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【書籍化】無職独身アラフォー女子の異世界奮闘記  作者: 杜間とまと


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131/303

131 石油王な吾妻さん

グアルマキート戦記がリエスに与える影響が強まってきましたので、後半の◆印は省きます。小説内小説部分が長めなので、全体の文章がいつもより多めです。今回を持って、無駄なグアルマキート戦記は終わりです。

**申し訳ないので明日別視点更新します

『

 マラード皇帝軍は絶句した。

 謀られた。

 砦には落とし穴や火縄が仕掛けられていると斥候からの情報は確かだった。落とし穴だけであれば、板を渡せば問題ない。しかし、板の上を渡ることとなれば、当然進路の幅が狭まる。そこを火縄に狙われれば厄介だ。

 さらに厄介なのは、足元に置かれた無数の壺だった。火縄の火が引火すれば、兵たちは火だるまになる。兵力にはおよそ3倍の開きがあり、多少の犠牲はあっても最終的には勝利を収めることはできるだろう。しかし、わざわざ罠にはまって無駄に消耗する気はない。

「1隊から5隊はここに残れ。以下、私に続け!西に回って挟み撃ちにしてくれる!」

 砦の北側に三分の一の兵を残し、マラード皇帝率いる本体は西に進路をとった。

「報告いたします、前方に敵兵」

 斥候からの報告に、一瞬マラード皇帝は眉を上げたが、すぐに冷静さを取り戻した。

「なるほど、砦の北から分かれたわれらを向かい打つ気だったか。しかし、所詮グアルマキート軍など敵ではない。砦に陣取っていた兵士の数から察するに、西で待ち伏せしているグアルマキート兵士はせいぜいが200。北の砦と半数に分かれたとはいえ、我が軍は500。問題ない」

 皇帝の言葉に、斥候が激しく首を横に振った。

「いいえ、200程度の数ではありません」

「何?そうか。ならば北に残しが隊と合流してから叩くべきか?」

 斥候の顔は真っ青である。皇帝は、勝利を確証しているためか、その顔色に気づくこともない。

「合流の必要はないでしょう」

 斥候の後から、三騎、駆けてきた。中央の馬に乗る久司が声を張り上げる。

「グアルマキート領主が、砦でお待ちです。話し合いに応じていただけますか?」

 マラード皇帝の前で馬を下りた久司の右横に、副将軍。左横に第一師団隊長ダミンが立った。

「何戦わずして白旗を上げるのか?」

 マラード皇帝が面白そうに声を上げる。

「いいえ、残念ながら、あなたの選択肢は次の三つです。ここで戦って死ぬか、国に逃げ帰って国を責め滅ばされるか、話し合いに応じるか」

 激昂したマラード皇帝が剣を振り上げる。

「皇帝陛下、お待ちください!」

 振り上げた剣を抑えたのは、口髭を蓄えた体躯のよい男だ。兜に何らかの階級を表す羽が飾られている。

「斥候よりの報告、西に待ち構えている兵の数、およそ1万」

 マラード皇帝は、手を抑えた男の顔、斥候の顔、そして久司の顔と、目を見開いて順に見た。

「まさか、ありえない……国軍が動いたのか?」

 国軍は北の国とのにらみ合いで動かせない上に、目の上のたんこぶであるグアルマキート領を助けることを国王は禁じたと情報を得ていた。実際にどこかの軍が動いたという報告もない。

 まさか、諜報の誰かが裏切って偽の情報を我にもたらしたのか?

