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異界郵便局  作者: 翠雨
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第四話 手のかかる荷物 後半

目の前には緑が広がり、近くでは小鳥が鳴いている。空気も澄んでいて良い気分となれれば良かったのだが、俺は今冷や汗が止まらない。

ここどこ?てか絶対に届け先の座標じゃないと焦る俺とは裏腹に俺の腕の中でニャーと鳴いている事の元凶はとても機嫌が良さそうだった。

「おまえやったな!どうするんだよ。ここ絶対違う場所だぞ」

と軽く怒ってみてもまるで気にしていない。どうするべきかと考えているとジリリリと何かが鳴った。音の出所を探してみるとバッグの中の懐中時計からだった。その懐中時計を手に取ったときリアさんのこの中に入ってるのは仕事で使うものや緊急時に使えるものになってるからという言葉を思い出した。俺はすぐに懐中時計を調べ始めた。パッと見特に変わったところは無い。じゃあ開けてみるかと思い上のボタンを押したら音が止まった。開けたことで時計じゃなくコンパスだと分かり、もう少し調べようとした時リアさんの声が聞こえた。

「もしもしユキくん、聞こえてる?」

「はい、聞こえてます」

「一応確認なんだけど、装置に伝票読み込めた?」

「おそらく読み込めてないです。青く光ってなかったので」

「やっぱり。今ユキくんが持ってるのコンパスなんだけど、その中に二つ点がない?」

「あります。黒いのと赤いの」

「それ黒い点は配達場所で、赤い点は今ユキくんがいる場所になってるの。二つの点どれくらい離れてる?」

そう言われ見てみると二点は案外近い場所にあった。

「そこまで離れてないと思います」

「そう!それなら良かった。じゃあとりあえず黒い点に向かって移動して見て。何か分からないことがあればこのコンパス使って連絡して。コンパスを開ける時に押したボタンを二回押してもらえれば私に繋がるようになってるから」

「分かりました。困ってたので助かります。ありがとうございました」

「いやいや、こういうアクシデントは焦るし困るものだから。変に気にする必要ないよ。それと、もし移動で交通機関使うならカード見せればいいからね。場所によっては確認にちょっと時間かかるかもだけど、確認さえ出来ればタダで乗れるようになってるから。

じゃあ、気をつけてね」

「はい、本当にありがとうございます」

通信が切れたのを確認したら早速黒い点に向かうことにした。ありがたいことに赤い点の方は、進むべき方角を示してくれるようになっていた。これなら迷う心配もなさそうだと思い、クロを抱えて歩き出した。



しばらく歩いたところで駅が見えてきた。設備が整っているとは言い難いが綺麗に掃除がされている駅だった。駅員であろう人を見つけ俺はカードを首から取った。

「あのすみません。異界郵便局のものでして、移動で電車を使いたいんですけど」

「あーはい。分かりました。カード見せてもらっていいですか」

「はい。これです」

そう言って俺はカードを渡した。カードは思ったより早く俺のところに返ってきた。

「確認終わりました。ご乗車いただいて問題ありません」

そう言うと駅員さんはホームに繋がる道に通してくれた。

「ありがとうございます。助かりました」

そう伝えると俺たちはホームの方に歩き出した。所々壊れたホームの屋根は日向ぼっこに適していたようでクロは日が射しているベンチで昼寝を始めている。呑気なものだと思いながら辺りを眺めていれば、ボーっという音を鳴らしながら電車がやってきた。俺は寝ているクロを抱き上げ電車へ乗った。


電車は思っていた以上に人が乗っておらず、俺は少し安心した。もしクロが起きて動き回るようなことがあっても、これなら迷惑はかからないだろうと思ったからだ。

それにしても本当に緑が多く、空気が澄んでいる。建物も公共施設と思われるものしか見ないのでここら辺は住んでいる人も殆んどいないのだろうが、過ごしやすそうでいい場所だ。

