魔王様の妹君の侍女はツンデレ
魔王様のいつもの休憩時間になった。
「失礼いたします」
こちらの返事も待たずにエリザベスの侍女が入ってきた。
「エリザベスは」
今まで一度も休憩時間に来たことの無いサリーがワゴンを押して入ってきた。
「只今、姉君様と弟君様と楽しく談笑中でございますのでサリーが伺いましたがご不満でも」
「あるに決まっている」
「でしたら紅茶はここに置いておきますのでご自分でどうぞ」
だがサリーは言いながらもカップに良い香りのする紅茶を淹れた。
そのまま紅茶を持ちカルシファーに渡した。
「カルシファー様、お疲れでしょう。良かったらどうぞ」
「あぁ、ありがとう」
魔王様の脇の長椅子に座っているカルシファーの前に机を置き、その上に紅茶とお菓子を置いた。
「おや、これは」
「はい、サリーめの手作りでございます」
皿に乗ったお菓子は白いクリームの上にパウダーがかかっていて見た目が綺麗だ。
「うん、おいしい」
「ありがとうございますわ」
甘さが控えめでありながら上品な味わいだ。
もともと魔界には硬い、しかもぱさぱさとした口内の水分だけ取るお菓子しかなく、甘いお菓子などなかったがサリーが来たことにより子供にも嬉しいお菓子が彼女が監督の元、作られている。
だが魔界の人に器用な人はあまりいないので専らサリー作ることとなっているが。
「なぜ宰相に出して我に出さない」
急に魔王様が声を荒上げた。
「魔王様がいらないとおっしゃったではありませんか」
「そうですよ、私もしっかり聞きましたが」
二人からの尤もな意見に魔王様は押し黙ったがまだ不快な顔をしていらっしゃる。
仕方がないのでサリーが紅茶を注いで魔王様の机に置いた。
「今日は珍しいな。お前が給仕に来るなんて」
「・・駄目でしたでしょうか」
「いや、別に駄目というわけでないが」
「明日は行きませんので」
今日だけ特別ですと秘密のように言った。
何故か今日は優しい雰囲気をしている。
「今日は優しいな」
「えっ?今何て」
もう一度サリーが聞こうとしたが執務室に入ってきた面子により遮られた。
「サリー、隠れん坊しましょ」
エリザベスと姉君と弟君だった。
「いえ、私は」
辞ようと手をあげようとしたがヴァリエートがサリーに近づいて耳打ちした。
サリーは少し警戒したが言われた内容に耳を赤くした。
「・・参加させて頂きます」
普段、無愛想か嫌味しか言わない侍女が赤くなったのを見て二人は目を見張る。
何を言ったんだと宰相と魔王様は思い後で聞こうと決めたのだった。
「じゃあ、誰が鬼になりましょうか」
こんなに広い城で鬼になった人は大変そうだ、というか全員見つからないだろう。
皆が飽きるかエリザベスが眠くなるまで続けられるだろう。
「鬼はサリーね」
「かしこまりました。では皆さん、10秒数えるのでそれまでにお逃げ下さい。ちなみに城の外はアウトになりますので」
サリーは後ろを向いて数え始めた。
「おい、これは我もやるのか」
「10、9、8」
カウントダウンが刻一刻と迫っている。
しかも辺りを見回すと、もう部屋には宰相以外いない。
宰相は我関せずと書類を見ている。
「別にいいですよ。徹夜で執務して下されば」
それを聞くと即座に出ていった。
「3、2、1、0。もう、いいですか?」
返ってこない返事を聞いてサリーは振り返った。
長椅子には宰相がいる。
これは捕まえるべきなのか、しかし相手は隠れる要素を見せないためスルーすることに決めた。
「では、行って参りますね」
「・・何を言われたのですか」
「はい?」
出ていこうとするサリーをカルシファーの声が引き止めた。
「弟君に何て言われたのです?」
「・・特にこれと言ったことではありませんわ」
また耳を少し赤くして出ていこうとするサリーの手を掴んで長椅子に組み伏せた。
「カルシファー様、あ、あの」
ずいっと耽美な顔を鼻がつく程、近づけたためサリーは後ろに下がろうとするが背もたれにより邪魔される。
「ねえ、何て言われたんです」
「いえ、ですから、その」
いつもの冷静さを欠き目が泳ぐ珍しいサリーにもっと意地悪したくなった。
「言わないと悪戯したくなりますよ」
そっとサリーの唇に触れ、ゆっくりとなぞる。
なんだか変な声を出しそうになったがサリーは押さえた。
いつものクールなあなたはどこにいったのですかとサリーは言いたかったが今はそんな空気じゃない。
「その、参加しないと」
「参加しないと?」
「夜這いに来ると仰ったのです」
実はサリー、生まれてこの方、異性から情緒を匂わす言葉など聞いたことが無く慣れていないため、そんな見え見えの嘘さへ上手に切り返せない。
つまりこの歳には珍しい初心なのだ。
そんなサリーに以外だったのかカルシファーが吹き出した。
「カルシファー様、酷いですわ」
めったに見られないものを見たカルシファーの悪戯心をくすぐる。
「全員捕まえられなかったら私が夜這いしに行こうかな」
「な、何を言っておりゃれるのですか」
噛んだ、そんな自分に恥ずかしいのかサリーは益々顔を真っ赤にさせ焦る。
「では、頑張って下さい」
これ以上からかうのは流石に可哀想だと思い、笑いながら送り出した。
「い、行って参ります」
すでに疲れているサリーは顔に手をあて乱れた髪のまま覚束ない足取りで出ていった。
ツンデレきたぁ!
たまに見せるデレがいい!!