「我が、グアルマキート軍を侮りましたね。たったの兵力千で、どのように勝利できるとお考えだったのですか?」

 久司は敢えてマラード皇帝を侮辱する言葉を選んだ。強きを見せないと、張りぼての1万の軍を見破られそうだったからだ。

「あり得ない、あり得ない。おい、行って確認して来い!避難した民衆たちを見間違えただけだろう!」

 マラード皇帝の言葉に、久司の背には冷たい汗が流れる。

 実際、1万は手前に兵士が200いるだけだ。あとは、近隣の領地からかき集めた武具や防具を身に着けた民衆2000と、兜をかぶせ、手に剣を持たせて操る木偶人形なのだ。

「誰に確認させようと、自分の目で見るまでは信じられないのでは?どうぞ、そのままお進みください。あと5分も進めば目に入るでしょう」

 焦りを見せないように、久司は必死に言葉を紡ぐ。

 マラード皇帝は、親衛隊から数十人引き連れて、久司ら3人と馬を進めた。

「馬鹿な……」

 マラード皇帝は、前方のはるか先に、人影の群れを見出した。鎧や剣が日の光を浴びてきらめいている。

 一定のリズムで、剣は天を突き、戦いのときを待ちわびているように見える。

 久司も、同じものを目にしていた。ここからでは、みすぼらしくひび割れた剣も、穴が開き錆びが浮いている鎧も立派に見える。近隣の領地からは、破棄する武具や防具も根こそぎ貰ってきた。艶のないそれらに、油を塗り少しでも光を反射して輝くようにと工夫を申し出たのは第一師団隊長だ。後ろの方に並ぶ木偶には、兜の代わりに鍋が。槍の代わりに箒の柄に包丁を括ったものが握られている。それでも、1万という数に圧倒され、距離を置いてみれば全く分からなかった。

 そして、マラード軍の接近の知らせが入ればシュプレヒコールを上げるように久司は指示していた。声を届かせることが目的ではない。逆に、声が届いてしまう距離まで近づかれては、1万人もいないことがばれてしまう可能性がある。シュプレヒコールの目的は、声を出すことで動きを合わせることにある。そろった動きができるだけで、訓練された兵に見えようというものだ。

「信じられるわけがない。グアルマキートにそれほどの数の兵がいるなど、そんな報告は受けていない!」

 マラード皇帝は、未だ目に見える現実を受け入れようとしない。

 久司の焦りは大きくなった。このまま突進されてはかなわない。

「隠れる必要があったからな。国軍に潰されたんじゃたまんねぇからよ」

 ダミンが、飄々とした声を出した。

「何?サルサリの国軍と一戦構えるつもりだったのか?」

「知ってんだろ?グアルマキートの立場ってやつをよ。国に目をつけられてる。いつ難癖つけられて潰されるかわかったもんじゃねぇ」

 マラード皇帝は、少し落ち着きを取り戻してダミンの言葉に耳を向けた。得ている情報と照らし合わせ、ダミンの言葉に何らかの信憑性を感じたからかもしれない。

「それにしたって、あれだけの数の兵を集めるだけの財力がグアルマキートにあるとは思えないが……」

 ダミンは馬を久司の前に出した。それはマラード皇帝の正面を意味する。親衛隊が色めき立つのを全く気にした風もなく、鎧の一部を外して二の腕を露わにした。

「奴隷?グアルマキートは奴隷に師団長をさせているのか?!」

 ダミンの二の腕には、醜くゆがんだ肌に奴隷の印である焼印が押されていた。

「奴隷ではない、元・奴隷だ。分かるか?この違いが。グアルマキートに奴隷はいない」

「まさか」

「そうだ。自由を求めてどれくらいの奴隷がグアルマキートに逃げてくると思う?」

「あの兵たちは、皆、奴隷だと?」

「奴隷ではない、元・奴隷だ。金なんかいらねぇ。自由をくれたグアルマキートのためなら命を懸けられるっていう集まりだ」

 ダミンはいったん言葉を切った。そして、皮肉を込めた声音でマラード皇帝を挑発する。

「さぁ、どうする?話し合いに応じるか?ココで戦って朽ちるか?逃げ帰って戦場をマラード皇国に変えるか?」

 マラード皇帝は思案した。いや、屈辱的な提案を受け入れるために、思案するふりをして苦痛に耐えた。簡単に勝利を収められると思っていた相手に、圧倒的な差で追い詰められているのだ。

「話し合いに応じよう」

 久司は第一段階を無事クリアできたと、ホッとしたが、表情を緩めることなく淡々とした口調で右手を挙げた。

「では、兵を一旦引かせましょう」

 久司の合図で、1万の兵が足並みをそろえて後退する。間者の侵入を許さない、森の中の天幕に囲まれた広い洞窟の中へと。

』


◆

 佐藤梨絵は絶句した。

 なんじゃこりゃ!

 メールチェックに銀行から「振り込みがありました」メールが来て、引き落としばかりなはずなのに、何だろうと思って見てみたら。

 また、一千万の入金がありました。吾妻さんからです。

「金銭感覚おかしいよね?」

 確かに、昨日メールで本を運ぶ約束をした。前回携帯電話をこちらの世界に運んだ時に代金として一千万振り込まれてたから、今回も本1冊の運賃100万で10冊で一千万とかそういうつもり?

