失踪の影と再燃する疑惑
夜の帳が下りた大島の羽田家は、静寂に包まれていた。しかし、その静けさとは裏腹に、舞子の心には拭い去れない不安が渦巻いている。数日前から、義姉である羽田雫の姿が見えない。そして、その失踪と時を同じくして、水野奈緒もまた、忽然と姿を消したのだ。
舞子は、自室で眉間にしわを寄せながら、記憶を辿っていた。以前、水野姉妹が貞子の抜け殻について語っていた時の、どこか掴みどころのない言葉の端々が、今になって胸の奥でざわつく。
「…貞子の抜け殻を利用する…」
あの時の水野鳴海の言葉が、脳裏をよぎる。まさか、あの時の話が、今回の失踪と関係しているのだろうか? 舞子は、その可能性を排除できないでいた。
その時、スマートフォンの着信音が静かな部屋に響いた。画面を見ると、鳴海からの電話だ。胸騒ぎがした。
「もしもし、鳴海さん?」
舞子の声は、わずかに震えていた。電話の向こうから聞こえてきた鳴海の言葉は、舞子の胸に突き刺さる。
「舞子さん…実は、奈緒が…それから、雫さんのことも…」
鳴海のその声は、疲労と、そしてかすかな焦燥を含んでいた。鳴海は、まだ足を負傷しているはずだ。その状態で、奈緒と雫の失踪に、一体何が起きているというのか。
舞子は、鳴海の言葉から、水野姉妹が貞子の抜け殻について語っていた時の、あの妙な違和感が、確かなものとして心に重くのしかかってくるのを感じた。
「詳しく話してください、鳴海さん。何があったんですか?」
舞子の声には、静かながらも強い決意が宿っていた。失踪した二人、そして水野姉妹の謎めいた言葉。点と点が、舞子の意識の中で繋がり始める。これは、ただの偶然ではない。貞子を巡る戦いが、まだ終わっていなかったのだと、舞子は直感した。