

 反省会の終りに、皆に聞こえないようにウルさんが一言。

「礼の件ですが、まだ内密にお願いいたします」

 ウォルフの件を、オーシェちゃんたちには言わないようにとのことだよね?皆に内密といわれても困るよ。トゥロンたちには伝えるつもりだから。だから、是とも否とも取りかねるよう、曖昧に笑ってごまかす。

 皆が部屋を出て行ってから、深呼吸。

 

 不安。不安。不安。

 怖い、どうなるんだろう、どうしたらいいんだろう。

 

 すー、はー、すー、はー。

 落ち着け自分。

 大丈夫だよ。大丈夫。

 

 鞄から携帯を取り出し、吾妻さんにメールを打つ。

『吾妻さんは、今、幸せですか?』

 日本に帰れない、いや、帰らないという選択をしたであろう吾妻さん。

 しばらくして、返信がある。

『ああ。正直に言えば、辛いことも悲しいこともたくさんあった。これからもあるだろう。だが、幸せだと思う』

 そうか。

 そうなんだ……。そうだよね。

『それに、これからもっと幸せになれると思っている』

 吾妻さんは、どんな苦境においても、希望の光を見出せる前向きな正確なのかな?

『君が嫁に来てくれれば、もっと幸せになれるからな』

 ぷっ。いつもの嫁ネタキター。

『日本人男性の多くは、結婚は墓場だとかいいますよ?尻に敷かれてカカア天下になって、こんなはずじゃなかったって後悔するかもしれませんよ?』

『墓場が不幸だと決まっていないだろう?故人への愛に満ちた場が墓場だと考えれば、結婚は相手のことを心から愛おしく思う場ってことにならないか?』

 お、そう来たか。なかなかすごい考え方するなぁ。でも、言われて見れば、お墓って怖い場所というイメージもあるけれど、確かに故人への愛があるからこそ訪れる場所だよねぇ。愛ありきの場所だ。

『そういえば、吾妻さんは長い間こちらの世界に居るんですよね?日本語を忘れそうになったりしなかったんですか?どうやって、忘れないようにしているんですか?』

 メールのやりとりはすべて日本語だ。吾妻さんのメールにおかしな日本語がまぎれることはまずない。どうすれば、日本語を忘れずにいられるのか。

『まぁ、使っていれば忘れないな』

『使ってたんですか?』

 もしこの世界に日本人が他にいたら、教えてくれてるはずだよね?だから誰かと会話してるわけじゃないよね?ああ、電話が通じてるから、誰かと話したりメールしたりしてたのかな?でももうずっと充電がもたない状態だったんだよね?となると……

『日記でも、書いてたんですか?』

『まぁ、そんなところだ』

 ああやっぱり。吾妻さんも私と同じように、異世界語を話すことは出来るようになっても、読み書きは時間が掛かって大変なんだろう。だから、日記とか何か書きとめるときは日本語なんだろうな。だから、日本語を忘れずに居たんだ。っていうか、忘れないだけの量を書いてたってことだよね。紙がないのに何処に書いて何処に保存してるんだろう?

『ところで、ウルから”ウォルフ”と狼煙があった。詳細を教えてくれないか?』

 狼煙じゃぁ、伝えられることってその程度なんだ。そんな断片の情報から、推測しなくちゃいけないんだよね?密書が届くまで詳細が分からないってことだよね。

 突然”ウォルフ”って言われたって、そりゃぁ戸惑うよねぇ。

『いいですよ。トルニープの宰相が、ウォルフと取引があるようなことを言っていて、ウルさんが船を買っているんじゃないかって』

 えーっと、それから、確か船を使ってアウナルスを攻めるとかなんとか……って、私が吾妻さんがアウナルスに居るのを知っているような話してもいいのかな?

『やはりな……』

 おお、さすが吾妻さん。ウォルフってだけで、船のことも分かってましたか。

『はやり、君がこの情報収集に関わっていたんだな』

 え?


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― 新着の感想 ―
[気になる点] ウォリフだったのがウォルフになってる。 数話ウォルフになってるから、直すなら初出の回をウォルフにした方が楽だね。
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