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勇者の力

 二人はフェリアに進路を変更してもらい、ジェムの町に到着した。ここは、魔女サクラの弟子、キースが薬草を買いに来た町である。魔法の草は種類によって、生息する地域が限定されている。現在も利用している可能性は高い。また、この町には魔法使いや錬金術師が迷路のようなスラム街に数多く在住している。魔道の町なのだ。

 フェリアの言っていた魔法道具店へおもむくと、キースという少年が今でも時々訪れていることが判った。当たりだ。

 二人はその店主に無理を言ってアルバイトとして雇ってもらい、キースを待った。

 そして3日目、少年の客が訪れた。自分の顔を見てわずかに驚いた彼を見て、ルタミナは確信した。この子だ。店の外で彼に事情を説明すると、キースは納得し、魔女サクラの家まで案内すると申し出た。


「うむ。ルタオンが……。そうか……」


 サクラは渋い顔でルタミナの説明を聞いていた。魔女サクラの家は予想通りジェムの町のスラム街にあったがそこまでの道のりは複雑に込み入っていて、キースに案内してもらわなければとてもたどり着けなかっただろう。


「サクラさん。兄はいったい何に巻き込まれたというのですか? 教えてください」

「そう……じゃな。奴らがエリクサーを手に入れてしまった、この非常事態じゃ。お前達にも協力してもらおうかの」

「あの……奴らって、いったい何者なんですか?」

「ああ、言ってなかったか。それはタイラン王と王国軍のことじゃ」


 魔大戦の際、最も功績をあげたのは世界最強の軍事国家であるタイラン王国である。タイラン王は国家の矜持にかけて魔物たちを滅ぼさんとしていた。

 長引く戦闘に不利を感じたタイラン王は、魔王の暗殺を命じ、そのための計画が練られた。宮廷魔術師の一人、サクラの案は、四大元素の精霊の力を人間に注入して魔王に対抗できるパワーをもつ「精霊戦士」をつくるというものだった。

 だが、精霊の力はあまりにも強力で普通の人間はそれに耐えられない。そこで、肉体、精神ともに強靭な人間を探す一方、逆に普通の人間を強化する方法も検討された。その際、伝説の霊薬エリクサーの話が持ち上がったのである。

 五番目の元素の凝縮体ともいわれるエリクサーは、かつての巨大な魔道国家であるアミザール帝国で発明されたという。飲んだ者は肉体、精神ともども神の領域に近づくといわれたのだが、帝国の突然の滅亡により、その真偽は謎のまま残された。

 魔大戦のさなか、キースとルタオンはアミザール帝国の首都の遺跡へと向かった。そこは死の砂漠の奥にあり、ベテランの冒険者でもあまり向かおうとする者はいない。

 だが、キースはドラゴンの姿に戻れば砂漠越えはさほど苦ではない。また、ルタオンは世界中を旅し、冒険者としての経験もつんでいたため、探索を引き受けたのだ。


「ルタオンはエリクサーを発見したんだ。でも、タイラン国に戻ったとき、僕らは聞いてしまったんだ。タイラン王の企みを」


 キースが口を挟んだ。


「タイラン王は魔大戦が終わったら、精霊戦士の技術を自軍の兵士に適用しようとしたのじゃ。そんなことをすれば世界のバランスは一気に崩れてしまう」

「確かに……」

「我々は秘密を守るため、魔王を倒すとすぐに皆で姿をくらませたのじゃ、ただ、エレン姫だけは王家の責務として自分の城に戻られたがの」

「そうだったんですか。それじゃ、お兄ちゃんがずっと帰ってこなかったのは……そうだったんだ……」

「あ、それじゃあ、エレン様にタイランの王子との縁談が持ち上がったのも……!」

「うむ、多少強引だがエレン姫から精霊戦士の力の秘密を引き出そうとしたのじゃろう」

「くそっ、何てやつらだ」

「勇者は自らの中に眠る精霊の力を、ルタオンはエリクサーそのものを、わたしは精霊戦士をつくりだす技術を、ミューラスは精霊戦士とは直接関係無いが、兵器開発の技術をそれぞれ奪われぬために姿を隠した。だが、エリクサーが奪われ、ルタオンが殺された今、奴らは本格的な動きを始めると思われる」

「どうすればよいのですか?」

「まずは皆に警告しなければならん。だが現在消息が明らかなのはエレン姫だけじゃ。他の者達は私らで何とか探し出してみよう。お前達はウェアリン国城下町へ戻って姫様に次第を話してはくれぬか」

「え、は、はい!」


 ムーザッパがどもりながらも力強く返事する。世界の命運に関わる事件に巻き込まれたことと、生まれて初めて正当な理由でエレンと会話する機会を設けられて彼は興奮してしまった。ルタミナはそれを見て苦笑する。