「クロがいなければこの場所を知ることもなかったんだろうな。一応感謝しなきゃかな」

そう呟いたところでクロが起きた。

「おはよう。起きたのか?」

その質問にクロはニャーと答え俺の膝に乗ってきた。窓の外が気になるのか必死に前足を上げていたので抱っこしてやると嬉しそうにまたニャーと鳴いた。

緑より建物の方が多くなってくると乗ってくる人も増えてきた。俺はクロを抱えたまま邪魔にならないよう端の方まで移動した。外の景色から緑が消えてきた頃、コンパスの示す方角が変わった。それを見て俺たちは電車を降りた。


駅に着きコンパスを見るとまた方角が変わっていたが、赤と黒の点はあと少しというとこまで近づいていた。俺は再度気合いを入れ歩き出した。

コンパスが示す方向は石畳になっている大通りだった。道が舗装されているから歩きやすく、人通りも多い。クロが勝手をしないよう気をつけないといけないと思っていると、突然暴れ出し飛び出して行ってしまった。急いで捕まえようと走り出したが追いつくことは叶わずどんどん距離ができてしまう。クロに止まれと言おうとしたら小道の方に入って行ってしまった。それはコンパスが示していた方角とは違う方だ。

「クロ待て!そっちじゃない!」

そう言った頃にはもうクロの姿は見えなくなっていた。俺は急いで後を追い小道に入った。どこに行ったのか探そうとしたが、その必要はなかった。クロはお爺さんの腕の中にいたのだ。

「クロ!」

俺がそう叫ぶとクロはニャーと鳴いた。それを聞いたお爺さんは嬉しそうに言った。

「やっぱりお前クロか」

それにクロは心底嬉しそうにニャーと返した。


その様子を見て一つの可能性が浮かび、俺はお爺さんに質問をした。

「あのすみません。異界郵便局のものなんですが、テンさんですか?」

「はい、テンです」

やっぱり。じゃあこの人がクロの届け先だ。

「テンさんへのお届け物なんです。クロが」

「え!どういうことですか?」

俺は荷物が届く原理や、郵便局の仕事についてテンさんに説明した。

「なるほど。じゃあ誰かが私にクロを届けたいと思ってくれたということになりますね」

「はい。そういうことになると思います」

「一体誰が?」

と言ってしばらく考え込んだかと思うと、クロを抱き上げてテンさんは言った。

「お前拾ってもらってたのか」

「え?どうして分かるんですか?」

「首輪です。この首輪私がクロに上げたものと少し違うんですよ。おそらく元の首輪をリメイクして作ってくれたのだと思います」

「ということは、それを作った人がクロの送り主だと」

「そういうことになると思います。あの、顔を知らない相手にでも荷物を送ることは出来るんですか?」

「理論上は可能だと思います」

「そうですか」

そういうとテンさんはクロと目を合わせた。

「お前いい人に拾って貰ったんだな。良かったよ。お前のことが私は心残りだったんだ。ごめんな、急に会えなくなって」

そう話すテンさんにクロはニャーニャーと嬉しそうに返事をしていた。


「届けてくださりありがとうございました。この子運ぶの大変だったでしょう?」

「いえそんなことは」

「気を遣わなくていいですよ。ご迷惑おかけしたのは顔を見れば分かりますから」

「そんなに疲れて見えますか?」

「まあそうですね。少なくとも振り回されたのは分かるといった感じでしょうか」

「なんかすみません」

「いやいや、私は嬉しいんですよ。この子とってもマイペースだから、一緒に行動するのは慣れてない人には大変だっと思うのに、ちゃんとこの子のことも考えて動いて、届けてくれた。君に届けてもらえて良かったよ。本当にありがとう」

「いえ、そう言ってもらえて俺も嬉しいです」

「気をつけて帰ってね」

「はい。テンさんもお元気で」

俺がそう言うとクロは俺の足元まで来てくれた。

「クロも元気でな」

と言って撫でるとニャーという返事が返ってきた。

一人と一匹に見送られながら俺は大通りの方へ歩き出した。

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