第8章:ヘヨン
私はようやく彼の指から自分の手を引き離した。
事態は完全に私の制御から外れつつある。
ここ数年、私は夜な夜なヤン・マンチュンが息絶える姿を想像していた。
毎晩、孤独に苛まれる度、私は兄の死体を見る。この恐ろしい光景は、私が彼に抱いていた思い出をすべて飲み込んでしまった。
私は無意識に顎を強く噛みしめた。
そして今、弟を殺した張本人が私の目の前にいるというのに、私はその命を奪うことができない。 だが、それが一番の問題ではない。 最悪なのは、彼が私を弄んでいるということだ。 彼は私を真剣に見ていない。まるで私が脅威にならないとでも思っているかのようだ。 そうでなければ、彼がわざわざ私に薬を飲ませたり、妹と私の間に割って入る理由が見当たらない。 彼には、私をどうするかについての計画がある。その計画は彼らしく、陰湿で残酷なものだ。 しかし、自分に正直に向き合えば、ただの恐れや無力さだけが私を押しとどめているわけではない。 まるで私の一部が、彼が私に仕掛けている支配から逃れたくないと感じているようなのだ。
考えにふけっていると、彼の指が私の頬をかすめる。 その触れた感触は炎のように私の肌を焼き、彼の視線に晒されていることに恐ろしく脆弱さを感じた。彼の体が近づいてくることで、息苦しささえ覚える。 「反論もしないんだな」と彼が言った。 私は我に返り、無言のまま彼を見つめ返す。 薄暗い蝋燭の明かりに照らされながら、暗闇の中に彼の忌まわしい記憶がよみがえる。その記憶は、あの不幸な夜のものだ。 その凄まじい記憶が、私の中で渦巻く感情を一掃した。 彼の姿が月明かりに照らされ、その顔には血が飛び散り、彼が私に向き直った時、その足元には動かぬ弟の体が横たわっていた…
彼こそが、私から最後の家族を奪った張本人だ。 そして彼は死ぬべきだ。 楊萬春は最低の男だ。彼は大莫智に公然と反旗を翻したが、それでいて彼自身も大莫智と何ら変わらない。 彼らの手についた血は同じものだ。二人は何一つとして違わない。
「お前の体から毒が出たら、寺へ向かう」と彼は言った。 その言葉に私は震えた。彼は私の正体に気づいているのか? 「寺へ?」と、私は青ざめた声で問い返した。 「父の命日の近い。彼の墓石は要塞の外にある」 私の胸の中で心臓が激しく鼓動を打つ。 なぜ突然こんな提案をするのかはわからないが、この外出は私にとって新たなチャンスを意味する。馬車で彼と二人きりになる可能性が高い。 うまくやれば、護衛たちが介入する前に彼を始末することができるだろう。
彼の唇に笑みが浮かぶ。 「もう俺をどう殺すか考えているのか?」彼は眉を上げて問いかけた。「俺を暗殺できる可能性を見積もっているのか?」 彼は私の意図を完璧に見抜いていて、それを楽しんでいる様子だ。 すべてが彼にとってただの遊びであり、彼は私を挑発するつもりでいる。 すると、彼の態度が突然変わり、今度は脅しの色を帯びた笑みがゆっくりと彼の唇に広がった。 「楽しみにしているぞ、お前が何を仕掛けてくるか」
私は麻のシーツを強く握りしめた。 そして、私は彼を殺す瞬間を待ちわびているのだ。