魔王様の妹君と侍女とサリナ
草の上の露に朝日が当たって神々しい光を放っている。濡れた草の上に腰を下ろしてその光景を眺めていながら金色に染まった自身の髪を指に絡ませて遊んでいた。自毛の黒髪を見事な金髪に染め、また瞳も金色となっている。自分の姿に実感がわかずに苦笑し、金髪になった所以を考えていると後ろから幼い声が自分を呼ぶのが聞こえた。
「サリー!」
振り向くと7、8歳位の金髪の可愛らしい女の子が走ってくる。
「なぁにエリザベス様、そんなにニコニコして?」
サリナはエリザベスの姿を目に留めると立ち上がって服に付いた草を払う。
「聞いて、私ね、先生に誉められたの」
「いつも誉められてるでしょ」
サリナが苦笑して言うとエリザベスは可愛らしく桃色に色づいた頬を膨らませる。
「ちーがーう!」
サリナはその頬をつつくとエリザベスがくすぐったそうに身を捩る。
「もう、サリーったら聞いてって!」
「はいはい、どうしたの?」
「私ね、今日すっごく難しい魔法を生成できたの」
「どんな?」
そういうとエリザベスは実践してくれて小さな手の平をサリナに翳す。エリザベスが何か呟くと手の平に小さな人間が現れた。よく観察すると水色の瞳が水面のように、ゆらゆらと動いて輝いている。服は生地の薄い水色で体型が分かってしまう程だが本人は気にしてはないのだろう。唇は桜色で震えている姿は可愛らしい。
サリナと視線が交わった気がしたがサリナが首を傾げると、それは恥ずかし気に後ろを向いた。
「これは?」
これ呼ばわりしたのが気に食わなかったのか、それは勢い良くサリナに振り向き肩を怒らせている。
「彼女はねサーニャさんよ。私と一緒に戦ってくれる精霊さん」
「これが精霊・・」
サリナが手を伸ばすと、その手を弾かれた。どうやら、機嫌が直らないらしい。面倒くさいと思いながらサリナは謝った。
「ごめんね、サーニャ」
そうするとサーニャはサリナの人差し指に自分の手を合わせた。そして微笑んでくれているので一旦機嫌が直ったと思われる。
「サーニャ、ほらサリーよ。私が大好きな人なの」
「これがエリザベス様の魔法なの」
サリナは、この精霊を見えるように、そして使役できるのがエリザベスの魔法なのかと問う。
「違うの。何か先生が精霊を使役させてるって言ってたけれど私はサーニャとは友達なの」
手の平のサーニャに笑いかけているエリザベスは天使に見える。
サリナはそれを他人事のように見つめていた。
エリザベスとサリナが手を繋いで歩いていると全身を包帯で覆ったイシュバリツィーアリツァイが2人に向かってきた。
サリナはその異様さに未だ慣れずに眉をしかめるがエリザベスは違うらしい。サリナの手を離してイシュバリツィーアリツァイの元へと走って行った。
「こんにちは、エリザベス様」
「イシュ、聞いて聞いて」
「申し訳ありません、エリザベス様。先にサリー殿とお話がありまして」
イシュバリツィーアリツァイが目元を緩ませるとエリザベスは聞き分けよく頷いてサリナとイシュバリツィーアリツァイに手を振って走って行った。
「サリー殿」
2人きりになった途端、サリナの顔は不機嫌になる。
「紗理奈です」
「失礼、サリナ殿。シエリ殿とクレハリィテ殿が呼んでいます」
「また?」
そう苛立たし気にサリナが返事をして首を掴むように掻く。襟付きの服のため地肌に触れることは無いが赤くなっているに違いない。
「サリー殿、あまり掻くのは」
「その名前で呼ばないでって言ってるでしょう!」
イシュバリツィーアリツァイを睨み付けるように眼光を光らせるとサリナは金色の髪をかきあげて振り返ることなく去って行った。