魔王様の妹君と侍女と人間
アサノヒリノ王国の魔法団の隊長と副隊長を務めているシエリとクレハリィテが王宮近くの森を2人で歩いていた。優雅な足取りであるが辺りを見回す眼光は鋭い。
つい先ほど、精霊達が騒ぎ出したためだ。そして森に確かな魔力が出たことも気になっている。
場所は風の精が教えてくれる。シエリは風の精と相性が良いのだ。クスクス笑いながら近くの木に隠れながら案内するが結構、森の深いところまで来たようだ。
「本当に何かあるのかな?」
「さあな」
クレハリィテが面倒そうに質問を投げかけるとシエリはどうでもよさそうに返事した。実際、彼はどうでもよかったのだ。
身分は高く腕もたつ、しかも充分な美貌も持つのだが、この男は自分の興味の無いものには真面目に取り組むという意識さえない。
「ちょ、少し位、真面目に・・」
「しっ」
シエリが鋭い視線でクレハリィテを黙らせ、顎で先を示す。2人は音も立てずに草藪に隠れながら状況を見る。
遠く、離れているが全身を包帯で覆った人と明らかに魔族特有の姿をした男が草の上に横たわっている小さな女の子と身体から血を流している女性を助けようとしているようだ。
何度も声をかけているが、2人は一向に目を覚ます様子がない。
魔族に嫌悪を見せるが、どうやら人間が一緒のようだ。何か、様子が違うらしい。
2人は目配せをすると草藪から出て行って近寄った。
「どうしたんです?」
イシュバリツィーアリツァイとヴァリエートがどうしょうかと佇んでいると若々しい声が後ろからした。
振り返ると軍服に身を包んだ人間の男達がこちらを警戒しながら倒れて目を覚まさない2人を見た。
気配に気づかなかった、普段なら常日頃、命を狙われる身として気配に敏感であるのに2人に夢中で辺りに気を配ることを忘れていた。
だが男達の周りに精霊が集まっているのを見て、尋ねる。
「すみません、治癒呪文を使えませんか?」
「ええ、一応大丈夫ですが」
「お願いします」
イシュバリツィーアリツァイは攻撃呪文に秀でてはいるものの治癒呪文などにはあまり手を入れていなかったために対した効力は無いのだ。そしてヴァリエートも魔法よりも身体を動かした方がいいため一切使えなかったが、これほどまでに自分を恨んだことはない。
男達はエリザベスに最初に近寄り、そして眉を顰めながらもサリーに近づいた。
「こちらのお嬢さんは頭を少し切って意識を失っているだけだが、こっちは危ないな」
サリーの青白い顔を見て、判断する。直ぐに金色の髪をした男が呪文を唱え、もう一人の茶髪の男がサリーの服を裂く。
「悪いが傷を見させてもらう」
露わになったサリーの身体の傷を見て、嫌悪を示す。
「まさか魔族にやられたのか」
「ええ」
深い傷からは障気が滲み出ている。
その障気をクレハリィテは中和させながら、シエリは苦しそうな息をしているサリーのために首まで締まっているサリーのドレスを引き裂いた。
「なっ!」
サリーの首にはまるで蔦が絡まったような痣が首を一周していたのだ。
だがシエリとクレハリィテはそれを見て驚いた。
「まさか、勇者の証!?」
そう言えば聞いたことがある。何年か前にここより東の王国で勇者を呼んだが失敗した、と。