第五話 名無しと配達
梅雨が近づいたからか最近は湿気が多くなってきた。雨が降っていないのがせめてもの救いだななんて思いながら書類仕事をしていれば一つの荷物が届いた。配達するかと思い持ち上げたが伝票が出てこない。
「え、なんで?」
とりあえずイレギュラー含めて分からないことは質問だと思いリアさんを呼んだ。
「リアさーん!ちょっといいですか?」
「いいよ。少し待ってて」
そう言いしばらくするとリアさんは来てくれた。
「どうしたの?」
「あの、持ち上げても伝票が出てこなくて」
「あー名無しね。ユキくんは初めてだよね?」
「はい。今何も分かってません」
「だよね。じゃあ説明させて貰います」
そう言ってリアさんは話し始めた。
「伝票は届け先になる人がいるから出てくるものなの。その伝票が出てこないってことは、現状届け先になる人がこちら側にいないってことになる。そしてこう言う荷物を私たちは名無しって呼んでるの。けど名無しもずっと名無しって訳じゃなくて、再配達になることもある。説明としてはこんな感じかな。何か質問は?」
「はい。こちら側にいないっていうのはどういう事なんですか?」
「えっとね、魂が見つからないとか、こっちに来ることを望まないとかでこちら側にいない、要は所在が分からない状態って事だね」
「居場所が分からないから座標も書き出せなくて伝票が作れないって事ですか?」
「そう。それに名前も分からないから」
「名前ですか?」
「うん。こっちに来るとみんな名前つけ直すからさ、名前そのままの人もいれば変える人もいる。もし届けるってなった時に名前が違うと困るでしょ?」
「はい。それはとても」
「だよね。だからってのもあると思うよ」
「なるほど」
「ちなみに名無しはこっちから別の場所に送るんだよ」
「送るってことはこのテーブル使うんですか?」
「そう。これ貼ってからテーブルに置くと、本部の方に送られるの」
「本部ですか?なんで?」
「広くて場所が余ってるから荷物置いておけるっていうのと、再配達になったらすぐにこっちに送れるからかな」
「結構効率重視なんですね」
「まぁ、そうだね。私たちもすごい忙しくなる時期があるから、そういう時の為の仕組みって感じかな」
そう言ってリアさんは荷物を本部に送った。
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それから数週間が経ち、梅雨が本格的になったこともあり雨の日が続いていた。こんなに雨が降っていては気分も沈んでいくものだと思っていたら一つの荷物が届いた。
それはこの前本部に送った荷物だった。どうやら再配達になったらしい。配達に行こうと準備を始めたところでリアさんに声をかけられた。
「再配達行くの?」
「はい。そのつもりです」
「なら伝えておきたいことがあるんだけど」
「何ですか?」
「あのね、再配達の荷物は比較的受け取り拒否される事が多いの。受け取らない理由はそれぞれにあるから要らないって言われたら持ち帰ってきて」
「……分かりました」
「なんか納得いかないって顔だね。まぁ、気持ちは分からなくはないけどね」
「だったら」
「私たちは繋ぐことしかできないの。でも私はそれで良いと思ってる。だってどうしたいか、どうするべきかはきっと本人が一番分かってると思うから。私は荷物を受け取る権利を持ってる人が自分にとって必要かどうかを選べるように届けてる。私はね」
「え?」
「ユキくんにとっての答えと違っていても良いんだよ。ユキくんはユキくんの答えを探して。自分で考えて見つけたものを持ってるって事が今後きっと役に立つし、ユキくんの為にもなると思うから」
そう話すリアさんの顔はいつになく真剣だった。
準備をしている間も俺は考えていた。
届いて欲しいと思われてここに送られてくるんだから、それを届けるのも受け取ってもらうことも当たり前だって思ってた。でもそれじゃ多分ダメなんだ。だってこれは俺が配達をすることの理由じゃない。俺にとっての答えってものはあるはずなんだけど、それがなんなのか現状俺は分かってない。ちゃんと見つけられるのかな?そんな不安を抱えながらも扉を開け、俺は装置に伝票を置いた。座標が映し出されたのを確認して円の中に入った。
目を開けると俺は門の前に立っていた。門の中はとても広く綺麗で、沢山の子供の声が聞こえる。学校かな?と思い見ていれば警備員だろう人に声をかけられた。
「お兄さん。何かようですか?」
「あ、はい。異界郵便局のものでして、荷物を届けに来たんですけど。中に入れてもらう事って出来ますか?」
「あー郵便局の方。入れますよ。カード見せて貰っても?」
「はい。ちょっと待ってください」
そう言って俺は首からカードを外した。
「これお願いします」
「ありがとうございます。見せて貰いますね。
いやそれにしても、かっこいいですね制服。初めて見ましたよ」
「そうなんですか?」
「そうですよ。そもそも異界郵便局の方に会うのが初めてですし」
「え?あー場所とかも関係してます?」
「まぁそれもありますけど、あっちから荷物が届く人自体少ないってのもあると思います。届く数が少ないと配達の頻度や働く人員も少なくなるじゃないですか。だから異界郵便局の方に会ったことがあるって人が少ないんだと思います」
「そうなんですね。知りませんでした」
「働いている方は意外と知らないかもですね。カードありがとうございます。確認終わったので入ってもらって問題ないです」
「あ、ありがとうございます」
「一応伝えておくと、ここの道を真っ直ぐ行くと生徒用の下駄箱に着きます。そこから向かって右に曲がると職員室になってるので、何か聞きに行ったりすることがあればそこに向かう方が良いかもです」
「ありがとうございます。とても助かります」
俺は警備員さんにお礼を言って歩き始めた。
教えて貰った通りに進み職員室までたどり着いた俺は、扉をノックをした。
「失礼します。異界郵便局のものです。セキさんに荷物のお届けに来ました」
「セキくんに荷物ですか?」
「はい。セキさんをご存知で?」
「えぇ、うちの生徒です。少し待っててもらえますか」
そう言うと一人の男性を連れて来た。
「こちらセキくんの担任をしているヤグルマ先生です」
「初めまして。ヤグルマと申します」
「初めまして。異界郵便局から来ましたユキです」
「セキくんに荷物がきてるんですよね?セキくんのところまで案内します」
そう言うとヤグルマ先生は歩き出した。階段を上りいくつもの教室を通り過ぎて、三年二組という看板が下げられた教室の前でヤグルマ先生は止まった。少し待っていてくださいと言い教室に入って行った。
しばらくして一人の男の子を連れて戻って来た。
「彼がセキです。こちらは異界郵便局ってところで働くユキさん。セキに渡すものがあるんだって」
そうヤグルマ先生が説明するとセキくんは警戒しながらも挨拶してくれた。
「セキです。初めまして」
「初めまして。異界郵便局のユキと言います。セキくんへの荷物を預かってて、今渡してもいいかな?」
「うん。大丈夫です」
そう言ってくれたセキくんに俺は荷物である封筒を渡した。封筒を受け取って中を確認するとセキくんは言った。
「要らない。俺はこれ受け取らない!」