 ムーザッパとルタミナは再び勇者の船フェリアに乗り込み、ウェアリン国へ急いだ。

 到着したのは花月9日。エレン姫の誕生パーティーで町はお祭り騒ぎで賑わっているはずだった。


 ――しかし。


「おかしいな。静かだ」

「そうね。第一、私達が勇者の船に乗ってきたのに誰も何も言いにこないわ」

「うん、とりあえず親父のところへ行って状況を聞いてみよう」


 ――その頃、王女エレンは乱入者と対峙していた。


「よくも! よくも私のパーティーをめちゃくちゃにして、皆を傷つけたわね!許さない、許さないわよ!」


 エレンはその漆黒の甲冑に身を包んだ者を鬼のような形相で睨みつけた。自然に体が戦闘態勢をとる。エレンは体術においても一流の技術を誇っている。

 彼らの周りにはウェアリン国の兵士達が何人も倒れていた。その中には既に死んでいる者もいる。すべてこの甲冑の戦士の仕業だ。武器をつかわず、金属の鎧に包まれた腕で殴り倒して行く。それがその戦士のやりくちだった。

 やあ、と掛け声を上げ、エレンは手にしたメイスで甲冑戦士に殴りかかる。すると、戦士はそれを避けるでもなく、手でそれを受け止め握り締めた。


「何っ!?」

 

 華やかなパーティーになるはずだった。

 町では屋台を出したお祭り騒ぎを許し、城の中庭は一般人にも開放されてご馳走の数々が振舞われた。王室に蓄えられた財をふんだんにつかって町を復興してくれた皆へのご褒美にするつもりだった。

 しかし、その幸せは一人の乱入者によって破壊された。

 はじめは町に設置された屋台を壊して回る不逞の輩がいるという報告だった。性質の悪いよっぱらいかごろつきだろうと思い、兵士をよこしたのだが、驚くことにその者は兵士をあっさりと打ち倒したのだった。しかもそいつは城に向かってきているという。

 さらに門番や近衛兵までもが束になっても敵わない奴だと報告されると、ついに業を煮やした王国最強の戦士エレンは自ら戦うことを決心した。


 メイスを握った力にエレンは驚きを隠せない。


「そんなバカな……こいつ、力だけなら上位魔族並みだわ。どうしてこんな奴が今ごろ……くっ、最近、戦闘訓練なんて全然していなかったからな…、キツイ……」


 エレンはらしからぬ弱音を吐いてしまった。体が1年前に比べてずいぶんなまっている。魔族のうちの大物はすべて自分達で打ち倒したと思っていたのに……。

 

 膠着状態を打破するためにエレンは素早く身体を回転させ、もう片方の手で甲冑戦士の腕を殴る。ひるんだところでメイスを取り返し、構えなおす。すると戦士もモンク僧のような構えを取った。

 そしてまるで子供のケンカのような泥臭い打ち合いが始まる。そのうちメイスはそのパワーに耐え切れず折れて使い物にならなくなってしまった。

 打撃は何度もヒットしている。甲冑戦士の兜の下の顔は見えないが、痛がるような反応は見せていることからダメージを与えつづけていることは確実だ。だが相手は限りなくタフだった。ついにエレンの息がきれ、片膝をついた。甲冑戦士は無言でその様子を見つめる。それが自分を見下した態度にみえたエレンは怒りを外に向けず、内に向けることで気力を込めなおした。


「……父上、城のみんな、ごめんなさい。私、今から本気で戦うから。お城、ちょっと壊してしまうかもしれないけど許してね」


 エレンの目つきが変わった。全身が鈍く光り、彼女から凄まじい闘気が溢れ出してくるのが判る。彼女の中の精霊の力は今から開放されようとしていた。


 ガルガニスから事情を聞いたムーザッパとルタミナは装備を整えると城へ向かって走っていた。間違い無い。既にタイラン王国側もエレン姫に手を伸ばしていたのだ。

 二人が城に着いた時には、エレンと甲冑戦士との戦いの真っ最中であった。

 そこで二人はこの世のものとも思えぬ戦闘光景を見ることになる。


「・「・ッ・「・キ・蝪シ・ネ!」


 エレンが呪文を唱える。空間の裂け目から高圧で打ち出された水流は甲冑戦士を直撃した。戦士は一瞬よろめいたがすぐに体勢を立て直して水流をよけ、ジグザグに走りながらエレンに向かって走り出す。

 狙いを定められなくなったエレンはすかさず地面を蹴って違う呪文を唱える。土がごぼごぼと盛り上がり、足をとられた甲冑戦士はバランスを崩した。そこへエレンのパンチが炸裂する!しかし戦士は何やら呪文を唱えるとふわりと体を宙に浮かせ、エレンの攻撃から逃れた。

