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闇夜に溶ける影





舞子と鳴海は、さらに「神隠しの森」の奥へと足を進めていた。あたりはますます暗さを増し、木々の隙間から差し込む月明かりも、どこか不気味な影を落としている。「囁き」はもはや遠くの音ではなく、すぐ耳元でささやかれているかのようだった。その声は、舞子の心を揺さぶり、過去の記憶を呼び起こそうとする。


その時、舞子の視線の先に、微かな人影が揺らめいた。黒い髪を長く伸ばし、細身のシルエット。まさか——。舞子の胸が高鳴る。


「奈緒…!」


舞子は思わず声を張り上げた。しかし、その影は振り返ることもなく、まるで霧のように、あっという間に闇夜の奥へと溶け込んでしまった。舞子は慌てて駆け寄ろうとするが、鳴海が足の怪我でついてこられない。


「待ってください、舞子さん! 足元が危ないです!」


鳴海の制止の声も耳に入らず、舞子は影が消えた方向へ向かって走り出した。木々の間を縫うように進むが、影は完全に消え失せていた。そこには、ただ鬱蒼とした木々と、黒い影の「囁き」だけが残されていた。


「くっ…!」


舞子は歯噛みした。幻だったのだろうか? しかし、確かに奈緒の後ろ姿に見えた。あのシルエット、あの雰囲気…。黒い影が奈緒を完全に操っているのなら、奈緒はもはや人間としての意思を持っていないのかもしれない。そして、舞子を誘い込むための幻影を見せたのだろうか。


舞子は深く息を吸い込み、乱れた呼吸を整えた。感情的になってはだめだ。これは、黒い影の罠かもしれない。


「舞子さん、大丈夫でしたか?」


鳴海がようやく追いついてきた。その顔には、心配と同時に疲労の色が濃く浮かんでいる。


「ええ…でも、奈緒の姿が見えたんです。微かでしたが、確かに…」


舞子の声には、まだ動揺が残っていた。鳴海は舞子の言葉に、痛ましげに目を伏せた。


「奈緒は…影に深く操られているのかもしれません。あるいは、舞子さんを誘い込もうと…」


鳴海の言葉は、舞子の心にさらなる重荷をのせた。奈緒が影に利用されている。その可能性が、舞子を突き動かす。


「あの影が向かった方向が、きっと『神隠しの森』の中心に近い場所でしょう。黒い影の力が最も強い場所…。」


舞子は、改めて巻物の地図を確認した。地図に印された場所と、奈緒らしき影が消えた方向が、ほぼ一致する。


「行きましょう、鳴海さん。どんな罠が待っていようと、奈緒を、そして雫を必ず助け出します。」


舞子の瞳には、再び強い光が宿っていた。闇夜に溶け込んだ奈緒の影は、舞子に新たな決意を促した。

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