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魔王様の妹君と侍女と魔族





 クレハリィテが暫く治癒魔法を唱え続けているとサリーの口から苦しげな呻き声が聞こえた。まだ苦しそうにしていて眉が顰められている。


「う・・あ」


 治癒魔法を続けていると周りの精霊の力もあってか意識を取り戻したようだ。

 サリーが微かに瞼を開け、黒曜石のような黒い瞳が姿を見せる。


「サリー殿」


「・・う」


 額に汗をかきながら苦しそうに呻く。皮膚は繋がったが如何せん血を流し過ぎた。

 イシュバリツィーアリツァイは額に浮かぶ大粒の汗を自分の包帯でふき取りながらも根気よくサリーへと話しかける。


 そんな2人を見つめながら険しい顔で、茶髪の髪を持つシエリが呟く。


「傷は残ってしまうだろう」

 

 どんなに傷を塞いでも魔力が強すぎて自分達の手では負えない。自分達ではサリーの身体からにじみ出る瘴気を取り出すだけで精いっぱいだ。

 そして周りの精霊の力により何とか血をサリーの身体の中でつくり続けている。


「・・そうですか」



 男ならばエリザベスを守った勲章として名誉の傷だがサリーは女だ。しかも年頃であり、夫もいない身だ。彼女はそこまで気にしないと思うが痛々しい。


「っつ・・こ、こは?」


「サリー殿」


 サリーがうっすらと目を開けたがまた閉じた。きっと体力がついていけてないのだろう。


「今はゆっくり休んで下さい」


 その言葉に促されるようにサリーはまた深い眠りの中へと落ちていった。









「いったい何があったんだ」


 クレハリィテがサリーの額の汗を手拭いで拭っている全身を包帯で覆っているあからさまに怪しいイシュバリツィーアリツァイに問う。


「夢魔にやられまして、魔族の記憶を奪われてしまったのです。記憶を失った魔王様にやられたのです」


「よく生きてましたね」


 魔王の攻撃を受けて良く生きていたと思うがその凄まじさをサリーの傷が物語る。


「・・良く生きていたな」


「本当に」


 本当によく生きていてくれた。エリザベスを守るために魔王様の前に立ち毅然と睨んでいたサリー。ただの人間とは思えなかった。


 だが次の言葉で一気にイシュバリツィーアリツァイと今まで黙っていたヴァリエートが嫌悪を露わにした。




「なんで魔族が勇者の証を」


 勇者の証ならイシュバリツィーアリツァイも見たたことがある。何せ自分も魔王退治に言ったことがあるのだから。

 まあ、途中で勇者が死んでしまい、そこで彼の旅は終わったのだが。


 だが、勇者の首に回る蔦のような模様はまるで勇者達を「勇者」という枠組みに閉じ込めているかのようだった。「勇者」という天命に繋ぎとめ、まるで彼らをそれに縛っているような気がしてならなかった。


 そして今改めて見るサリーの首にある蔦は鮮明だ。

 自分が以前に見たものよりも色黒く、その存在を主張している。


 その証とは似つかわしくないのがサリーの首の傷や瘡蓋(かさぶた)だ。ところどころ抉れており、ある所は爛れていたり、また剣や指で引っ掻いたような傷跡が残っている。

 そのことから察するに彼女は勇者にはなりたくなかったのだろう。エリザベスの元にいるだけでよかったのだろう。


 

 偶に彼女が、きっちりとした服の上から首元を苛立たしげに掻く姿を思い出す。そういえば、自分の首をしめるようにぎっちりと掴んでいた。

 どんなに削っても掻いても蔦は消えなかったのだろう。そして何回も何回も掻きむしった癖が未だに残っているようだった。


 だがなぜ彼女に勇者の証があるのか。

 それは簡単だ。

 彼女が人間だから。

 勇者といわれて、あの魔力の多さを改めて実感したが、目の前の人間がどう見ても人間であるサリーを魔族というのが分からなかった。



「サリー殿は人間だ」


「何を言う。黒髪に黒い瞳、これらが全てを物語っているではないか」


 そう、魔族は闇色だ。

 色が黒に近いほど強い魔力を持つ。


 だからそこにいて金髪の少女の傍らにいる黒い男もまた魔族なのだと分かる。


「はっ、だから人間というのは愚かだ。サリーの周りを見てみろ、なぜ精霊があいつの周りにいる」


 魔族からの嘲りに腹が立ったが、ちらりと横たわる女の周りには何十という精霊が囲んで、彼女の意識を取り戻そうと必死になっている。

 

「なぜ見た目で決める?あいつの匂いを嗅げ、人間の匂いしかしぬ」


 ヴァリエートは腕を組みながら2人を威圧する。

 匂いなど人間に分かるはずがない。だが精霊が全てを物語っている。


 精霊は魔族には決してなつこうとしない。

 それなのに必死で彼女を助けようとしている姿に2人は彼女が魔族であるという考えを少し打ち消した。

 




 4人がサリーを見つめていると精霊達がクスクスと笑いながら、一斉に飛び立った。

 見ると、サリーが方手で身体を起こしながら4人を見つめていた。

 多少、息は荒いが見つめる目はしっかりとしている。





「う・・誰?」


「え?」


 一瞬、何かの聞き間違えかと思ってサリーを穴のあくまで見つめるとサリーは不審感を露わにして動けない身体で後ずさろうとしている。

 警戒心を出して、まるで初対面かのように振舞う。


「あなたたち、誰なの?ここはどこ?」


 








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