魔王様の妹君の侍女は生意気です
ふっはっは
自分の趣味は大事にしないと★
今日もすばらしく不穏な空気が流れるこの国でいつものように朝一番、魔王様の怒鳴り声で目覚めるのが魔王様に仕える者たちの日課になりつつある。
「サリー!」
空気を震わせる怒声が白色の城に大声が響きわたる。
「サリー!!」
「はい魔王様。そんなに大声を出さなくても聞こえますわ」
魔王様と呼ばれた男は見事な黒い髪をたなびかせ麗しい顔に皺を刻みながら腕組みをしていた。
「あら魔王様、ご機嫌が悪いようですわね」
この城は魔王様の城、魔王様の気分によって色が変わる。
機嫌が良い時は真っ黒であり機嫌が悪い時は真っ白となる。普段の色は灰色で主にこの三色で城が形成されている。
そんな魔王様の執務室に質素な服を首元までぴっちりとした一人の女性が入ってきて魔王様ににっこり微笑む。
「っ、当たり前だっ!」
「魔王様、私の鼓膜が破れてしまいますわ」
いつもの残酷に近い冷静さを欠いた魔王様と落ち着いている侍女が向き合っている。
「分かっているだろう。お前、確信犯だな」
「何のことでしょう」
「惚けるなっ!」
そう言って目の前に出すのは熊のぬいぐるみ、円らな黒い瞳が可愛らしい。
「あら、てでぃ君ですね」
「名前など、どうでもいい、問題は」
ぎろっと空気が振動する程の殺気を出しながらサリーを睨みつけた。
「これをエリザベスの寝台に入れたことだ!」
「それの何が問題なのでしょう」
無表情の侍女が何のことか全く分からないといった表情で魔王様を見返した。
「年もいかぬ妹に人形を抱かせるなど私に罪悪感を感じさせる腹の内だろう」
「魔王様に罪悪感なんという言葉がおありでしたとは驚きです」
一介の侍女とは思えない口調で好戦的に言い返した。
「いい気になるのも今のうちだ。私が本気をだしたら・・」
先ほどの倍の殺気で威圧をするが目の前の侍女は一歩も怯まない。
「お兄様っ!」
睨み合う二人に可愛らしい声が入ってきた。
身の丈の何十倍もある扉を全身を使って開け少しよろめきながらサリーを庇う。
魔王様はその姿を見ると顔を崩し甘い笑顔を見せる。魔界の者が言うには極上の笑みだがサリーから言わせてもらえば、だらしきった顔だ。
城の色は一気に黒く染まった。
「どうした、エリザベス」
可愛らしい顔を膨らませるエリザベスを腕に掬いあげた。
「わっ、お兄様」
「今日も魔界一可愛いな」
「ゎわっ、ちょっとお兄様、違うの!」
するりと魔王様の腕から逃げ出し、エリザベスはサリーの腰に抱きつき魔王様を睨んでいる。本人は睨んでいるつもりだが傍から見れば可愛く頬を膨らませているようにしか見えない。
「お兄様、サリーをいじめちゃ駄目なの」
「・・・」
自分よりもサリーを優先させた愛しき妹、エリザベスに唖然とした。
まるでこの世の終わりみたいな顔である。
「エリザベス様、違いますよ。兄君様は私にもっとエリザベス様と仲良くなるように仰っられたのですよ」
サリーはエリザベスの蜂蜜色の自然にウェーブがかかっている髪を撫でながら優しく見つめた。
「そうなの?」
「あ、あぁ」
魔王様はしてやられた風に口元をひくつかせる。笑顔を作ろうと思うのに口が言うことをきいてくれない。
「では、サリーといっぱい遊びましょうね、エリザベス様」
エリザベスを抱き上げ頬と頬をくっつけた。
「きゃはは、サリー。くすぐったいわ」
「エリザベス様の肌はもちもちですね。美味しそうです」
エリザベスのまだ幼児特有のぷにぷにした腕を持ち上げる。
「サリー、もう、駄目ったら」
まるで姉妹のように触れ合う二人に無粋な咳が混ざる。
「我を忘れていないか」
「あっ・・」
「すみません、魔王様。気がつきませんでした」
本気で忘れてたらしいエリザベスとしれってしてるサリーはどちらが酷いのだろう。
「もう良い。エリザベス、また休憩の時間にお茶でも淹れに来てくれ」
「はい」
「では、エリザベス様、兄君様の邪魔をしないように出ていきましょう」
元気よく返事をしてエリザベスはサリーと手を繋いで出て行った。
サリーが出て行く前に振り返り、魔王様を見た。
「そのてでぃ君はエリザベス様のお気に入りなので寝室に戻しておいて下さいね」
一国の主に対等に話す彼女に不満を隠せない魔王様だったがてでぃ君をエリザベスの寝室に一瞬で転移させた。