135 吾妻さんと喧嘩
派遣社員というよりも、出向になるのかな?
吾妻さんに、メールした。ウルさんを貸してほしいと。ウルさんの籍は吾妻さんに、給料は私に出させて欲しいと。
『金のことは気にするな。ウルに頼みがあれば、遠慮せずに何でも言えばいい』
『それでは、申し訳なくて、頼みにくいです』
貸しを作ってばかりじゃぁ、寝ざめが悪いよねぇ。
『そうか?君はもうちょっと甘えることを覚えればいい。それではモテないぞ』
……。
はぁ?
どうせ、私はモテないアラフォーですよ!
しかも、「君は一人で大丈夫だから」とか言って振られたこともありますけど?凹。
でも、なんで今そういう言葉が出てくるかな?セクハラだよ?
吾妻さんって、一千万の件といい、女には金与えとけばおとなしく従うとか、そいうい考えの人?
それじゃぁ、エロキモと紙一重じゃない?
もういいや。
携帯をカバンの中に放り込んで、布団をかぶって寝た。
次の日の朝は、ウルさんと一緒にラジオ体操をした。
体も昨日よりは楽に動かせるので、少し別荘から離れた場所まで散歩に出ることにした。ウルさんは心配してついていくと言ったが、獣などの危険がないと確認したので一人で行かせてもらう。
歩きながら、考え事もしたいからとお願いした。
別荘の南側は湖になっている。北側は、草原があり、少し行けば森になる。人の行き来がない割には、しっかりとした道があるので、迷子になることもなさそうだ。
森に入ってすぐに、あることに気が付いた。
「そうだ!」
良いこと考えた。きっと役に立つよ。
急いで別荘に戻ってウルさんに確認する。
「ウルさん、そこの森って、勝手に何かしても咎められない?」
「ええ、そうですね。ボスの管理地ですから、誰も咎めないですよ」
「それを聞いて安心したわ!しばらく森にいるから、夕飯までには戻ってくるね」
急ごう。
トルニープに戻るまで、さほど日数をかけるつもりはない。
夕飯の前に、別荘に戻るとウルさんが少しびっくりした顔をする。
ウルさんは、初めのうちはポーカーフェースだったけれど、親しくなるにしたがって表情を見せてくれるようになった。仕事の顔とプライベートの顔を使い分けが上手なのかな?
「どうしたんですか?それは?」
両手に抱えたきのこや木の実を受け取りながら、ウルさんが尋ねた。
「おいしそうだったから」
前に、食べられるきのこや木の実のことをトゥロンから教えてもらっていた。
こうして、トゥロンのことを思い出すと、胸の奥がぎゅぅっと痛くなる。だけど、今はもう絶望して後ろを向いたりしない。
トゥロンに顔向けできるように、精一杯やれることをやるって決めたから。
「本当に、おいしそうですね。ありがとう」
ごめん、それ、カモフラージュ。森の中に長時間滞在していても怪しまれないための品。
「これで、何を作りましょうか?」
ウルさんが、きのこを摘み上げる。
別荘には、寝たきりだった私の世話をしてくれていた女性が帰ってからは、私とウルさんの二人きりだ。
ウルさんが、食事の用意もしてくれている。よくできた人だ。
「ウルさんは休んでいて、私が作るから」
きのこたっぷり、ペペロンチーノ風うどん。好評でした。
夜、メールを確認すると吾妻さんから4つ。
一つは昨晩のうちに来ている。
『すまなかった』
前のモテないぞメールから、30分後に来ている。私からの返信がなくて、怒っているのが伝わったらしい。
それから、今日の朝にも『悪かった』とメールが。
昼に『機嫌を直してくれないか?』と。
おいおい、メールは夜しかチェックしませんと、前に言ったのに。朝とか昼とか、どこに隠れてメールしているのやら。仕事とか大丈夫なのかな?
それで、いつもメールするくらいの時間にもメールが来てる。
今日は、うどんを作るのに時間がかかったし、森を歩いて疲れたのでのんびり風呂に浸かっていたから、いつもの時間から1時間は過ぎてる。
『言い訳をさせてくれ。よく考えると失礼な文面だったと思う。メールではニュアンスが伝わらないことを失念していた。異世界に来て、不安なときに俺は随分回りに助けられた。だから、君を助けてあげたいと思った。同じように異世界に来てどれだけ不安なのかと心配なのだ。許してほしい。それから、最後の一言は、その、なんだ、『日本に恋人がいますから!』とか『どうせ彼氏いない歴5年ですよ!』とか、何らかのリアクションで君の情報を得ようとしたんだ。君がいい女だということは、知っている』
んんっ。
ニュアンスか、確かにメールじゃぁ、冗談めかした言葉なのか、本気なのか、説教めいているのか分からない。
吾妻さんが異世界に来た時のことは分からないけれど、そうか。
同じ異世界に来た私を気遣って甘えてくれと言っているのか。女だからとかじゃないんだ。私がおじさんでも、助けようとしてくれるんだよね。
それから、リアクションで情報を得るつもりって、例えばバイト先の男性に、「彼女に怒られますよ~」と言ってみて「彼女なんていないよ」って返事が返ってくるかどうか試すってあれだよね。
ズバリ、彼氏はいるのか?って聞くと私に気があるみたいに思われちゃうから、遠回しに知ろうとしたのかな?
っていうか、モテないと思われるよりも、いい女だと思われる方がプレッシャーだよ。会ってガッカリされるのっていやじゃない?まぁ、会うかどうかわからないけど。でも、年齢サバよんじゃうと、会ったときにガッカリされるよね?やっぱり年齢聞かれたら正直に答えよう。いや、吾妻さんの年齢を知るのが先だけどね!って、年齢の話は今は関係ないし!
さて、どうメールするべきか。ちょっと腹が立ったことは事実だから、ちょっとだけ利用させてね。
『怒ってませんよ。ちょっとショックだったけどね。それで、ウルさんの件なんだけど派遣社員してもらってもいい?給料いくら払えばいいかな?』
『許してくれてありがとう。給料だが、本当に金は必要ないんだ。しかし、君の気が済まないというのであれば、別の物で俺に対価を支払ってくれ』
え?別の物?
私に払える物ってなんだろう?




