魔王様の妹君と侍女と姉君と弟君
エリザベスとサリーが客人が来たということで出迎えに行くと煌びやかなドレスを着ている女性と動きやすそうな服を着た男性が待っていた。
エリザベスを見ると女の人が弾丸のように飛び込んできた。
「エリザベスゥ!」
開口一番何やら際どいドレスを着た女性がエリザベスの小さな身体に抱きついた。
胸元と背中を大きく広げ、切れ込みが入っているため引き締まって程良い肉がついた綺麗な太ももまでもが拝める。
男だったら唾を飲みこんでいただろう、だがサリーは残念ながら女のため露出している部分を見つめるだけに留まる。
「お、お姉様。く、苦しい」
「姉君様、そんな馬鹿力ではエリザベス様の骨が折れてしまいます」
サリーがエリザベスを助けださずに淡々とした口調で言った。
サリーはエリザベスを守るべき侍女だが呼吸困難になっているエリザベスに命に別状は無いと判断したため手を貸さない。
「あらエリザベス、ごめんなさいねぇ。エリザベスが余りにも可愛いから食べたくなっちゃったの」
溢れんばかりの胸をエリザベスに押し付けていたためエリザベスは窒息しかかっていた。
エリザベスの普段から色づいた頬が益々赤く染まる。
「大丈夫。お姉様もサリーと同じことを言うのね」
「え?」
「サリーも私のこと食べたいって言うの」
ねっサリーと自無邪気に分の侍女を振り返る。
「思考回路が一緒でございますね、姉君様」
サリーはにっこり口元に弧を描いて姉君、ヴァイオレットを見つめた。
ヴァイオレットはエリザベスがサリーを振り返った時に物凄い嫌な顔をしてサリーを睨みつけた。
男女に好評な麗しい顔が崩れているのを見てサリーは片眉を上げた。
「姉君様、白粉が崩れて大変なことになってますわ」
サリーはさっと胸元から手のひらサイズの鏡を取り出して姉君に見せた。
「なっ!」
ヴァイオレットは鏡に映った自分を見て悲鳴を上げた。
自慢の頬に赤い点が見えたのだ。
「姉君様のお部屋はいつもの上等な三階でございます。誰か案内を」
サリーが手をならすと頭に角を生やしたメイドが現れ、焦っているヴァイオレットを素早く部屋に連れて行った。
残るは微かな笑みを浮かべている弟君であるヴァリエートとエリザベスとサリーのみ。
「弟君様、エリザベス様、サリーが作ったお菓子がございますが」
「もちろん食べるわ」
「エリザベスの胃袋を掴んだお菓子は俺もぜひ食べてみたい」
「では今日は天気がよいので私の庭園で頂きましょう」
三人は仲良く手を繋ぎながら歩いていった。
「サリー!あなた、私の肌に何も無かったじゃない」
サリーが三人分の紅茶を淹れ終わると先程とは違うドレスに身を包んだヴァイオレットがずかずかとやって来てサリーが座る椅子に座った。
今回のドレスも露出度が高い。
もういっそのこと全裸の方がいいのではないか、不埒な考えが過ぎる。
「私は白粉が崩れていると言っただけですが」
「信じられないわ」
はあ、とサリーが気のない返事をしながら自分が飲むようの紅茶をヴァイオレットの前に置き、自分は立ったままエリザベスの後ろに仕えていた。
「サリー、座らないの?」
「サリーは立っているので充分ございますよ。姉君様が突然いらっしゃるのを予測出来なかったサリーめが悪いのでございますよ」
そこで三人の視線がヴァイオレットに集まる。
ヴァイオレットは居心地悪そうに身じろぎした。
「サリー、一緒に座ろ」
「いえ、エリザベス様の大変お優しいお気遣いは嬉しいのですがエリザベス様の愛用の椅子を汚してしまっては大変でございますもの」
そう言って辞ようとした。
だがエリザベスの横から手が伸びてきたと思ったら腰を浚われヴァリエートの膝の上にいた。
「えっ、ななっ」
らしくなくサリーが慌てて立ち上がろうとするがヴァリエートの手はサリーのお腹に回り、びくともしなかった。
「弟君様、お離し下さい」
ほんのりと赤く色づいた頬を隠しながらサリーは手を離そうとするがヴァリエートは悪びれていない様子で笑う。
「だって椅子が無いなら俺の膝に座るといいよ。そうすればエリザベスも悲しまないし一石二鳥だろ」
何が一石二鳥か分からないが笑っているヴァイオレットをちらりと見て冷静さを取り戻したのか、単調な声でやんわりと断った。
「弟君様、私は皆様の紅茶を淹れ途中ですわ。それに魔王様にも持っていかなくてはならないので」
魔王様の名を出されたらヴァリエートも渋々であるが黙って手を離した。
「積もる話もございますでしょう。私は少し席を外しておりますね。ご用があったらお呼び下さい」
そう言ってサリーは先ほどの慌てぶりが無かったように後にした。
ヴァイオレットってヴァイオレンスみたい・・・