前話に結合します
声のした方を振り向く。
薄暗い木々が広がるだけ。
「…空耳?」
首を傾げて向き直る。
「…あれ?」
誰も居ない。さっきまで私を取り囲んでいた兵隊さん達が、忽然と姿を消し――。
何かを蹴飛ばした。
「――っ!!」
――人の頭だと理解するのに数秒がかかった。木の葉の上には、兵隊さん達の体が折り重なるように倒れていた。皆一様に首を切り落とされた状態で。
恐怖という感情すら、わいてこない。ただ茫然と立ち尽くすだけ。
「く、来るなぁっ!!来るな化け物がぁっ!!お、鬼…悪魔…」
甲高い叫び声に我に返る。目を凝らすと、少し先で王子様風の男が、貧相な片手剣を振り回しながら後ずさっていた。
その正面に居るのは抜き身の長刀を持つ影。こちらからは背中しか見えないが、その異形に凍り付く。
「翼…」
そう、一組の大きな翼。
ただし、天使のそれの様に神々しくも暖かくもなく、漆黒に染められた狂気の翼。
「来るなよ…来るなと言ってるだろうがぁっ!!」
喚き散らす男にゆっくりと歩み寄る。
「鬼、悪魔…か。まぁ確かに、私は善良な男ではないよ。――君と同じでね」
月光に煌めく長刀をゆっくりと振り上げた。
固く目を瞑る。
不意に叫び声が途切れ、森は静寂に支配される。
今更のように鼻につく血の臭い。
夢なら…夢なら早く醒めて。お願い!!
強烈な吐き気に、その場にうずくまる。
「――立て」
目の前に黒いブーツが立ち塞がった。
「っつ!!」
ゆっくりと顔を上げようとした時、視界に映るのは、黒い液体を滴らせる長刀。
――もう、限界だった。
私の意識は、ゆっくりと前のめりに崩れて――