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魔王様の妹君と侍女とカラス

  



 むかし、むかし、カラスと呼ばれた一人の男がいました。

 男は落ちている物を食べたり、貴族の家に忍び込んでは物を盗んでおりました。


 そんな男はその日もある貴族の屋敷に入りこみました。

 屋敷の中を忍び足であるき、お宝が隠されている場所へと急ぎます。


 しかし、その日は運悪く、見張りの者に見つかってしまいました。


 男は屋敷の中を駆け巡ります。

 前から人が来たために咄嗟に近くの部屋に駆けこみました。

 扉の前で息を顰めていると、どうやら通り過ぎて行った足音がしました。


「・・どなた?」


 その声にカラスは振り返りました。

 そこにはなんと窓から差し込む月光に照らされている美しい女がいました。女の肌は透き通るように白く憂いを帯びた瞳、黒く長い髪、艶やかな唇に男は釘付けになりました。


「俺はカラス、ただの盗人さ」


 その女は相手が盗人だというのに嬉しそうに話しかけます。


「まあ、では外の話を知っているのですね?」


 どうやら女は外に出たことがないようでカラスに外での生活を聞き始めました。


「海は見たことがある?」


「市場はどのようなもの?」


「人はどんな格好をしているのかしら?」


 カラスが話すことは全て新鮮のようで子供のように目をきらきらさせて聞いています。カラスもそんな女の反応が気に入り、自分が見たこともないこともまるで本当にあったことのように話します。


「ああ、そうさ。熊の鼻は甘いのさ」


 色んな話を女に聞かせました。


 だけど、屋敷の使用人たちが扉を叩いてカラスは部屋を飛び出しました。







 




 次の日も、今度は見つからないようにカラスは慎重に女の元まで行きました。

 女はカラスが来たことに嬉しそうで昨日の話の続きをせがみました。


 男はまた話し始めました。

 女は嬉しそうに聞き入ります。

 そんな女にカラスは言いました。


「一緒に抜け出さないか」


「それはできないのです」


 女は自分の手をカラスに見せました。女の手には銀の鎖が繋がっています。

 カラスはそれを外そうとしますが、びくともしません。


 カラスは女を置いて帰りました。









 また次の日、カラスは女に会いに行きました。

 女は来てくれる男に会えるのが嬉しく、いつも笑顔で出向いてくれました。


「今日も楽しい話を持ってきたぜ」


 カラスは女の脇に座って身ぶり手ぶりを使って語ります。

 その様子に女も笑うのです。







 だが、カラスが忍びこむようになってから女はぽつりと零しました。


「鳥になりたい」


 カラスが訳を聞くと女は羨ましそうに答えます。


「だって鳥は自由に広大な空も飛べるし、好きな処にも行けるのでしょう」


 カラスが何故この屋敷にいるか尋ねると女は閉じ込められていると答えました。物珍しい容姿だからと。


 カラスはどうにかして女を自由にさせてやりたいと思いましたがどうすることもできませんでした。

 しかし、鎖の鍵がこの屋敷にあるのではないかと思いました。

 そこで女に言って、こっそりと探しに行きました。





 鍵はこの屋敷の主人の寝室に置いてありました。

 カラスは銀色の小さな鍵を手に取り、女の元へと急ぎました。


 女に鍵を見せると今までに無く嬉しそうに笑いました。

 鍵で開けようとすると扉が開いて、屋敷の主人が顔を出しました。笑う男にカラスは捕らわれ、女の前に叩きつけられました。


 女が泣いて懇願するも、男はカラスを女の目の前で殺そうとします。

 カラスは必死の抵抗をして男の目を抉りました。


 それに怒った男はカラスの首をしめます。

 掠れゆく意識の中、最後の力を振り絞ってカラスは女に言います。


「俺は死んだら鳥になろう。お前のために自由に空をかけまわり色々な世界を見て周り、それをお前のために話をしにいき、お前のために鳴こう。お前のために暗闇に紛れて会いに行き、明るい昼間ではお前が見つけやすい姿をして俺を見つけてくれ」



 そういってカラスは死にました。

 


 女は泣き叫びました。

 その涙がカラスにかかるとカラスは黒い鳥の姿に変えて行きました。

 



 そうして女に向かって一声鳴くと飛び立っていきました。




 人々は黒い鳥を見かけると眉を顰めます。黒い姿は不吉だからです。

 けれどもその鳥は賢く、黒い姿の者にだけ従います。


 それは、カラスが好きになった女が黒い髪をしていたから。だからカラスは自分と同じ色の者だけに寄り添うのです。









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