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異界郵便局  作者: 翠雨
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第二話 青い花束

そう言われ見せられたのは先程届いたばかりの封筒だった。

「一人でですよね?」

「そうだね。基本的には一人で配達してもらうことになってるけど、今日はついていこうか?」

その言葉に少し悩んで、俺は断ることにした。今後は一人になるということなら一人の状態にできるだけ早く慣れた方がいいだろうと思ったからだ。

「いえ、一人で頑張ってみます」

と俺が言うと、すぐに笑って

「分かった。じゃあお願いするね」

と言ってくれた。準備を始めようとしたところ

「少し待ってて」

そう言ってリアさんは別の部屋へ行ってしまった。しばらく待つと一つのバッグを持って戻って来た。そのバッグは明らかに質も造りもよく、高そうに見えた。

「はい。これユキくんのバッグ」

「え?このバッグですか?」

「そう。この中に入っているものは上からの支給品で、仕事で使うものや緊急時に使えるものになってるから出来るだけ大切に扱ってね」

そう言って渡されたバッグは、中身のせいもあるのか想像より少し重く感じた。

「あとこれも」

そう言って渡されたのは首から下げれる紐がついたカードだった。

「これは分かりやすく言うなら社員証みたいなものかな。個人情報含め、いろんなデータに紐づく情報が入っているものになるから失くさないように。公共機関の類はこれがあれば大体どうにかなるよ。帰りもこのカードを見せれば扉まで案内してもらえるようになってるから」

「分かりました。ありがとうございます」

そう言って俺は受け取ったカードを首から下げた。配達する予定の封筒をバッグにしまっているとリアさんから最後のプレゼントと帽子を渡された。

「その帽子は制服の一部で、配達に行く時に被るって決まってるの。ここにいる間はあそこに掛けておく。鏡の横だから分かりやすいでしょ」

そう言ってリアさんが指を差した場所には自分が持っているのより少し小さめの帽子と鏡があった。

「見てきたら?自分で被った方が気合も入るんじゃない?」

そう言われ俺は鏡の前まで移動して帽子を被った。制服のおかげか自分が思っていたより様になっていて少し驚いた。

「わぁ!似合ってる!ちゃんと郵便局員に見えるよ」

確かに鏡に映っているのは郵便局員で、俺は本当に郵便局員になったんだなと改めて実感した。

「初配達、頑張れそうです」

「それは良かった。頑張れ!」

俺はすぐに装置のある部屋へ移動した。装置に伝票を置き、青く光って座標が映し出されたの確認してから円の方へ歩き、足を踏み入れようとした時声がかけられた。

「初めてなんだから分からなかったり出来ないのは当たり前。だから何かあったら戻っておいで。ユキくんがここに帰ってくるまで私はここにいるから」

「はい。ありがとうございます。行ってきます」

そう返し円の中に入るとゆっくりと床が光だした。どんどん眩しくなって周りが見えなくなっていく中、いってらっしゃいというリアさんの声が聞こえた。



眩しさが少しマシになり目を開けてみるとそこは花畑の中だった。どこを見ても一面青い花が咲いていて人の気配もない。とりあえず歩いてみるしかないと思い俺は歩き出した。

見える場所はどこまでも綺麗な青が続いてたのだが、その中に一本の道が見えてきた。その道は少し高くなっている丘のような場所に続いており、その上には小さい家が立っていた。

「あそこかな?」

そう思い歩き出した俺の足は心なしか速く感じた。家へ向かうにつれ花はより多く綺麗に咲いているように思えた。本当に綺麗な花で、なんて名前なんだろうと思っていると家の入り口が見えてきた。

家は思ったより大きく、とても綺麗にされていた。扉の前で一度深呼吸してから俺はドアノッカーを鳴らした。

「異界郵便局です!お荷物をお届けに参りました」

言い終わると中からバタバタと音がし同時に

「今行きます」

と声がした。

少し待つと扉が開けられ中から女の人が出てきた。

「お待たせしてしまいすみませんでした」

「いえ、全然待っていないので大丈夫です。えっとルリさんですか?」

「はい。そうです」

「ルリさん宛にお荷物を預かってます。こちらになります」

そう言って俺は封筒を渡した。少し警戒しながらもその封筒を受け取って開けると彼女は泣き始めてしまった。

突然のことに俺は驚き動揺してしまったが、そんな俺を見て彼女は少し笑った。そして

「まだお仕事残ってますか?お時間あるなら少しお茶に付き合って頂けませんか?」

と提案してきた。

急ぎの仕事も無い、なにより泣かせてしまった可能性がある人に何も出来ず帰るのは申し訳ないということもあり俺は提案を受けた。


案内されるままテーブルに着くと彼女はお茶を入れにキッチンに行ってしまった。一人になったことでどうしたらいいのか分からず、とりあえず遠くを見つめようと外を見て気づく。

