133 髪を切る
どこまで、吾妻さんに頼ったらいいんだろうか?
人々を助けたいと思っても、正直、私一人では大したことはできないと分かっている。
それに、ランちゃんとメイヤさんの無事を確認することも困難だろう。一人でキュベリアの王都まで行くことさえままならないのだから。
って、そもそも、この別荘ってどこなの?キュベリア?トルニープ?結構な日数を移動してるから、もっと別の場所かな?
一人でも救うために必要な物、それはズバリお金だ。
何もトルニープは凶作が故に人々が飢えているわけではない。作物はあるのだ。ただ、一部の人間が搾取しているだけで。だから、お金さえあれば食料が買える。そして、飢えている人たちに配ることができる。
お金の無心を吾妻さんにするつもりはない。
だって、いったいいくら必要なの?きりがないよね?それに、与えられる物っていうのは、供給源が絶たれればすぐにだめになる。ちゃんと、自分で生み出すことが必要だ。
っていうか、エロキモに金を出させてやる!今はま、いい案が浮かばないけれど、でも、エロキモから金を搾り取る!
というわけで、お金の件は解決。いや、解決してないけれど、吾妻さんには頼らない。
情報、これは一人ではどうしようもない。ランちゃんやメイヤさんのことを誰かに話して、もしエロキモ側にそれが伝わったら身もふたもない。吾妻さんに頼る。携帯電話の受け渡しの時といい、私が助けを求めた時といい、どうも吾妻さんは情報収集伝達に長けた人脈があるみたいだしね。断られたら、それはその時に考えるとして。
身の安全は自分で何とかする。というか、誰も危険にさらしたくない!
リハビリがてら、別荘の周りをゆっくり散歩しながら頭を働かせる。
私、ひょっこりトルニープに顔を出して安全だろうか?
守護されし者の印の効果が持続していれば、最低限の安全は確保できるとは思うけれど、果たして自由は手に入るのか?ランちゃんたちのことをしつこく追及されたりはしないのか?
うん。身を隠しながら行動した方がよさそうだ。念には念をいれて、変装した方がよさそう。また、薔薇のリエスか?いや、あれはフルメイクとウイッグでかなり疲労するんだよなぁ。
吾妻さんに頼むことはもう少し考えがまとまってからメールすることにして『1千万と、前回の970万の返金をしたいので、振り込み先を教えてください』とだけメールしておいた。吾妻さんからの返信は、なかった。ここんとこ毎晩メールのやりとりをしているというのに返信がないとかどういうことだろう。そんなに返金されたくないのか?もしかしてマネーロンダリングに利用されてるとか?そんなわけないか。
次の日、風呂から出た私の姿を見てウルさんが少し驚いた顔をした。
この別荘には風呂があるのよね。しかも、天然温泉のお湯がたっぷり!これは嬉しかった!
こっちの世界に来てから初めての湯船だもん。やっぱり、この別荘は吾妻さん仕様なのかな?だって、こっちの世界って、貴族のお屋敷だろうと迎賓館だろうと、湯船らしいもの見たことないんだもん。湯あみ場みたいなのはあるんだけど、大きめのタライみたいなのにお湯をなみなみと満たしてある程度。しかもそれは浸かるためではなく、大きなひしゃくみたいなのですくって体にかけるためのお湯なんだもん。
「よかった。びっくりしてもらえた?」
ウルさんの反応に満足。
オーパーツになるんだけど、カバンから髪染めを取り出して、髪の毛を染めた。かなり明るい茶色に。
「どのような方法で、髪の色を変えたんですか?」
「私の故郷にある秘伝の方法です。秘伝ですから、教えることはできませんが、こちらの国では髪の色を変えたりはしないのですか?」
「ええ、私も、色々な国を渡り歩いていますが、髪の色を変えるというのは初めて見ました」
よしっ。
心の中でガッツポーズ。
髪の色を簡単に変えることができるって常識がない世界なら、これでかなり正体を隠せるだろう。
もし万が一エロキモに見つかっても「別人です」って言い張ってやる!
「ウルさん、少し髪の毛を切ってもらってもいいですか?」
「リエスさん、本気ですか?」
また、驚かせてしまった。
そりゃそうだろう。やっと後ろでひとまとめにできる程度にまで伸びた髪を切ってほしいというのだ。今ですら女性ではありえない短さなのに、これ以上短くすればまるで男だ。
うん、でもなるべく別人に見られるようになるには「少年」の方が都合がいい。
アラフォーなめんなぁ!
これまで、忘年会のかくし芸にだてに力を入れていたわけではない。何年か前の会社では男性ダンスユニットのものまねをしたものさ。
ネットで、男装メイクの方法を研究して、当日2時間かけたメイクは、イケメンと大好評だった。
ダンスの方は、全然体が動かなかったので、あまり立派な出来栄えではなかったけれど凹。
その時にさらしを巻いて胸を潰す方法も練習したから、ラトにも気づかれなかったんだよね。
ラト……
元気かなぁ。
すごくやつれてたけれど、少しは回復したのかなぁ。
ああ、そうだ……。
いくら気になっても、私にはもう、ラトのことを知りようもないんだ。
何だろう、携帯の番号を変えちゃって連絡が取れなくなったみたいな、そんな状態?
よく考えたら、私、ラトと山小屋以外の連絡方法しらないよ?
ラトって、どこに住んでるの?どうすれば、無事を確認できるんだろう?
きっとかなり位の高い貴族だろうってことしか分からない。そういえば、シャルトの誕生日会に来てたよね?シャルトに尋ねたら分かるのかな。
って、馬鹿だね。プロポーズを断った相手のその後を知ってどうしようっていうんだろう。
もう、彼の人生に私は関係ないのに。むしろ、関わってはいけないのに。
「こんな感じでどうですか?」
ウルさんの声に、ハッとする。
目の前に、鏡が差し出されて、情けない顔をした私の顔が映る。
一度ギュッと強く目を閉じ、気持ちを切り替える。
もう一度目を開くと、鏡にさっぱりと髪を短く切られた私の姿が映る。まだぎこちないけれど、大丈夫、微笑むことができる。
「ありがとう、素敵だわ!」
ウルさんは、ナイフで器用に髪を切ってくれた。短すぎず、長すぎず、ぱっつんぱっつんにもなってない。少し不揃いなところが、逆に味になってる。
「ちょっと、待ってて」
ウルさんに声をかけて、部屋に戻ってメイク。といっても、きっちりメイクなんてする気はない。
濃いめのアイライン、きりっと眉、鼻筋シャドウ、以上で終わり。これだけでも、かなり印象が違ってくると思う。
「ウルさん、どうかな?」
切った髪を片付け終わったウルさん。
「まるで少年ですね」
と、口に出して慌てて訂正する。
「失礼しました、女性に対して……」