 じょ、冗談じゃない!

 何だかこれじゃぁ、私が振り込め詐欺っていうか、相手の足元見て金ふんだくる悪徳業者みたいじゃない!

 断固返金を申し出る!今日の夜に、忘れずにこのことメールしなくちゃ!

 それにしても、ぽんぽん一千万単位の金を動かせちゃう吾妻さんって本当にいったい何者なの?石油王か?

 コンコンとノックの音に、慌てて携帯と本をカバンの中に隠して返事をする。

「はい」

 私の返事を待って、ウルさんが部屋に入ってくる。

「そろそろお昼ですが、食べられそうですか?」

 上半身を起こす。正直なところ、寝てばかりだからあまりお腹は空かない。でも、ご飯を食べないと体力落ちるので無理にでも食べてきた。

 その甲斐あってか、体はだいぶ良くなったと思う。

「あの、肩を貸してもらえますか?」

「肩、ですか?」

「痛みがかなり収まったので、少しずつ体を動かそうと思うんです。このまま寝てばかりだと、逆に回復に時間かかっちゃいそうで」

 寝てばかりじゃぁ筋肉が落ちて、歩く練習だけでも相当時間かかっちゃうよね。実際、ウルさんがいないときに一人でベッドから立ち上がろうとしたんだけど、足が弱っていて倒れそうになって諦めた。

 何日寝てたんだっけなぁ。

 ウルさんの手助けで、何とかベッドから降りて立ち上がる。立ち上がる時に使う筋肉って、足だけじゃないんだよね。

 体中が痛いと、立つときにどこが痛いかで筋肉の使い方がよく分かるよ。特に、背中って、大事。背中痛めると、寝返り一つうてない。

 恐る恐る足を踏み出してみると、案外歩く動作に背中は関係なかったようで、難なく歩けた。ただし、足の筋肉が衰えてるからちょっとふらふらする。たぶんウルさんの支えがないと、よろめいて背中に負担だと思う。

「少しずつ体を動かしていこうと思うんです。だから、食事も部屋ではなく、食卓で食べるようにしたいんですが?」

 私の言葉に、ウルさんは優しい声で同意を表してくれた。

「そうですね。無理なさらない程度に少しずつ動いた方がいいでしょう」

 食卓で一人で食べるのは寂しいので、ウルさんにも同席してもらう。

 黙って食事するのもこれまた寂しいので、ウルさんと会話を試みるが。何を話題にすればいいのか。

「いい天気ですね」

 困ったときの天気の話から初めてみる。

「そうですね。今日は風もありませんし、よく晴れてます。少し、外に出てみますか?」

 そういえば、随分太陽の光浴びてないな。太陽の光を浴びないとビタミンDだかなんだかが体の中で作られなくて健康に良くないとかいうよね?

 でも、健康になってどうだっていうんだろう?

 今、こうして体を回復するためにと、スープを口に運んでいるけれど、回復してどうだというんだろう?

 私、元気になって何をすればいいの?トゥロン、私はどうしたらいいんだろう?

「今日は、いいわ……」

 ウルさんの気遣いはありがたいけれど、まだ気持ちが前を向かない。

 食事を終えると、ウルさんの手を借りて再びベッドに戻る。

 横になると、暗澹たる思いがぐるぐると体中を支配する。

 辛い。答えが出ない思いに、ただ苦しい。悔やんで元には戻らない。苦しんだってそれが救いにはならない。

 ああ、息が、うまく、息が吸えない。肺に穴が開いたように苦しい。シーツを鼻の上までたくし上げて両手で押さえる。

 過呼吸だ。ストレスがかかりすぎて、過呼吸になってる。ゆっくり息を吐き出す。

 呼吸が落ち着くと、鞄に手を伸ばし「グアルマキート戦記1」を取り出す。

 早く読み終わらないと、吾妻さんに届けられないから……というのは言い訳。

 少し、現実から逃避させて。本を読んでいれば、現実を忘れられるから……。

 どこまで読んだかな?

