魔王様の妹君と侍女と寒気
その場の空気がサリーの笑みにより真冬の寒さへと変わる。その冷気を出しているのは嗜虐的な笑みを浮かべているヴァイオレットと怒りにより笑いが込み上げてくる魔王様からだった。
「ふ、ふふ」
あまりの出来事に言葉を忘れてしまったらしい魔王様が俯きながら身体を揺すらせる、不気味な声と共に。
窓も凍りつき、白い息が出てくるがエリザベスは全く、感じなかった。
怒りに身を任せながらもエリザベスの身はしっかりと守っているようだ。最後までエリザベスに執着する、そんな魔王様に初めて敬意を抱く。
「すごいわ、サリー。窓が凍ってる」
「本当でございますね」
白い息を出しながらサリーは一緒に窓に寄り、エリザベスが窓の氷を触れるように身を屈める。エリザベスは目を輝かせながら初めて見る氷に触れた。
「冷たいわ」
「氷とは冷たいものです」
「これは氷というのね」
「はい、エリザベス様。また賢くなられましたね」
だんだんと極寒の冬のように辺りがなっていく。サリーの手足が真っ赤になっているというのにサリーは根を上げないでエリザベスに話しかける。
「サリー、サリーも氷のように冷たいわ」
「ええ、魔王様が怒りを鎮めてくださらないとサリーは凍って動かなくなってしまいます」
「それは大変だわ」
何が起きているか分かっていないエリザベスだがサリーの腕から降りて魔王様の足元に向かう。
「お兄様、怒らないで」
「・・・」
「お兄様、大好きよ。でも怒ってサリーを凍らせちゃったら許さないんだから」
その言葉にようやく魔王様は冷気を漂わせるのをやめてエリザベスを抱き上げる。エリザベスはくすぐったそうに身を捩るが魔王様はそうさせず、エリザベスのぷくっとしたお腹に顔をつける。
「お兄様、くすぐったいわ」
「いいだろう」
すぐに笑い声が充満した部屋だったが、まだひんやりとした寒さは残っている。鳥肌のたった腕をさすりながらサリーはヴァイオレットを見つめる。
なんとかヴァリエートが宥めようとするが一向に収まる気配はない。ただ魔王様のように感情をむき出しにすることはなく、ひしひしと鋭い視線をサリーに送るだけだ。
「姉君様、そんなに熱い視線を送られるとサリーの身体が溶けてしまうのですが」
「溶けてなくなってしまえばいいのに」
「まあ押さえてよ、姉貴」
ふんと鼻息を出しながら、やっと視線を外した。まだ恨みの念が飛んできていたがサリーはかわして気付いていない振りをする。
「大丈夫ですよ、姉君様。エリザベス様は家族が一番だと思っていらっしゃいますよ」
「そんなの分かっているわよ」
「サリーにくれる笑みは同情なのですよ」
振り向くヴァイオレットにサリーは笑う。ヴァイオレットは美しい顔に皺をよせながら、またそっぽを向いた。
「エリザベスだって、あなたを家族と思っているわよ。あの子は優しい子なんだから」
「はい、承知しております」
「だからっていい気にならないで」
言葉と態度が別々になっているがサリーはそれを指摘することなく、先ほどまでとは違う温かな笑みをヴァイオレットに向けた。