149 お姉さまは派遣社員
いつの間にか眠っていたらしい。
朝起きたら、隣のベッドにオーシェちゃんが眠っていた。
今、何時だろう?窓を開け、日の高さを見る。ちょうど朝食の時間といったところか。こっちの世界では太陽と共に時間はあるんだよね。時計なんてないからさ。
朝日を浴びて、うーんと伸びをする。
まだ、ユータさんからの手紙のことで、胸の奥がもやもやする。
ダメだ。考えてもどうにもならないんだから。忘れよう。
そう、忙しくしていれば、考える暇もないくらい忙しくしていれば……きっと少しずつ忘れられるよ。
今度、ダイレクトメールを燃やすときに、一緒に……燃やしてしまおう。
……燃やせるかな。やっぱり取っておこうって思うかな。燃やす前に読もうって思うかな。いいや。そのときにまた考えれば。
今は、そう。やるべきことが目の前にある。
「オーシェちゃん、おはよう、ご飯食べに行こう」
そっと揺り起こすと、オーシェちゃんはびっくりして一瞬で飛び起きた。
「ふわはっ」
頭の上の寝癖がかわいいな。ちょいっとなでて直してあげる。
うん。妹の寝癖もよく直してあげたなぁ。
「リ、リエスおねぇさま~!ありがとうございます」
目がキラキラ。
ええーっと、おねーさまとか言いました?
「リエスお姉さまより寝坊するなんて、申し訳ございません。昨日は、つい話が弾んで」
何の話かは、聞かないほうがいいよね?
それより、やっぱりお姉さまと聞こえるんですが……。また、呼び名が増えました?
っていうか、やめてーっ!首の後ろがむずむずするっ。ぶるぶるっ。まだ、リエスおばさんと呼ばれた方がマシ!
……。いえ、嘘です。
やっぱりまだおばさんと呼ばれるのは傷つきます。
アラフォー初心者ですから……凹。
あれだよ、あれ。20代後半に、友達との会話で「もう、私たちもおばさんだよねー」っていう時の「おばさん」と、30過ぎてから人に「おばさん」は、全然意味合いが違うんだよ!
おばさんと言われるよりは、お姉さまの方が……って、無理、どっちも無理。
オーシェちゃんに背中を向けて、急いで簡易男装メイク。
「オーシェちゃん、僕のことはルイスと呼んでおくれ」
オーシェちゃんのキラキラお目々が、少しだけ潤んだ気がする。いや、気のせい気のせい。
「はい!ルイス様ぁ!」
今、小さい「あ」が聞こえたんだけど?その後ろにハートマークが見えた気が……いや、気のせい気のせい。
花のミイラを身に付けておこう。
村人の食料を消費させないよう、手早く持参の食料で朝食を済ませる。
村人達は、各々のグループに分かれてそれぞれの作業場所ですでに昨日の続きをしていた。それどころか、すでに畑の手入れなど、一仕事終えているらしい。
働き者だなぁ。
村長の家から一歩外に出ると、秘密を守れない人は去れとウルさんが言ったときに身を引いた人たちが所在無さげに立っていた。
そうだよなぁ。これだけ働き者の人たちの中にいて、自分達だけ何の作業もしないというのは逆に苦痛かもしれない。
ウルさんに耳打ちする。あ、もちろん、内緒話じゃなくって、単に通訳のふりをしてもらうため。
「皆さんに仕事をお願いしてもいいですか」
ウルさんの言葉に、10歳くらいの子供も含め、皆元気に返事をした。
そうか。10歳だともう立派な働き手なんだね。
「紙を作る間、どうしても畑の手入れが手薄になります。サツマイモ畑はモヅグループの皆さんが見張りも兼ねて世話をしてくれますが、ジャガイモやその他の畑に人がいなくなります。それを不信がる人が現れるかもしれません。紙を作っているときは、皆さんで、サツマイモ以外の畑をお願いします。また、手が空いていれば、紙を干す作業の手伝いもお願いします」
仕事を頼まれ、村人達は喜んで役割分担を話し合い、仕事をしに向かった。
働くことって、楽しいよね。働かされることは苦しいけど。必要とされているって思うのも、役に立つことができると思うのも、楽しいことだよ。
なんで、新卒社会人の言われないとできないあの子たちには、それがなかったんだろうなぁ……正社員になれたらそこがゴールじゃないのになぁ。
って、あれ?
そうだよね。正社員になりたい、就職したいって、私、ずっと思ってたけど……。正社員になれさえすれば、それでよかったんだろうか?
私も、結局正社員になるイコールゴールだと考えてなかっただろうか?
もしそれで就職できたとして、長続きしたんだろうか?
「ルイス様、どうかしましたか?具合が悪いのでしたら」
「あ、ごめん。ちょっと考え事。さぁ、昨日の続きの作業をしよう」
昨日、モヅグループに秘密は教えた。
今日はカモフラージュの紙作りの続きを教えるだけだ。
すでに昨日からサツマイモの蔓をじっくり煮込んである。
布に来るんで水を切り、体力自慢の2班に叩いてもらう。そして、改造手裏剣ミキサーへ投入しようとしたところで、2班の1人から声がかかった。
「これを、試してみてください」
何と、すでに手動ミキサーを作り上げていた。目が赤いところを見ると、夜を徹してということか。
有難い。あまり村に長居もできないので、さくさくと作業が進むのは本当に有難い。
手渡されたミキサーに、叩いた蔓と水を入れて、火を起こす要領で弓を引いてもらう。
しっかり煮込んで充分叩いた後なので、昨日よりも抵抗力なくスタートが切れているようだ。数分後、確認するとしっかり青汁っぽくなってた。
「やった!成功だ!」
目の赤い数人が手を叩いて喜んでいる。
うん。良かった。
青汁を持って、今度は3班の作業場へと移動する。
各々の班が秘密を持っているため、移動は私たち5人のみ。
3班で、青汁を大きな鍋に注ぎ、水を入れかき混ぜる。和紙のように大きな紙を作るわけではないので、鍋で充分事足りる。
3班のメンバーも目を赤くしている。紙すきの枠を夜通し作ったようだ。
紙すきのコツをいくつか教えながら、やってみせる。ウルさんの通訳を通しての説明だから、少しメンドクサイけど仕方がない。
村人は、あっという間にやり方を覚えて、それぞれが練習に入る。初めのうち、塊がぼこんとできたりと上手くいかなかったようだが、次第にコツを掴んだようだ。
後は、平らな板にのせ、重石をかけて水を抜いて、干せば完成だ。
とても天気がよく、午後には村製サツマイモの紙第一号が完成した。




