魔王様の妹君と侍女と夜
エリザベスはぐっすりと寝ている。
サリー手を掴んでいたエリザベスの柔らかい手を静かに離して、毛布をかけて燭台の灯りを取って足音を立てずにベッドから離れる。
「まだいたのか」
囁くように話す声に顔を向けるとガウンに身を包んだ魔王様が扉に身を預けていた。
自身の瞳と同じ色のガウンは魔王様の色気を引き立たせている。
「もう失礼しますわ」
魔王様の夜はエリザベスと一緒に寝るのだ。
それはこの城にエリザベスが来てから変わらないこと、たまに魔王様が執務で遅くなったり城を空ける時はサリーがエリザベスと一緒に寝るのだ。
後は寝るだけなのでサリーは薄いガウンでいつもは一房も垂れていない、ひっつめた髪を下ろしている。
イブニング・ガウンは、豪華で上品できらびやかな感じのするエレガントなもので、胸元を大きくくり、肩や背中を大胆に露出させるのが通常だ。
しかしサリーは寝る時まで首がぴったりとしたガウンだ。だが灯りを当てると自身の細い身体がくっきりと浮かび上がる。
深夜に男と女、通常だったら何らかのことが起こりそうだがそこは魔王様、エリザベス以外の女は塵と思っているとサリーは知っているから恥じらいもない。
「では魔王様、良い悪夢を」
魔王様の脇を通ろうとしたが身体を引き寄せられ、燭台を持っている手に魔王様の大きくて冷たい手が重なる。
男だというのにこのきめ細やかな肌は何なのだ、サリーは少し嫉妬した。
「魔王様、サリーは部屋に戻りたいのですが」
「なぜ、いつも首元まで締めている。これでは息苦しくないか」
魔王様の片手でサリーの首が回ってしまいそうなほどサリーの首は細い。
そんな首に張り付く襟元をなぞる。
「真面目な女の証拠ですわ」
「それでは行き遅れるぞ」
「余計なお世話ですわ」
魔王様の肩を押しやり離れる。
「それでは朝に」
その言葉に違和感を感じながらも返事を返し、寝台へと向かう。
いつもエリザベスの唇にキスをしてから、エリザベスが起きない程度に柔らかな肢体に手を這わしているため、今日も自然と顔がエリザベスの口元へいき、唇を落とそうとして止まった。
エリザベスが熊のぬいぐるみを大事に抱えながら幸せそうに寝ているのだ。
「くっ!」
可愛らしい姿に悶えてしまうがこの姿を見て、まだ子供なのだということを魔王様に実感させた。
「サリーめ・・!」
普段は煩い位に子供に手を出すなと釘をさしてから出ていくのに今日は大人しいと思ったらこれか。
いや、しかし触ろうと思って見るがいたいけな少女を自分は無断でしかも起きていない時にいいのだろうか。
安心しきって寝ている。
あの策略家め、結局魔王様は本能を押しとどめ、エリザベスのおでこに軽いキスをするだけに止めた。
朝起きるとエリザベスが熊のぬいぐるみを抱きしめ魔王様に言った。
「お兄様、サリーが作ってくれたテディ君がいるから一人で寝れるわ」
一人で寝るのは怖いと言って抱きついて眠っていたエリザベスが一人で寝たいと言うなんて。
これも全てあの侍女、サリーのせいだ。
魔王様は目覚めの悪い朝を迎えて苛立ちながら執務室へと出向き、窓を開け、喉の調子を確かめた。
「サリー!」
いつも一度では来た試しがないため、もう一度声を張り上げる。
「サリーっ!!」
暫くして扉が叩かれる。
「お呼びになられましたか魔王様」
いつもと変わらず、質素な服を首元まで着込んだサリーが好戦的に魔王様を見る。
それが魔王様の日課。