「青じゃない」

「えぇ、そうなんです。こっち側は白と黒で、反対側が青になってるんです」

「綺麗に青だけ分かれたんですね」

「いえ、私がこっち側に青色だけ植えたんです」

「え。それはどうして?」

「私がここに居るって分かってもらえるように」

どういうことかと聞こうとしたところでお湯が沸いて、彼女はまたキッチンの方に戻ってしまった。

林檎のような香りのハーブティーと青っぽい可愛らしい花形のクッキーを持って彼女は戻ってきた。

「このクッキーって外にある」

「そう!あのお花をイメージしたの」

「やっぱり!似てるなと思ったんです。何の花なんですか?」

「ネモフィラ。外に咲いてるお花は全部ネモフィラなの」

「青だけじゃなくて白や黒もですか?」

「うん、そう」

「この花が好きなんですね」

「えぇ。彼がよくくれたお花だったの。私の花だからって」

「ルリさんの花ですか?」

「そう。ネモフィラの別名は瑠璃唐草(るりからくさ)。だから私の花だって」

「じゃあ、何で青色だけ?」

「瑠璃色って何色か分かる?」

「いえ。そういうのあまり詳しくなくて」

「青色なの。紫みを帯びた濃い青のことを瑠璃色って言うの。だから青いネモフィラは私の花だって」

「それで青色だけ植えたんですね。反対側が青じゃないのは何か理由が?」

「あちら側は元々咲いていたお花なの。せっかく咲いているものを摘んで変えてしまうのは気が引けて。逆にこちら側はちょうど何も咲いていなかったので、ならこちら側に青色を植えようと思って。ネモフィラが育つ環境であることはもう証明されてましたから」

そう話す彼女はとても幸せそうで思わず

「本当に大好きなんですね。花も彼氏さんも」

と言葉がでた。すると

「彼氏じゃないの。正確に言うなら婚約者になるかな。結婚の話しはしてて、式場まで決めてはいたんだけど、私が死んじゃったから結婚は出来なかったの」

「あの、死因って聞いても?」

「病気。見つかったときにはもう手遅れでね。先生達も手は尽くしてくれたんだけど……」

そう少し悲しそうに笑って話すルリさんになんて声をかけるべきか迷って、俺は封筒のことを思い出した。

「あの、封筒って何が入っていたか聞いてもいいですか?」

「もちろん。というかこれを届けてくれたお礼を少しでもしたくてお茶に誘ったの!」

「お礼ですか?てっきり俺が泣かせてしまったのかと思ってたんですが」

「そうだったの?そんなことないわ。むしろ感謝してるの」

「感謝ですか?」

「そう。これ見てみてもらえる」

そう言って彼女は封筒を差し出した。俺は封筒を受け取り中を見てみた。中には手紙とアクセサリーが入っていた。

「良ければ手紙の方も読んでみて」

静かに頷いて俺は手紙を読み始めた。

『ルリへ

これが君に届いていることをまず何より願っています。

生前の君にはたくさんの苦労をかけたと思う。僕が優柔不断なばかりに結婚も結婚式も遅れて、行うことすら叶わなかった。こんな奴にはとっくに愛想を尽かしてしまったかもしれない。

けれど、まだ少しでも僕に気持ちがあるなら、僕にチャンスをくれるならこのイヤリングを持っていて欲しい。

結局生きている間に君に青い花束は渡せなかったけど、今度は抱えられないくらいの花束を持って絶対に君に会いに行くから』

読み終える頃には俺は泣いてしまっていた。そんな俺にティシュを渡しながら彼女は教えてくれた。

「このイヤリングね、本物のネモフィラが使われてるみたいなの。生前に私が、綺麗なまま持ち歩ければ最高の思い出として残るのにって言ったことがあったからそれを覚えていてくれたんじゃないかなと思うんだけど」

そう話しながら彼女はイヤリングを手に取って耳につけた。

「とってもよくお似合いです」

「ありがとう」

そう言って笑う彼女をネモフィラの花がより綺麗に見せているようで、確かに彼女の花だなと俺も思った。


玄関まで来たところで彼女からネモフィラの栞を渡された。

「これよければ。ドライフラワーにしたものを使ってるの」

「いいんですか?」

「えぇ、私と彼をまた繋いでくれた恩人ですもの。何かは渡したくて」

「ありがとうございます」

「あなたの名前聞いてなかったのだけど、教えてもらえる?」

「はい。異界郵便局のユキといいます」

「ユキさんね。今後近くに来ることがあったらまた寄ってね」

「はい。本当にありがとうございます」

「こちらこそ本当にありがとう。これがあるからきっと会えると思う」

「俺もそう信じてます。では、また機会があれば」

「えぇ、気をつけて帰ってね」


彼女の家から遠ざかっていく間も青い花畑は途切れることなく咲いていた。溢れんばかりの青い花束があるこの場所が二人の再会の場所になれば良いと思いつつ俺は帰路についた。

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