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【書籍化】無職独身アラフォー女子の異世界奮闘記  作者: 杜間とまと


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13 ドレスと恋とうどんとラトと

 肉屋の前には、ダーサの姿があった。そして、肉屋の向かいの雑貨屋には、ダーサを見つめるルーカの姿。

「ダーサ!」

 声をかけてから、手招きする。

 まだ、肉を買う前だったようで、ダーサは手ぶらだ。マーサから預かったドレスをダーサの手に押し付ける。

「何だ?これ?」

「マーサの むかしの ドレス、これ、仕立て直して 誕生日会に 着て もらう」

 ダーサは、声を潜めた。

「仕立て代とか持ってないぞ」

「これ、みて」

 カバンから、ハンカチを取り出す。

「ルーカの てづくり、じょうず」

「お、お前がなんで、ルーカのハンカチを!」

 もらったといえば、また、何でだとつっかかってきそうなので、ダーサの質問は無視して続ける。

「ルーカに、仕立てを たのむ。ダーサ、お願いする」

 一拍間をおいて、ダーサが声を上げる。

「ル、ルーカに、俺が、頼むのか?」

「さぁ、早く、行く、マーサの ため」

 マーサさんのためと言えば、母親思いのダーサは断れないだろう。

 これをきっかけに、ダーサとルーカの仲が進展してくれるといいな。

 題して、「マーサのドレスと、ダーサとルーカの恋、ダブルでゲット、一石二鳥計画!」

 ダーサの背中を押してやると、戸惑ったような足取りでルーカの元へと歩いていく。ルーカは、ダーサが歩いてくるのを見て右を見たり左を見たり、柱の影に隠れたり、スカートの裾を直したり、忙しく動いている。

 かわいいなぁ、本当。

 ダーサが、頭をかきながらルーカに話しかける。

 真っ赤な顔をしたルーカが、何度もうなづいてドレスを受け取る。

 さて、そろそろ細かい説明に向かいますかね?

 

 ダイエットを開始して1週間、マーサさんが言い出した。

「リエス、他に出来ることはないかい?」

 マーサさんは、エプロンをはずし、紐を見せてくれた。

「この、一番皺になっているところが、いつも結んでいたところで、この皺が、今日のさ。痩せたってことだ。体も軽くなった気がするよ。まだまだ痩せるためにできることがあったら、教えておくれ。誕生日会に行くまでに、もっと綺麗になりたいからね!」

「え?お袋……」

 ダーサが、ストレッチの手を止めてマーサを見る。

 マーサが、少し照れながら、言った。

「誕生日会に行くことにした」

「やったぁー!」

 ダーサが飛び上がって喜びを表現する。そして「ルーカに教えてくる!」と店を飛び出していった。ふっ。青春ですな。

「マーサ、ありがとう!」

 私も嬉しくてマーサに抱きついた。

「何を言ってるんだい。御礼を言うのはこっちだよ。家族を悪く言われることが嫌だと言いながら、結局自分に自信がないんだって気がついたんだ。今は何を言われようが笑い飛ばす自信があるよ。リエスのおかげだよ」

「マーサ……」

「ピンポーン」

 うわっ!

「今、何か聞こえなかったかい?」

「ううん、きこえない。わたし、ダーサ、呼んでくる、先に体操してて」

 カバンを押さえて、慌てて店を出る。

 もちろん、ダーサを呼びに行くためなんかじゃない。店から少し離れると、人気のない路地へと身を隠す。

 今、呼び鈴が聞こえた。誰?誰が来たの?

「はい、どちら様ですか?」

 頭をカバンに突っ込み、インターフォンで尋ねる。

「お届け物です」

 えーっ、お届け物?受け取れないでしょ。

 一度、カバンから手と顔を出して、部屋ではどう見えているのか鏡に映したことがある。

 ホラーだった。手と顔が、何もない空間に浮いてるの。分かっていてもすごく怖かった。

 こんな姿をさらすわけにはいかないでしょ。

 居留守……は、無理だし。受け取り拒否?

「秋田の佐藤さんから宅配便です」

 実家からだ。受け取り拒否なんかしたら、心配させちゃう。

「あのー、今、ちょっと、人前に出られなくて……」

 風呂上りとか、パック中とか、勝手に解釈してもらう。

「それでは、玄関にお荷物と受け取り票を置きますので、受け取り票に印鑑を押して新聞受けから出してもらえますか?」

 ナイス提案!それ良いね!

 無事に、荷物を受け取れました。

 荷物中身はなんだろう?いくつになっても、親は子供のことが心配なのか、コンビニで買えるようなものまで入っているのだ。でも、今はそれが助かる。本当、ありがたいありがたい。お米が入っているとうれしいなぁ。

 ルーカの店で、荷物をくくる縄を少し分けてもらう。この日からダイエットメニューに縄跳びが増えた。


 実家から届いたうどんで夕食をとる。小屋に、ちゃぶ台を出し、木の器に木の箸を並べ、囲炉裏の火で茹で上がったうどんを器に盛る。しょうゆとゴマをかけて食べるのが私の定番。

「いただきます」

 ふ、ふわぁー、おいしい~。

 この世界の食事は決してまずくはない。甘味が少ない他は、食材の種類も調味料の種類も豊富で、料理の幅も広い。しかし、やっぱり、日本人のソウルフード、米味噌しょうゆは無かった。

「少年~!」

 何の前触れもなく、小屋のドアが大きく開かれる。

 ラト、ノックとか声かけとかないのか?

 はー、もういいや。無視無視。せっかくのうどんが伸びちゃう。

 つるつる。

 ラトは、ブーツを脱ぐのに手間取っている。現代のファスナーとちがい、この世界のブーツは皮ひもを複雑に巻きつけている。

 つるつる。

「はぁー、おいしかったぁ。ごちそうさま」

 箸をそろえてちゃぶ台に置く。

「うわーぁーぁーっ食べちゃった!よも……私も食べたかったのに……」

 誰もごちそうするとは言っていません。

「今食べていたのは、『UDON』というものだろう?時々ユータが作っていた」

 今、日本語で「うどん」って言った。やっぱり、ユータは日本人?

「ききたい、ユータのこと、おしえてほしい」

 ラトは、まだうどん、うどん言っている。なんと食い意地のはった男だろう。

 というか、そもそも、何しにきたのだ?タカリに来たのか?お礼をしてくれるんじゃないのか?

「うどん、今度、つくる。だから、ユータのこと、おしえて」

「本当か?今度作ってくれるんだな?約束したぞ!ユータのことが知りたいのだな!」

 ああ、これでやっとユータのことが分かる。

 ユータのことが分かれば、少しは帰り道に近づくかもしれない。

「ユータは、色々と大切なことを教えてくれた。兄のような、師のような大切な存在だ。ユータと私が出会ったのは、私が10歳のことだった。」

 何を思ったのか、ラトはユータとの出会いから、事細かに小さなエピソードも含めて話始めた。

 ちょっと、この思い出話、いつ終わるんですか?

「そして、11歳と2ヶ月になったときに、……おっと、すまぬ。時間がない。戻らねばならぬ。続きは明日と言いたいが、明日は来られぬゆえ、明後日同じ頃に来る」

 珍しく、次回の来訪をラトが宣言した。

「うどん、楽しみにしているぞ」

 そういうことか。

 おい、ラト、お前、当初の目的を完全に見失っただろう?

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