魔王様の妹君と侍女と姉弟
魔王様がいつものようにエリザベスを執務室に呼んだ。
「なぁに、お兄様」
エリザベスが首を傾げながら小さな足を動かして目の前に置いてある布の被った篭に近寄る。
その目は篭に興味津々なのが明白だ。
「エリザベスにあげようと思ってな」
エリザベスを抱き上げて瞼の上に唇を落とす。
そのまま手が不自然に動くがエリザベスはまったく気付いていない。
「魔王様」
だがエリザベスの侍女、サリーの声に舌打ちをしながら手が止まった。
魔王様はサリーを睨むとサリーは真っ黒な笑みを見せる。
だがいつもより険しい表情だ。それは彼女が篭の中身を知ってから続いている。侮蔑と怒りが混じった表情だが抑えている。
「まあ、いい。それでは見せよう、サリー」
魔王様の言葉にサリーが布を取ろうとする、しかし邪魔をされた。
執務室に魔王様のご姉弟が入ってきたのだ、ズカズカと無神経に。
「お前ら、訪問する際には連絡しろと言っているだろう」
「直接来た方が早いじゃない」
「そうだよ」
今日は薄い黄色のドレスで上品さを醸し出していると思ったが布の生地が薄くうっすらと体型が分かってしまう姉君であるヴァイオレットがエリザベスを魔王様から奪った。
まあ、ご自慢の豊満な身体なのだから人に見せても構わないのだろう。それどころか他人に見て欲しくて、いつも際どいドレスを着ているのだろうか。
そんな考えが浮かんでいたサリーに読心術があるのだろうか、ヴァイオレットが般若のような顔でサリーを睨んだ。サリーは角が出るのだろうか、と頭を見たが出ていない。
そんな仕草にヴァイオレットが益々顔を険しくさせる。
「姉貴、俺にもエリザベスを抱かせてよ」
エリザベスを窒息しそうになるまで抱きしめているヴァイオレットの手からヴァリエートは掻っ攫う。そのままエリザベスに頬ずりしていると魔王様が見る見る不機嫌とかしていく。
「よこせ」
一陣の風が吹きやむと魔王様の腕の中にエリザベスがいた。それに姉弟は不満の色を隠そうとしないが魔王様の睨みで2人は引きさがる。
「皆、喧嘩しちゃだめ」
周りの空気を読んでか、エリザベスが可愛らしく皆を諌める。
その可愛らしい姿に周りの空気が和らぐ。だが所詮は子供、空気を読むということを知らなかった。
「私、サリーに抱っこされたいわ」
そう言って魔王様の腕から小さな手を伸ばしてサリーに抱っこをせがむ。
魔王様の表情は凍りつき、ヴァイオレットも信じられないものを見たように目が飛び出そうになるほどサリーを見つめる。
当のサリーはにっこり笑って腕を伸ばしてエリザベスを抱きかかえる。
そして空気を意図的に壊す。
「エリザベス様はサリーめに一番抱っこをされたいのですね」
「うん」
エリザベスと笑いあいながら後ろで固まっている2人に笑いかける。といっても明らかに口の端をあげて笑っていたが。