ひとつの戦いの終わり
作品舞台は王道のファンタジーRPGのような世界を想定しています。
長きにわたった魔族と人間の戦争、通称「魔大戦」は今まさに重大な局面を迎えようとしていた。
数では劣るものの、膨大な魔力を駆使する魔族の軍勢に人間側は苦戦し、次第に劣勢となっていった。そこで採られた逆転の策が、魔族軍を率いる将である上位魔族たちの暗殺であった。その危険な任務にあたった者を人々は勇者と呼んだ。
広大で無骨な作りの宮殿の廊下を、軽装鎧姿の招かれざる二人の客が駆け抜けている。
ここは上位魔族たちの頂点に立つ魔王が居住する城。その玉座へ向かっているのは数多の困難と戦闘をくぐりぬけてきた二人の勇者であった。
「エレン、さっきの傷はもう大丈夫か?」
勇者のうちの男のほうが女の勇者に語りかける。
「ええ。体力はもう、完全に回復しているわ。ハンディなしで魔王と戦えそうよ」
エレンと呼ばれた女勇者は小手をずらしてほとんど治りかけている傷跡を見せる。
「自分らの身体ながら、恐ろしい回復力だな」
「でもこの力があるからこそ、魔王と戦える。……勝ちましょうね、アルゴ」
「ああ、俺達は負けるわけにはいかない。この力は俺達だけのものじゃない、みんなの願いが込められたものだからな」
彼らは伝説で予言された勇者でも、勇者の血をひく人間でもなかった。彼らは上位魔族を倒すためにタイラン王国の魔道実験室で進められた「精霊戦士計画」によって作り出された人造の勇者であった。
その計画とは、人間の体内に四大元素である地、水、火、風の精霊の力を注入し、通常の魔法使いが使用できる以上の力を発揮させるというものだった。
だが、普通の人間に精霊の力を注入しても精霊の力は暴走し、その人間を死に追いやってしまう。そこで二つの案が考え出された。
一つは伝説の霊薬エリクサーを精製して普通の人間に飲ませ、精霊の力に耐えうる肉体にすること。もう一つは初めから精霊の力に耐えうる人間を探しだすことであった。二つの案の実行は同時に進行したが、エリクサーの精製は間に合わなかった。しかし、魔法使いの水晶球占いによって特別な人間は見いだすことが出来た。その候補者は、数十人程度いたが、その中でも特に優れた潜在能力をもっていたのが、この二人の勇者だった。
一人は片田舎のムーア村の青年アルゴ。もう一人はウェアリン王国の王女エレン。二人は魔族軍から人々を守るためにと、精霊戦士計画に積極的に協力した。
だが、その彼らでも4つもの精霊の力には耐えられないと判明した。そこでアルゴには火と風の精霊の力を、エレンには地と水の精霊の力を与えたのだった。
こうして精霊戦士となった彼らは勇者を名乗り、人間側が苦戦する戦場の上位魔族を倒し、そしてついに魔王の住む城へ向かったのだった。
「私達は、精霊の力を行使できるという運命を背負った人間なのだもの。魔王を倒さなければいけない」
「運命、思えば不思議な運命だなぁ。一国の王女様となんて、一生顔も見ることもないと思っていたのに、今はこうして同じ立場で肩を並べている」
「でも嬉しかった。私は王女という立場上、同じ視線で戦いを共にする人がいなかったから。あなたと出会えてよかった」
「俺も。女の子は守るだけの存在じゃないったと知って嬉しかったよ。俺は本当は、こうやって一緒に戦ってくれるような子が、好き、なんだ」
「ふふっ」
決戦前に目で微笑みあう二人――。
二人は謁見室の扉を開けた。長い絨毯の先の玉座には、彼らが倒すべき最強の敵が座っていた。周りに他の魔族はいない。その泰然とした態度は彼らを待ち受けていたことが明らかだった。二人はそちらへ向かう。
魔王はゆっくりと口を開いた。
「来たか……勇者達よ。魔族と人間、互いに相容れぬ存在であるならば、どちらかが滅びなければならぬ。私は魔族の王として人間を滅ぼす。その邪魔をする者は許しておけぬ。勇者達よ。勝負だ」
魔王は玉座から立ち上がり腰の剣を抜いた。同時に勇者達もそれぞれの武器を抜いた。
「■■■!!」
魔王が人間のものではない声を発した。利き手でないほうの手から赤黒い魔法の火球が放たれ、アルゴに向かう。それは戦闘開始の合図だった。
アルゴは剣でそれを弾き飛ばし、そのまま振り上げた剣に呪文を唱えて雷光を発動させる。電撃に一瞬ひるんだ魔王の隙を狙ってエレンの鉄槌が振り下ろされる!
