魔王様の妹君と侍女と冷酷
対峙する2人を前にして、これまた冷たい声が横から入る。今まで聞いたことのない声にサリーは目を見開く。
「魔王様、そろそろ会議の時間です」
今まで黙って見ていたカルシファーが時計を見ながら書類を渡そうとする。
「カルシファー様」
だがやはりカルシファーもサリーを知らないように見る。一瞥して、まるでサリーなどいなかったように魔王様に話しかける。
「魔王様、人間ごときに構っている暇はありません。行きますよ」
魔王様は興が削がれたのか、掴んでいたサリーを離す。サリーは後ろに下がり、エリザベスとイシュバリツィーアリツァイを見る。
あと少しで完成だ、ここは魔界のため人間界に通じる道を作るのはイシュバリツィーアリツァイと言えども時間がかかる。
サリーはきっと2人を睨んで、いつでも魔法が使えるようにする。
「ほう」
「お止めなさい、人間。あなたがかなう相手ではありませんよ」
「やってみなければ分からないでしょう」
魔王様の前に宰相が出るが魔王様が留めて自ら出る。そして不敵な笑みを浮かべて、サリーの一挙一動を見守る。
「さあ、どうする?」
「そうやって余裕振るからアッシュにやられるのです」
サリーはそう言うと簡易魔法を唱え、その光は魔王様の頭の横をすれすれに飛んでいった。
「次は警告ではありません」
「ほう、人間風情が我に楯突くか。おもしろい」
魔王様の両手が光り、大量の魔力が吹き出す。
「兄貴、止めろよ」
ヴァリエートの声があがるが魔王様は一切止めようとせずに、笑っている。
サリーはいつでも魔王様の攻撃がきてもいいように自身も両手を重ねて胸の前に出して背後を守れるように準備をする。
まさに一触即発だった。
「止めて、お兄様」
しかしイシュバリツィーアリツァイの転移呪文の輪から出てきたエリザベスがサリーを庇って前へ出る。
「エリザベス様!」
サリーは突然現れたエリザベスに集中力を途切れさせてしまった。
「どけ、小娘が」
魔王様が片手を振り上げるとエリザベスが横に転がる。だが直ぐに立ち上がってまた前に出る。額から血が出ていたがそれでも構わずに両手を広げる。
「お願い、お兄様。止めて」
「煩わしい」
そう言うと一段と手を高くあげて振り出した。
「エリザベス様っ!!」
黒い暫撃が飛んできたのを見るとサリーは身を挺してエリザベスを庇った。
「うぐっ・・!」
その黒い刃はサリーの肩から股に至るまで深い傷を作った。
また全てを庇いきれなかったようでエリザベスも額を怪我して倒れていた。
次の攻撃から身を守ろうと身体を起こすが力が入らず、そのまま鮮血を流し続ける。だがせめての抵抗にと口を開いて魔王様を叱責する。
「ふ、う・・魔王様。目を、覚ま、しなさい」
「何を言っている」
「だから、あなたは独り、だった。だか、ら・・あなたは孤独、なの」
「お前は誰だ?」
意味深な言葉に眉をしかめ、まだ挑戦的に見てくるサリーの頭を掴み、投げて壁に激突させた魔王様だったがふと歩みを止めた。それを待っていたイシュバリツィーアリツァイは意識を失ったサリーを抱きかかえ、ヴァリエートはエリザベスを丁寧に抱きしめて魔法陣の中に立った。
「お、兄様・・」
「・・・」
見知らぬ女が涙を目に溜めて、縋るように手を伸ばす姿を見つめる。
どこかでこれと同じような手を掴んだ気がする、しかしまるで頭の中に靄がかかったように思い出せない。
そんな思いの中、4人は消えていった。