第6章 山岳地帯の――(後
…登場人物紹介…
リア。 17歳青年。
母親の名前はアイリ。詳細は不明。
メフェ。リアの竜。
アイリにも乗られていた。白竜。
フォア。17歳女。
一人称『ボク』の不思議な人物。竜騎士というランクを持ち、竜を駆るのが上手い。
トレス。リアのパートナー。結構な猫かぶり。
カイ。 トレスの竜。黒竜である。
…6…
青い髪の彼は寝た。あれから3秒。熟睡・・・というか爆睡。余程眠いのか。
心地よい風の効果もあるのだろうが―――
*
「あ〜もうヮっかんない!!!」
5回目。この山岳地帯に吹く風には完璧に勘が追いついた。絶対に外さない自信がついてしまった。
そういう自信がつくことはそこまで悪いことではないが、勘が他のところで上手く通用しないということもありえる。ある程度で勘弁したい。
そしてもう一つ。リアがイライラしている理由。
「あ〜・・・お腹すいたなぁ〜・・・・」
実を言うと――というべきか――リアとメフェはリシア国へ入って一度も食事をとっていなかった。レゼ爺のところで多少、リンゴを食べた程度。
今夕方6時。9時間食べていなかったわけで、普通より7,8倍近く体力を使うレースを2回も。
当然お腹は減るに決まっている。
突如一人と一匹に心地よい風が。
「あ・・・」
風がリアの髪を撫でる。そしてするりと抜ける。
「あ・・・・あ・あ・あああああああああああああああああああああ!」
「ギャ・・ギャォ?!!」
「わかった!!わかったよゴールに行く確実な方法!!!」
リアのテンションはあがった。上がり続ける。
「こっちだこっち!!風の吹くほう。リンゴのかおりだ。木がある」
少し落ち着く。すでにそういったときには手が動いて足も動く。方向は75度右回り。当然向かい風。
「ラッキー。太陽のあるほうだ」
高度をゆっくり落としながら、風は緩む勢いを見せないが――進む。スピードが落ちても気にしない。
折角のチャンス。折角のチャンスだ――――――
*
トレス達はゆっくり確実にゴールへ。リア達は当然後ろにいる。トレスたちが勝っている。けれどスピードの差は歴然だった。
「そろそろ上へ行こう。カイ。ある程度の高さならばれないさ」
高度をさらに上げた。
トレスは知らない。下からくる者の恐怖を。後ろからくる者の恐怖を。
上に負けるのは当然として受取っていた。
ただし下に負けたのは一度も無い。
だから知らなかった。そして見なかった。
後ろにいるリアという存在を―――――――――――――
(急げッ急げ―――――ッッ!!!)
リアの心が急かす。さすがに単細胞のリアでも分かる。太陽だって沈むし位置も変わるのだ。急がなければ。
リンゴのにおいは絶対に外さない自信があったが。呆れる理由で。
速度がいきなり速まった。
追い風―――――だ
更に速度を上げる――ゴールが視界の中。緑が見えた。あと100メートル程度だった。ところが恐れていた事態。
「?!!!!!!」
「メフェッ!!!!!!!!!!!!!」
メフェが左翼を下げてしまった。体力が続かない。理由はそれだ。
『負ける』
そんな不安は微塵もない。が地面から高いとき、落ちれば当然・・・
「――――――――――――っっっっ」
どうしようもない不安が身体を貫く。体勢が整えられない。このまま落ちて
『死ぬ』
『死』ぬことに恐れはない。けれど唯一つ。空で『死』ぬのは嫌だった。
この空から落ちては嫌だった。空で『死』ぬのだけは。
トレスは呆然としていた。距離はリアの前方50メートル。高度はリアの400メートル下。
たった今上を、赤竜が。
*
リアは目を開く。木陰の下。
「大丈夫か〜?」
間の抜けた声。落ち着いた声。心配はしていない声、だった。
「あなたは?」
身体は重めだ。体の位置や体勢は変えない。変えるのは焦点。青い髪の青年へ。
「あ〜・・・俺はライ。ライ・シリア。名前がリシアに似てるけど関係は無い」
上からのぞく体制をライは変えた。隣に座る体勢。瞳も青。絵の具の青。そのまま塗ったような。艶が光る。寝癖・・・なのかどうか。髪がたっている。
「メフェは?!!メフェはッ?!!!!!!!!」
リアは起きる。自分の相棒・・・あるいは片方を探すように。
突如胸に圧力。有無を言う前に倒れる。
「は〜ぁ。今リアはさ〜。どうなってるのか解かる??」
ライは大仰な溜め息をついた。
「メフェは、メフェは!!」
「落ち着け、無事だ。そしてお前はフォアの言うとおり。本物のバカだ」
リアは安堵の溜め息をついた。古い二酸化炭素を出して新しい酸素を。
そして疑問。『フォア』の名前が。
「フォア・・・・・?」
今度は身体を上げずに。さっきの圧力は風の強い圧力に似ていた。あれはライの手だったのに、だ。
「あ〜やっぱ君は知らないね。俺は全部で6人の竜騎士の一人。これでоk?」
「じゃあ・・・・」
「そ、レースでは・・・好敵手ってヤツ??」
少し笑う。見た目だけの笑い。口と目だけの。心の無い笑い。
そして木の裏から人影。他の誰でもない。トレスだった。