だが魔王は易々とその一撃を受けとめ、一旦剣を収めると今度は両手から同時に衝撃波を飛ばした。アルゴの集中が途切れ、エレンは体ごとひっくり返る。すかさず魔王は倒れた彼女の方へ駆け、蹴りあげると、その身体をアルゴに命中させる。アルゴは体勢を立て直すいとまもなく、二人の勇者は重なって床に倒れこんだ。
「遊びはここまでだ。我が腹心アイゾンを倒した勇者がそれっぽっちの力しか持たぬわけがない。私もそろそろ本気を出す。今のが私を油断させようという演技ならば意味はないぞ」
魔王が挑発する。しかし、勇者達は言われずとも、己の肉体の中の精霊の力を開放するところだった。二人の体が鈍く光りだす。その様子を見た魔王がニヤリと笑ったのは戦いを好む彼の血のせいであろうか。
かけ声一閃、戦闘が再開される。
……そこからどのような戦いが繰り広げられたのか、知るものは戦いの当事者だけである。
だが、魔王の城がそびえる山の麓で魔王直属軍と戦っていた兵士たちが、朝日を背にこちらへ向かってくる二人を目にし、その疲れきりながらもやりとげた表情を見て、彼らの勝利を確信したのである。
勇者が魔王を倒して凱旋し、夜通し行われた祝いの宴も終わり、空は白み始めていた。
勇者を含む精霊戦士計画の主要メンバー6人が密かにタイラン王国魔道実験室に集まっていた。
「ふう。せっかく魔王を倒してみんな喜んでいる時なのにこちらはお別れの時か。寂しいねえ」
女性的な面立ちの青年・ルタオンが残念そうにつぶやいた。彼はあてもない旅を続けていたとき、ひょんなことから計画に協力することになった吟遊詩人である。彼は訪れた様々な土地で聞き集めた伝承を基に、アミザール遺跡に行って霊薬エリクサーの謎を求めた。
「みんなともしばらく会えなくなってしまうけれど、俺達は、いつまでも仲間だぜ」
ルタオンはメンバーひとりひとりと握手をし、じゃあな、と手を振りながら挨拶し去って行った。
「じゃあ、俺もそろそろ行くわ。みんな、またな」
そう言って手を挙げた眼鏡の男は技師のミューラスである。若き天才発明家である彼は魔大戦のおり、魔族に対抗できる、科学と魔法の双方を利用した兵器を開発して戦いを補佐した。タイラン王国軍には馬のいらない自動戦車を、二人の勇者のためには人や風の力を借りない船を供給している。また、メンバーの中ではムードメーカーであり、いつも軽口を叩いてメンバーを和ませていた。
「ミューラスはどうするの? これから?」
エレンが聞いた。
「ま、今までと同じさ。どこか目立たないところで発明をつづけるよ」
彼は後ろ向きに手を振りながら去って行った。
「エレン、いえエレン姫。やはりあなたはウェアリン国へ戻られるのですか?」
そう言ったのは計画のリーダーであるタイラン王国宮廷魔道士のサクラだった。長年の魔法の研究生活により肌は荒れ、髪の毛は痛み、彼女はまさしく魔女というべき容姿をしていた。
サクラに尋ねられたエレンはこくりと頷いた。
「ええ。本当はみんなと一緒に姿をくらませるのが一番よいのでしょうけれど、現在父王の子供は私一人。私は王国を捨てるわけには参りません」
「そうですか。いや、王女としての責務については私は意見出来る立場にはありませんな。貴方の判断におまかせします。では私は行きます。キース、いくぞよ」
そう言ったのは浅黒い肌をした少年、キースだった。彼の正体は人間の数倍の大きさの体を持つ若いドラゴンであり、少年の姿はサクラの魔法によるものだ。人間と魔族の戦いにおいて、ドラゴンは中立の立場であった。しかしキースは数十年前サクラに命を助けてもらって以来、一生をかけて恩返ししようと彼女の助手となったため人間側に味方することとなる。サクラは魔法実験をするときにはキースを人間の姿に、高速移動が必要な時にはドラゴンの姿に、と使い分けていた。
「はい、サクラ様。……エレン、アルゴ、元気でね。僕はこれから人間としてサクラ様についていくよ。それじゃ」
そして勇者二人が残された。しばらく二人は沈黙したまま見つめあった。
「それじゃあな。エレン」
アルゴは耐えきれなくなり背を向ける。だが、一歩を踏み出しかけたとき、エレンから悲鳴のような声が発せられた。
「待って! アルゴ」
エレンはアルゴに駆け寄り、その背中にすがりついた。
「やっぱり私、アルゴと一緒にいたい! 離れたくない!」
「エレン……」
「連れて行って。アルゴ。私をあなたの行くところへ」
アルゴは振り返り、エレンの肩を抱いて言った。
「エレン、俺だってエレンと同じ気持ちだ。でもそれはできない。みんなで決めたことじゃないか。俺達が一緒にいるのは危険なんだ」
「分かってるわ。でも……」
「エレン、いつか、すべての問題がクリアされたときには必ず君のところへ行く。約束するよ」
「本当?」
「ああ」
二人は長くも短い抱擁をする。長い別れの前の大切な思い出だった。
そして、1年の月日が流れた。
習作です。あまりに評判が悪ければとっとと引っ込めます。そうでなければ1日1話のペースで全12話をUpしていきます。