 しかしエレンは一瞬眉をひそめたものの、すぐそばにあったパーティー用の長いテーブルの足を掴むと、軽々とそれを持ち上げ、虫でも落とすかのように甲冑戦士に叩き付けた。不意をつかれた戦士だったが、素早く反応し腕でテーブルを受けとめる。テーブルは粉々に砕け散った。


「甘いっ!」


 滞空位置が低くなった甲冑戦士のところへエレンはジャンプし、渾身の力を込めた手刀を振り下ろした。今度こそ防御するいとまもなく、戦士の右腕は刃物で斬られたように肩からざっくりと切り落とされた。右腕が地面に落ち、そして痛みで体をこわばらせている戦士が地面に降りてきた。

 エレンはハアハアと荒い息をたてながらも、勝負あったと思った。だが。

 甲冑戦士は左腕で右腕を持つと、それを元あった場所に当てた。そしてつぶやくように呪文を唱えると腕は元通りくっついてしまった。

 エレンは驚きを隠せずにいられなかった。こんな化け物じみたことができるのは……自分達だけだと思っていたから。そうでないのなら……。

「エリクサー!」


 エレンの発した単語に甲冑戦士はあっさりと反応を見せた。それでエレンは確信した。

 甲冑戦士も自分がタイラン王国の手の者であることをエレンに悟られたであろうことに気づいた。


「エリクサーを飲んだ戦士、道理でそんなに強いはずよ」


 甲冑戦士は開き直り、余裕ありげなポーズをとった。そして兜の奥から男の声を発する。


「エリクサーの力は素晴らしい。魔王を倒した勇者様と互角にわたりあえるのですからね。いや、私のほうがまだ体力が残っているからこちらが有利ですかな」


 エレンの額には普通の汗に混じって冷や汗も浮かんでいた。


「うぐっ」


 疲労でスキを見せてしまったエレンのボディに重いパンチが容赦なく叩きこまれた。彼女の意識がぐらりと揺れた。


 私じゃ、勝てない……。助けて、アルゴ……。


 エレンは愛しい人の顔を思い浮かべた。


 ムーザッパは思わず飛び出した。


「姫様ああ!!」


 ルタミナは彼を止めようとしたがその手は空を掴んだのみだった。


「ムーザッパ!行っちゃ駄目!」


 ルタミナの叫びも彼には届かない。


 エレンは朦朧とする意識の中でこっちに近づいてくる人間を見つけた。


 アルゴ…!? アルゴなの?


 だが、それは別人だった。傭兵の風体をした自分の知らない人間だ。


「よくも、エレン様を!エレン様から手を離せ!」


 剣を振り上げて甲冑男に襲いかかる。


 だめ、来ちゃだめ!殺される!


「ええい!邪魔だ!」


 甲冑男は腕を一振りすると、容易くムーザッパをはじき飛ばした。

 ムーザッパは声もなく城壁に向かって一直線に飛んで行く。


 ああっ……!


 エレンは悲しげにその様子を見て、意識を失った。


「ムーザッパ!」


 ルタミナは飛ばされる彼の体を咄嗟にかばおうとしたが、その彼の体にはじかれてしまった。わずかに飛ばされるスピードを落としたのみである。彼は城壁に叩き付けられその場に落ちた。動かない。

 激痛に耐えつつ戦士の方を見ると、彼は何らかの目的でエレンの身体を抱え上げるところだった。

 ムーザッパは自分のあまりのふがいなさに歯噛みした。


「くそっ、レベルが違いすぎる……。駄目なのか、俺では、駄目なのか……!」


 その時だった。


「待てぇ!」


 上空から声がした。釣られるようにムーザッパも甲冑戦士もそちらを見上げる。

 一人の男がどこからともなく飛び降りてきて、二人の間に立った。その姿は有名人のものだった。


「勇者様……」


 戦況を見つめていた群衆のうちの誰かがつぶやいた。


「エレン、君の呼ぶ声が聞こえた!」


 だが、エレンは既に気絶している。


「勇者アルゴ……、今ごろ……」


 ムーザッパがつぶやいたがアルゴには届かなかい。


 甲冑戦士はアルゴとまで戦う気力はないようだった。


「勇者アルゴ……今の俺の状態では勝てない。さらばだっ!」

「待てっ!」

「勇者アルゴ! パートナーを助けたければ『エリアム洞窟』へ来い!そこで待っている!」


 そして甲冑戦士は空間転移の呪文を唱えた。後を追うようにアルゴもまた同じ呪文を唱える。

 ムーザッパは取り残され呆然とするしかなかった。だが、体に激しい痛みが走り、やっと我に返った。骨が折れていた。


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