魔王様の妹君と侍女と苦悩SIDEカルシファー
最近、カルシファーの周りが変だということに気付いていた。
魔界で恐れられている魔王様に使用人達が朗らかに話しかけてきたのだ。あの、残虐非道とされている魔王様にだ。
「あら、魔王様。エリザベス様はどこにいらっしゃいますか?」
「魔王様、サリー様をそんなに怒鳴らないで下さいね。彼女も悪気がある訳では」
おかしい。
魔王様は生まれてから甚大な魔力を持っていた。そのため、生まれてすぐに王の地位を築き上げた。先代の魔王は女達と戯れることにしか興味が無かったために魔王様は先代を殺して後宮を廃止した。
先代を殺した時の残虐さは魔界でも広がり、今や口を利くものはいなかったはずだ。魔王様の城に住む使用人達も魔王様の魔力に当てられ気を失う者が多かったり、また冷酷な顔の魔王様が恐ろしいために目を合わす者などいなかった。
なのにこ異常なまでの親しさは何だ。
カルシファーも最低限のことしか話さないため使用人達に恐れられていた。またメデューサの息子だけあって、その瞳は眼鏡によって隠されているがその眼は冷ややかだ。
だが数日経つと魔王様に話しかける者はいなくなった。
魔王様が魔力を垂れ流していて、近づくことさへ出来なくなったのだ。最初はエリザベスやサリーと聞いたことの無い名前を訴える者もいたが魔王様は眼力だけで黙らせた。
何のことか分からないため魔王様はずっと不機嫌である。そして自分もまた。
つい先日、魔王様の弟が消えた。自分達の目の前で。
何人かの人をつれて。
その中で一番印象に残っているのがあの黒髪の女だ。なぜこの魔界にいる、という疑問もあったが人間でありながら魔王様に歯向かい魔法を突き付けた女。その女は子供をかばって魔王様の攻撃を浴びた。
その時に出たあの女の血の匂いはひどく芳潤な香りがした。普通の人間よりも濃く、甘い香りが広がった。周りにいた臣下などはその香りに引きつけられて床に広がった鮮血を呑み下そうとしたが魔王様の制止の声があって視線は外せないながらも皆思い留まっていた。
多分、私も魔王様の声が無かったら、まるで犬のようにその血に貪りついていたことだろう。
それらの処理が終わって、いつものように書類を作成していると胸元に何かが入っていることに気がつく。取り出してみると白と桃色の混ざった華だった。
なぜこんな物を入れておくのか、自分に華を愛でるような趣味は無かったはずだ。
握り潰そうとして、ふと手が止まる。
なぜだろう、誰か、そう何かが脳裏に浮かぶ。魔王様と同じような黒い黒い、まるで闇のような漆黒の髪が浮かぶ。
なぜだか、わからない。
けれども、この華を潰すことができない。
カルシファーは自分の曖昧な記憶に苛立ちを隠せないながらも華を胸元にしまった。
最近、天気が悪いなあ
布団、干したいのに・・・