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異界郵便局  作者: 翠雨
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第六話 我儘な仕事

叫び声のようなセキくんの声が廊下に響いて、封筒が床に投げ捨てられた。

「おいセキ!」

そう言うヤグルマ先生を無視してセキくんは走っていってしまった。

俺は立ち尽くすことしか出来なかった。“再配達は受け取り拒否が多い“そう聞いていたはずなのに、実際目の当たりにすると驚いてしまう。どうするべきかと考えているとヤグルマ先生に声をかけられた。

「セキがすみませんでした。せっかく持って来てもらったのに」

「いえ、気にしないでください。絶対受け取らないといけないという訳ではないので」

そう言って封筒を拾おうと見ると、中身が見えてしまっていた。急いでしまおうと手に取ると手紙には母よりの文字。それを見てヤグルマ先生は悲しそうな顔で言った。

「やっぱりか」

「やっぱりってどういうことですか?何かご存知で?」

「セキはあまりお母さんといい別れ方を出来なかったみたいで。両親、特にお母さんの話しは嫌がるんですよ」

「どういう別れ方だったかとかは知らないですか?」

「すみませんそこまでは。本人が話すことを極端に避けるので私たちも聞けなくて」

「俺でも聞けないと思います。教えていただきありがとうございます」

「そう言っていただけるとありがたいです。あの、この封筒はどうするんですか?」

その質問に俺は少し悩んでから答えた。

「持って帰って保管することになってます。けど、俺は渡したいと思ってしまっていて。なのでまたセキくんに会ってみようと思ってるんですが、やめた方がいいですかね?」

「いえ良いと思います。さっきはセキも驚いて突発的に動いた部分があると思うので、会っていただけるのであればその方がセキの為にもなると思います」

「それはどうでしょう。これはセキくんの為ってより、俺の為の行動だと思うので。俺が自分を納得させる為の行いだと思ってもらうべきかと」

「それでもですよ。理由はどうあれあなたはセキを見て、知って、向き合おうとしてくれてる。そういう真正面から来て、向き合ってくれる大人がセキには必要だったのかもしれないと今思わされてます」

「それはヤグルマ先生たちもなさってたじゃないですか」

「いいえ、私たちはしてこなかったんです。それを選ばなかった。そうすることが優しさだと思ってました。でもそうじゃなかったんでしょうね。今のセキを見れば分かります」

「そうでしょうか?確かに今のセキくんには俺みたいな人が必要かもしれませんが、これまでのセキくんに必要だったかは分からないと思います。クラスの友達やヤグルマ先生と話していたセキくんはとても楽しそうで、皆さんを信頼しているように見えました。そういった関係性を作ることが出来たのは皆さんがセキくんを気遣って大事にしてきたからだと俺は思います」

そういうとヤグルマ先生は少し困ったように笑って、ありがとうございますと言った。


あの後校内を探したが見つからず、ならおそらく寮の自室に戻っているだろうとのことで俺はヤグルマ先生に連れられ、校内から少し離れた所にある寮に来ていた。セキくんの部屋の前までくると、自分はいない方がいいだろうと言ってヤグルマ先生は戻って行ってしまった。

俺は一度深呼吸をしてから扉をノックした。

「セキくんいる?異界郵便局のユキです。さっきはごめんね、驚かせたと思う。少し話がしたいんだけど、嫌かな?」

少しの沈黙の後にゆっくりと扉が開いた。

「何のようですか?俺は特に話すことなんてないです」

「でも開けてくれるんだ。ありがとう」

俺がそういうとセキくんは困ったようで黙ってしまった。

「これ、やっぱり受け取りたくない?」

「はい」

「どうして?」

セキくんは黙ってしまった。流石に帰るべきかと悩んでいると彼の口が開いた。

「俺には資格がないから」

そう言った彼はどこ悲しそうで、声をかけようと少し近づくと

「とにかく受け取らないので帰ってください」

と言われ扉は閉められてしまった。

階段を降りるとヤグルマ先生が待っていてくれた。俺の顔を見ると察してくれたようで何か聞かれることはなかった。ヤグルマ先生にお礼を言い俺は学校を出た。幸いなことに、学校の近くにステンドグラスが多く使われた建物があったので直ぐに郵便局に戻ることが出来た。


「ただいま戻りました」

「おかえり。どうだった?」

「拒否されました」

「そっか。じゃあ」

「あの、この荷物もう少しだけここに置いておくことって出来ないですか?」

「とりあえず一週間くらいなら大丈夫だけど、どうするつもり?」

「もう少し粘ってみようと思って。他の仕事を疎かにはしないので、時間がある時に届けに行かせてもらいたくて」

「なるほどね。相手に迷惑はかけちゃダメだよ」

「はい。分かってます」

「ならお好きにどうぞ」

そう言うとリアさんは自分の業務に戻って行った。



次の日から俺はどうにか時間をつくって学校に行くようになった。事情を話したところ警備さんや先生方は学校への出入りを許可してくれた。俺はセキくんとその日初めて会った時と帰る時の二回だけ話しかけるようにした。今のところは特に変わりはない。というか煙たがられているように思えるが、とりあえず気にせず続けることにした。

