蝋燭
君と向かい合う
地下牢の部屋は、おびただしい数の蝋燭に照らされて居て、炎が揺れると幾百の僕たちの影もそれに合わせて揺らめいた
総ての蝋燭が、僕たちを取り囲む形に林立して居る
これには理由が有って、半分の蝋燭は僕の、もう半分の蝋燭は君の生命を灯して居る
即ち、蝋燭が消えるたび残りの生命が減っていくこの場所で、僕たちは片手で剣を握り、殺し合いを始めようとして居た
『生き延びた少年は、領主様の永遠の寵愛を得る事が出来る』からだ
人を殺す理由には十分過ぎた
僕たちは領主様の食餌になる事を夢視て、これまでを生きてきたのだ
一本の鎖の両端に、犬にでも付ける様な革の首輪が付いている
殺し合いの前には互いに首輪を付けるというのが、館の習わしだった
「来いよ」
君が剣の切っ先を僕に向けて、挑発する
「殺してやる」
強がる言葉とは裏腹に、君の手は微かだが震えて居た
それにつけ込んで、振り下ろすように一太刀
君は剣を握った手を上げて、すんでの所でそれを防ぐ
互いの眼前で鋼同士が連続で打ち合い、薄暗い部屋に稲光のように火花が閃く
争いに巻き込まれて蝋燭が、幾つか倒れては消えていった
ぶつかり合った刃は、最後には互いに鋭さを食い込み合わせ、歯車のように噛み合って鍔迫り合いの様な姿勢で停止した
その隙に僕は剣を打ち捨てて、君の生命を灯した蝋燭を蹴倒す
君が剣を取り落とし、血の気の引いた真っ白な顔で膝を付くのが背中に聞こえた音で解った
「もう抵抗は終わりかな」
君の前髪を掴んで、立ち上がらせる
嘲るように頬を平手で打つと、君は静かに涙を浮かべて「殺せよ」と言った
「僕はね」
掴んでいた手を離す
崩折れ始めた君の胸の辺りを、僕は押し出すように蹴飛ばした
君が力無く後ろに倒れる
僕は屈むと君の顔に、息が触れそうなほど顔を近付けて続けた
「領主様の愛なんて、本当はどうでも良いんだ」
弱々しく細められていた君の眼が、突然視開かれる
「本当は、君の事が欲しかった」
「君さえ居れば、僕には何も要らなかったのに」
君は末期の引き攣りを起こしながら、唇を溺れた魚の様にぱくぱくと動かした
それを僕はにやにやと視降ろしていたが、君が完全に呼吸を手放して瞬きすらしなくなる頃、急に君の唇が紡ごうとして居た言葉に思い当たった
「ぼくもだよ」
はっとして君の顔を視る
その時、勝利者を称える為の一団が、扉を開けて部屋にぞろぞろと入場を始めた