 そうだ、グアルマキートがマラード皇国に圧勝するも、負けたことにしてサルサリ王国から抜け出したところだ。

 そのあと、マラード皇国の実効支配をして奴隷解放したんだ。同時に、マラード皇国上層部の膿を一層。爽快だったなぁ。

 奴隷の扱いによる人選も見ものだった。その後、国の立て直しを行う中、元奴隷たちからの嘆願があったんだ。家族が別の国で奴隷にされているから救って欲しいと。


『

 嘆願を受けたインフィルは、黙った。一晩考えさせてほしい、皆も一晩考えてほしいと言い残し静かに部屋を後にした。

 そして、次の日、久司と幹部を呼ぶと言った。

「グアルマキート領を守るための戦いとは違う。今度は攻める方に回るわけだ。守るための戦いは避けられない。しかし、攻める戦いは、しなくてもよい戦いだ」

 犠牲が出るかもしれない。それでも、戦うのか。今ある民を守るだけではだめなのか。奴隷解放のための戦いと言えば聞こえがいいが、つまりは他国への侵略戦争だ。国を奪うための戦争。領土を広げるための戦争。

 久司も、どうするべきなのか考えに考えた。自分たちだけが、安穏と生活する、それが許されるのか?今回のことで、いかに奴隷がひどい扱いを受けているのかと思い知った。五体満足な者の数を数える方が少ないくらいといっても大げさではないのだ。あまりにもひどい。この現状が、今も他国で行われている。そう考えると背筋がぞっと寒くなるのだ。

』


 ずんっと、心に闇が下りた。

 ああ、そうだよね。目の前で見てしまうと重い。

 日本にいるときだって、世界のどこかでは飢えで亡くなっている人がいることは知っていた。でも、それは知識であって、全然現実じゃなかった。

 だけど、この世界に来て、トルニープで飢えている人たち、今にも息を引き取りそうな子供たち、虫が湧いている亡くなった人たちの姿を見て酷くショックを受けた。

 ひどい、ひどい、ひどい。

 助けられないの?って思ったんだ。でも、私には何もできないって、だから、せめてトゥロンを自由にって……


『

 インフィルの言葉は、インフィルの意思が多分に込められていた。

「助けるか、見捨てるかだ」

 戦うか、戦わないか。攻めるか、攻めないか。言葉はいくらでもあっただろう。「助けるか、見捨てるか」そこに、インフィルの助けたいという強い思いが感じ取られた。

「もちろん、助けるさ!」

 元奴隷のダミンが一番に声を上げる。

「見捨ててしまえば、おいしくご飯が食べられなくなりますな。自分だけ幸せでいいのだろうかと、常に自問自答を繰り返すでしょう」

 次に、副将軍が口を開いた。

 反対の意を唱える者はいなかったが、久司のようにじっと黙っている者も数名いた。

「マラード皇国との戦いでは、誰も血を流すことがなかった。しかし、それは運が良かっただけだ。今後犠牲も生むだろう。無理強いはしない」

 久司は、ぐっと拳を握りしめてインフィルの言葉を受け止めていた。

 知ってしまったからには、助けたい。副将軍が言うように、幸せの瞬間、いつも見捨てた人たちのことを思い出して、幸せを噛みしめることはできないだろう。

 それに、自分たちもまた、いつかどこかの国に攻め滅ぼされて奴隷にされてしまうかもしれない。この世界から奴隷という存在をなくさない限り、ずっと不幸の連鎖は続くのだ。

 多数決は、満場一致で助けることに決まった。

 できる限り犠牲を出さないように策を練る。それが僕の役目だ。

 久司が握りこんだ拳は、爪が掌に食い込み、血がにじんでいた。

』


 助けるか、見捨てるか……。私は、助けることもせず、完全に見捨てることもできず……中途半端な選択をした。

 よく考えもせずに。

 そう、一晩すら考える時間を持たずに。血が滲むような決意だってなかった。

 その結果がどうだ!


 そして、グアルマキート戦記1巻のラストには、衝撃の結末が待っていた。

「え?嘘……なんで……」

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[一言] まあ、大金を動かせる時点でプロが付いてますよたぶん。 (プロに何ができて何ができないか知らんけど)
[良い点] 楽しく読ませてもらってます。 [気になる点] 吾妻さん、たぶん贈与税がかかると思うよ。その金額なら半分くらい持ってかれるのでは?税務署は、すべての銀行や振り込み等のお金の動きを把握してま…
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