結局そのまま特に進展はないまま一週間が過ぎた。今日は最近に比べて雨が強く気温も低かった。これは早く帰ることになるかもしれないと思っていると足音が聞こえてきた。

「何で今日は傘持ってないんだよ」

「持ってきたけど壊れちゃって」

そう言った俺にため息を吐くと

「着いて来て。部屋にタオルくらいはあるから」

そう言ってセキくんは歩き出した。


部屋に着くとセキくんはタオルを持ってきてくれた。ありがとうとお礼を言い、服を拭いていると話しかけられた。

「何でそんなに頑張るの?受け取ってもらわないといけない訳じゃないんでしょ?そもそもそんなにやったって俺が受け取るかは分かんないじゃん」

「そうだね。セキくんの言う通りだと思うよ。それでも続けるのは俺の我儘なんだ」

「我儘?」

「そう我儘。荷物を運ぶのも、その荷物をどうにか受け取って欲しいと思うのも全部俺の我儘で、俺が勝手にやってることにすぎない。でもそれで良いんだ。俺は我儘な仕事をするって決めたから」

「なんだよそれ。そんなんで良いのかよ」

「良くはないかも。先輩に迷惑はかけるなよって言われてるし。でもこれが俺にとっての答えで、この答えを持ってることで俺はちゃんと自分で決めて行動できるから。俺がこの仕事をしていくうえでは必要で、良いものではあるよ」

「そんなに自分のことばっかりでいいのか?」

「良いか悪いかは分からないけど、何がどう繋がって、作用するかは誰にも分からないから。何もしないよりは何かした方が良いって考えるな。俺は」

「……そう」

「あのさ、俺にはセキくんが何かを怖がっているみたいに見えたんだけど、それは前に言ってた“資格がない“ってことと関係してる?」

その問い掛けに対し暫く迷ったのちセキくんは話し始めた。

「俺お母さんに言ったんだ。

なんで俺を産んだんだって。俺なんか産まなきゃ良かっただろって。

そしたらさすごい傷ついた顔してて、俺最低だって、何やってんだろってなって、家を飛び出してそしたらそのまま……。

あれが最後の言葉になっちゃったんだ。必要ないものまで背負わせて俺は本当に何も出来ない奴になっちゃった。きっと居なくなってからも傷つけてる。そんな奴に受け取る資格はないから」

そう話したセキくんに俺は確認も含めて一つ質問をした。

「俺は何の理由も無しにセキくんがそんなこと言わないと思うんだけど、何で言ったのか聞いてもいい?」

「俺がお母さんの負担になってたから。俺が居なければ、俺に時間使わなければ少しは楽になれると思って。でも当時はうまい伝え方も言葉選びもできなくて、傷つけた」

「やっぱり、セキくんはお母さんのこと大切だし大好きなんだね」

「それが何?」

「お母さんも同じだなと思って」

「え?そんな訳ないよ」

「そんな訳あると思うよ。うちには人への思いで荷物が届くんだ。だから思われてない人へ荷物が届くことはないんだよ」

そう言って俺は封筒を差し出した。

「これはセキくんへの想いが詰まった荷物なんだよ。受け取ってもらえないかな?」

セキくんは封筒を見つめると躊躇いながらも受け取ってくれた。不安そうな表情のまま封筒を開けると手紙を手に取って黙り込んだ。

「怖い?」

俺がそう聞くと静かに頷いた。少し考えてから俺は質問をした。

「セキくんはさ、喧嘩して仲直りしようと思ったらどうする?」

「謝るよ」

「どうやって?」

「直接言う」

「それが出来なかったら?」

「そしたら……別の方法を考える」

そう答えた彼は何かに気づいたようだった。

「開けてもいい?」

「もちろん」

その言葉を聞くとセキくんは手紙を開けて読みはじめた。しばらくの間部屋には彼の泣き声と紙の音だけが聞こえていた。


「これ届けてくれてありがとう」

「お礼を言わなきゃいけないのはこっちだよ。受け取ってくれてありがとう」

「俺、届けに来たのがあんたじゃなかったらきっと受け取らないままだった。あんたの我儘のおかげだよ」

「そう?それなら嬉しいな」

「一個聞いてもいい?」

「うん、もちろん。まぁ俺が答えれることか分からないけど」

そう言うとセキくんは少し恥ずかしそうにしながら聞いてきた。

「なんで郵便局で働いてんの?」

「え?働くことになってたから」

「なんだよそれ。参考になんないじゃん」

「ごめん。あんまりな答えで」

「本当だよ」

少し不満げな顔でそう言った彼は年相応の顔になっており、肩の荷が下りたように見えた。

外を見るとあれだけ降っていた雨も止んでおり、時間も遅くなっていたので俺は帰ることにした。セキくんは門のところまで送ると言ってくれたが、時間も遅いので断り、寮の前でお別れをした。俺はあの手紙や俺との出来事がセキくんにとって少しでも良いものになればと思いながら郵便局に戻った。


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